48:悪路を突っ走れ!エボロク!
悪路をランエボは全速力で駆け抜けていく。
逃げていくうちに次第とランエボは森へ入っていた。
木の間を縫うようにするすると最低限整地された道を抜けていく。
すると曲がり角が現れる。
「……ねぇ、ちょっと?速すぎませんか?」
「・・・。」
「ねぇ、ちょっと。ブレーキ、ブレーキ!」
俺はまだアクセルから足を離さない。
「何やってんのぉぉぉぉぉ!?」
彼女は思い切り踏ん張り体が上に少し上がり、事故ることを覚悟した。
彼女がそれを言った直後に俺はフルブレーキをかける。
「キャァァァァァ!!」
ランエボのAYCをフルに発揮し、そのコーナーを無駄なく駆け抜けていく。
「はぁぁぁぁぁぁ……」
彼女は声が震えながら力が抜け、すとんと元居た位置へ戻る。
「安心している間は無いぞ。次だ。」
「え。」
ランエボはコーナーまであと少しまで接近していた。
「ぎゃああああああああ!!」
「どうかな?何とか追いつこうと頑張っていたが。」
ルームミラーを覗いてみる。
曲がり切れず、木に突き刺さってしまっていた。
「そんなものか。」
ブレーキをかけ、ランエボはぐいと旋回していくのだった。
〘性能も技術も理解も無いんだな。〙
「まったくだ。自分を過信しすぎるとああなるんだ。」
「?」
誰と話してるんだろう。
私は咄嗟に彼の言われるがままこの車に乗ってしまいましたが、賊と同じように誘拐する気なのかも。
けど、彼の言葉には悪意がなかった。
不思議な人。損得で動かない人なんて。
「間一髪だったな。」
平志はアクセルをゆっくりと抜き、少しずつ減速させる。
「貴方は一体……?」
「俺か?さっきも言っただろ?俺の名前は福田平志。平志って呼んでくれ。」
「ヘイジ。それがあなたの名前なのね。」
「ああ。」
「この車の名前はなんていうの?」
「エボⅥ。」
「エボロク?」
「ああ。ランサー・エボリューションⅥ。略してエボⅥだ。」
「ヘイジ。エボロク。貴方たち、私を助けてくれてありがとう。」
「どういたしまして。」
〘当たり前だ。〙
「ところで君の名前は?」
「リーラ。リーラよ。」
「リーラか。いい名だ。」
やっぱりこの人の言葉には温かみがある。
ずいぶんと長い間触れていなかった温かい心が今の私には染みわたる。
冷え切った体を湯船で温めるように。
追っ手を振り切ったランエボは静かにその森を出ていく。
「ずいぶんと速度が落ちたね。」
「ああ。もうそんな速度を出す必要はないだろ?」
「……そうね。」
あの賊たちは本当にそう簡単に私を見逃すのかしら。
あの用意周到な賊なら……
その刹那、ランエボが急加速する。
「どうしたの?!」
「追いかけてきた賊の応援が来てる。」
「そんな……」
嫌な予感っていうのは何でこんなに的中しちゃうんだろう。
リーラはその肩を震わせ、両手で顔を抑え、小さく泣いた。
「だからあいつらをちぎる。すぐバックミラーから消してやる。」
「え?」
顔を上げ、平志へ顔を向ける。
彼はじっと道を見極める目をしていた。
そして、無駄なくクルマを手足のように操ってる。
本当に血の通った身体のように。
だが、賊はランエボを弓で射ろうとする。
「自分も動きながら動く目標に当てられるものか!」
平志の操るランエボはその攻撃を華麗に躱し、5台近くの賊のクルマをいともたやすく振り切ったのだった。
AYCとはアクティブ・ヨー・コントロールの略称でクルマの旋回性能と走行安定性を向上させる電子制御システムのこと。




