34:Think. Feel. Drive. 考え、感じ、走る。
いやー。まさかベンツ・SSとバトる羽目になるとはな~
「世の中どうなるかなんてわからないもんだよな。」
「アンタ一人で行くの?」
「もちろん。重量増やしたくないし。」
「何。アンタ私が重いと思ってんの?」
「たった100グラムの重量が勝敗を左右する世界なんだよ。レースってのは。1km/hですら重要になる。それがレースだ。」
「そういうものなの?」
「ああ。」
にしても、市街地コースか。またサーキットが出たらどうしようかと思ってたぜ。
市街地コースとは言ってもそれほど複雑じゃない。
直角コーナーが基本だが、道路幅は車3台分ある。
市街地レースも考慮に入れて作ったのだろうか。
十分に勝機はある。
ただ、普通に気になるのはこの市街地、整備はされてるようだが建物に人の気配がなかった。
半分スラムなのか?
「なんだぁ?このちっこいの。」
「それが今回のお前の相手だ。フィリップ。」
「このちっこいのが!?」
「悪かったな。ちっこくて。」
「アンタがその車のドライバーか?」
「ああ。プレアデスだ。よろしく。」
手を出し、フィリップはそれに応えて握手する。
「よろしくな。ところでそれの排気量は?」
「660cc。最大出力74馬力だ。」
「660ccで74馬力!?せいぜい数馬力なものだろうに。」
「まぁな。色々やったんだよ。」
「恐ろしい技術力だな……」
「誉め言葉として受け取っておくよ。」
「それじゃあ、始めようか。」
「ああ。」
フィリップとプレアデスは互いの車に乗り込む。
「まさか660ccで74馬力だとは……こっちはせいぜい7Lで200馬力出してひぃこら言ってるものを。」
SSのエンジンが始動し、重低音が腹から響くエンジン音が轟いて空間を支配する。
「こっちも始めるか。」
プレオからは軽い吹け上がりの良いエンジン音が小さく鳴り響く。
「おいおいなんだあのしょぼいエンジン音は。」
「こりゃあSSの圧勝だなぁ!」
観客たちはSSの勝利を確信していた。
国王すら例外ではない。
「あの調子なら我が国のSSが勝利するだろうな。ポッと出のあの小さな車に負けることはない。」
「お父様……」
お父様は私があの車に乗って私の運転していたSSKを追い回していた車を容易くちぎったプレアデスさんの車に勝って自国の技術力を誇示したいのだろう。
けどわかる。SS程度ではあの車に手も足も出ないって。
性能で負けていたとしても、あの人の運転技術は並のドライバーのそれではない。
まるで、彼のような……
「なめてかかる奴に吠え面かかせるぞ!プレオ!」
プレオはその小さな車体に秘めた小さなエンジンで吠えた。
「Think. Feel. Drive!」
ただ、スイッチは74を指していた。
つまり、150馬力ではなく、74馬力で臨むということだ。
「ただ、まずは後ろでじっくりと観察させてもらうぜ。」
圧倒的不利から逆転する。最高の展開じゃないか。
そういう話は俺の大好物なもんでね。
「それに、相手の癖や欠点、隙を見つけてじっくりと仕留めようじゃないか。」
2台が並んでいる間に人が一人入ってくる。
スタートカウントをするのだろう。
「今回のレースは5周だ!勝者は先にゴールしたもの。ただし、相手をクラッシュさせる行為は原則禁止とする!」
「もちろん。スポーツマンシップには乗っ取るさ。」
「あたりまえのことだ。」
「よし。それでは、スタート10秒前!」
2台のエンジン音が轟く。
勝つのは重低音を轟かせるメルセデス・ベンツ・W06・SSか、それとも、スバルの驚異的な技術によって生み出された軽と呼ぶにはあまりにも高性能すぎるスバル・プレオRSか。
片や旧世代のレースの申し子。片や20~21世紀でスポーツ走行能力が高いマシンに改造を施した楽しく走るマシンか。
どちらが勝つのかは怪しいところだ。
その勝利の行く末は、ドライバーの技量に委ねられるのだ。




