9:プレアデスとイケメン君。
俺はインプレッサのボンネットを開き、エンジンルームを眺める。
「なるほど。魔導車とは全く違うな。」
「うわっち!」
今日の朝に窓コンコンしてたイケメンんんん!?
「なぁ。これ魔導車じゃないだろ?」
「……そもそも俺は魔導車を知りません。魔導車はどういう原理で動いているのか、動かすにはどんなものが必要なのか、どれくらいの性能を発揮するのか。俺は知らないんです。」
「魔導車の原理は国家機密だ。俺だって知らん。ただ、動かすのに魔力が必要だ。その上、引っ張る力は非常に強いが、並の馬車と同等程のパワーしか出ない。それでも補給するのに立ち止まる必要もないし、素直に言うことを聞くため重宝されている。非常に貴重なものだ。」
「馬何頭分のパワーがあるんですか?」
「通常の2頭分の馬車と同じくらいの速度が出る。」
「ざっと時速6~12キロか。」
「しかし減速性能が極めて低いため、街に入ると非常にゆっくり走行する。」
「ブレーキがないと!?」
「あるにはあるんだが、気休め程度にしかならないのさ。」
あー・・・あれか。リムブレーキのブレーキパッドが片方しかないみたいな感じか・・・。
たしかタイヤを押さえる方式だったよな。
「ただ、引っ張る力が強いということはトルクが太いってことだよな。」
「トルク・・・?」
「車輪を回そうとする力が大きいってこと。」
「なるほど。そういうことか。」
イケメン君はポンと左手を右手で叩く。
計測器があれば是非ともトルクを測ってみたいものだ。
「それで何で来たの?」
「陛下がそれの性能を知りたいそうだ。」
イケメン君はインプレッサを指さす。
「えぇ……?」
俺は燃料の話をしていたのに性能を知りたいのかと軽く引いてしまった。
「手に入れられないにしろ、性能は知っておきたいそうだ。」
「まぁ……ハイオクが手に入りそうだし。いいか。」
「はいおく……?」
イケメン君は中性天然水と同様に困惑していた。
「いいよ。相手は?」
「国の中でもトップクラスの速さの馬と魔導車だ。」
「へぇ……競馬みたいな速度出てるのかな?」
確か競馬は時速60キロだったっけ。楽しみだなぁ。
「明日やるそうだ。それまでに会場にそれを持って行っておけ。」
「分かったよ。それじゃあ今から持っていこうか。」
「隣に乗ってもいいか?」
イケメン君が剣を鞘ごと引き抜いて聞いた。
「いいよ。」
ドアを開けてイケメン君を僕はインプレッサに招き入れた。
俺はキーを差し込むと回し、セルモーターがけたたましく鳴り響き、エンジンが低く唸り始める。
「本当に魔導車じゃないんだな……魔導車は殆ど音を鳴らさないんだ。」
「まるでモーターだな。」
「もーたー?」
またもやイケメン君は頭にはてなを浮かべていた。
「いや、こっちの話だ。」
こうして運転しているとあの日を思い出すな。
(減速しないだと!?……まさか。)
ハイドロプレーニング現象か……!
(戻れ!GC8ォ!)
「………俺はお前を守ってやれなかった。……ドライバー失格だ。」
俺はぼそりとそう呟いた。
「何か言ったか?」
「何も。」
俺は振り向かない。GC8はこの世界で再び俺と共に進もうとしてくれている。
後ろに引っ張られちゃいけない。
前を向いて進まないとな。
〘You're not to blame. So please, don't blame yourself.〙