106:RX-8、触らず維持。
「葉月おねえちゃん!」
「どうしたの?」
「私の86、どうだった?!」
「すごく調子いいよ。吹け上がりもいいし、」
葉月と呼ばれたその女性は86を静かに撫でた。
「葉月おねえちゃん。なんか元気ないね。」
「こうしてみてると先輩を思い出すんだよ。」
「インプレッサに乗ってたっていうあの?」
「ええ。今でも覚えてるわ。ぐしゃぐしゃになったインプレッサのハンドルシャフトが先輩の腹に深々と突き刺さってるあの姿を。」
「……。」
「ごめんね。10歳の子に言うようなことじゃないよね。ごめん。」
「そうだね。気持ちを明るくして明日のNRC3に行こうよ!」
「ありがとう。」
「お姉ちゃんはNRC2でしょう?」
「そうだね。」
「それじゃあさ。一緒に行こうよ!」
「一緒に?」
「ほら、カーキャリアあるじゃない。」
「あるね。」
「いつもは社員さんに持って行ってもらってるけど、今回は葉月おねえちゃんが連れて行ってよ!」
「そうね。偶には、いいわね。」
二人はカーキャリアにRX-8とGR86を積み込み、ターマック本会場へと向かっていくのであった。
「ついたぁ!」
「久しぶりにここに来たわね。」
「前に来たことあるの?ここが解禁されたのって17年ぶりって聞いたけど……」
「その最後の年に来てたからね。」
「そうだったんだ!」
「走ったことはないから来たことあるだけなんだけどね。」
「そうだったんだ。」
「車に関して言えば12年前から何も変わってないんだけどね。」
「そりゃまたなんで。」
「ちょっとした理由があるのよ。」
そう、私はあの日から殆どRX-8に手を付けていない。
だから馬力だってたった280馬力しかない。
あの人のROM技術は常軌を逸してる。
専門職の人でもどうなってるのかわからないとさじを投げたような代物。
それでいて動作は完璧。
何をしたらそんな芸当ができるのだろう。
ROMを弄ってしまえば全てのバランスは崩壊してしまう。
データの値ひとつを変えるだけで性格がまるっきり変わってしまうとも言われた。
まさか。
けど、他の人が手を入れたROMはとてもじゃないが同じ8とは思えなかった。
それほどのものだったのだ。
「今更ながらにあの人はすごいと思うわ。」
「完璧な仕上がりのROMを組んだんだよね。」
「ええ。」
その直後のことだった。
スピーカーからドでかい
「サァ、始まりました!ニッポン、ラリーチャンピオンシップセカンドクラス2022!今回で全てのレースは終了!250~450馬力部門の優勝候補はホンダ・シビックFK8!マツダ・RX-8!トヨタ・GRヤリス!この3台に絞られました!一体今回は誰が優勝するのでしょうか。解説の森田さん!」
「一概にこの人!と言えるような人はいませんが、駆動方式的に言えばやはりGRヤリスでしょうね。」
「WRC車両というのがやはりありますか!」
「ええ。こういったコースには強いでしょう。その次に考えるならやはりシビックFK8でしょうか。パワーもありますし、ニュルブルクリンクで高記録を出してるのも大きいですね。」
「それではRX-8はどうなんでしょう?」
「車単体の性能で言うならばとてもではありませんが前述の2台に勝てる要素はどこにもありません。弄ってあるとは言っても280馬力ですから。その上、もう20年近く前の車ですから設計の古さも出てくる可能性がありますね。」
「そうですね。それにカタログ値は250馬力と聞いていますが、それでは30馬力しか向上していないことになりませんか?」
「車はパワーだけあればというわけではありません。ドライバーとの相性もあります。ただ、一番大きいのはその馬力を完璧に扱える領域まで車を一体化しているのであれば私の経験則ではテクニカルコースで280馬力で500馬力を追い回すことは可能です。20年も寄り添ってきた相棒ならより扱いやすいはず。」
「なるほど。だから優勝候補になれたということですね。」
「きっとそうでしょう。」
「すごい分析だね。おねえちゃん。」
「本当に。」
ターマックは舗装路のこと。




