葛湯で許してくれませんかね?
14:00になってしまった!麦畑だよ٩(๑❛ᴗ❛๑)۶
缶の中身が裕福街と貧困街との違いみたいだね〜。
ところで、リンネちゃんはこの世界で何をすべきかな?
※ちょっとエグい描写が入るかも。気をつけて〜。
「…で?僕は何をすれば良いんだ??」
ユウキは困惑していた。とりあえず、この世界が割とガチめに世紀末してる地域と裕福層の地域に分裂しているのは分かった。しかし、だからといってどうすれば良いのか。いくら神様に力を付けてもらっているとはいえ、生身の人間1人でこの状況を打破出来るはずもない。
《アンタ馬鹿ァ?それを考えるのがアンタの仕事の1つ。前回みたいにワタシが開示する例もあるけど、今回は自力で探しなさい。》
そんな無茶苦茶な。
「ま、とりあえず…だ。少なくとも僕はこの世界線をハッピーエンドにすれば良くて…話の流れ的に鍵になるのはテツってところか。」
「何か言ったか?」
テツが視線を缶からユウキに移していた。うっかり心の声が漏れていたようだ。
「なんでもない。で、問題はソレだよ。」
ユウキは缶の中身に指を突っ込む。葛湯のようにとろみがあるのに妙な気持ち悪さがある。
「一応聞くけど。食べられるか食べられないかは別にして、コレを口の中に入れることは出来る?」
恐る恐るテツに聞いてみた。
「出来るな。寧ろ、裕福街の奴等は喜んで口に入れてるんじゃないか?」
テツは嘲笑した。要するに、「食えない」というのは「⦅私たちは⦆食え⦅たものじゃ⦆ない」ってことか。
「コレ、実は万能な軟膏でした〜…ってことにしない?」
ユウキはテツを願うように見つめるが、テツの無表情さからその希望は打ち砕かれた。
「あれ?軟膏じゃなくて本当に葛湯で、ここの人たちは葛湯を知らないだけとか?」
テツの表情は変わらない。
嫌だ嫌だ。口では否定しているけれど、「裕福街が使う液体」というフレーズといい、「食えなくもないが食えない」といい…。
たまたま彷徨っていた死にかけのアリに液体を垂らしてみる。すると、アリは大きく震えて暴れだした。そして、月明かりでできた影の中に横たわる。
頭から声はしないが、アストラがニヤついてる気がする。
さあ、現実とご挨拶願おうか。
「麻薬じゃん。」
数多の雲が月を覆い隠す。横にいるテツは今、どんな表情をしているのだろうか。無表情?それとも、皮肉に満ちた憎しみ?
再び、雲が月から身を引く。
月に晒された彼女はやはり無表情だったが、ユウキを視認するなり徐々に顔を驚愕の表情へと変化させていった。
「…お、お前…。」
呆気に取られているらしく、いくら経っても彼女からの言葉は受け取れなかった。一方、ユウキはどうしてテツが驚いているかが分からず困惑していた。
「どうしたんだ?テツ。そんな顔を青くして。まるで幽霊でも見たような反応じゃないか。もしかして、寒いのか??」
ユウキは心配になってテツの顔を覗き込むが、それでも彼女はユウキを凝視している。
「え。まさか、僕…なんか変なことした?」
テツは答えない。というより、答えられないのかもしれない。
混乱している相手に応答を強要するのはよろしくないのでユウキはテツが落ち着くまで待つことにした。
「姐さん!変な缶を見つけましたぜ!!」
ヒャッハーの1人が元気よく飛び込んで来た。しかし、離陸地点が遠すぎたのか彼の身体はテツとユウキの少し手前に落下してそのまま滑った。
「あ、ああ。見せてみろ。」
テツは正気を取り戻したらしく、ヒャッハーから缶を受け取った。
「ふむ…。さっきのやつと同じデザインだな。」
中身も、先程と同様の液体。
「うえーっ。また麻薬?」
ユウキはうんざりしたように言う。ここの裕福街って思ってたよりも結構治安悪い感じがするな。
「マヤク?なんすか、ソレ。」
ヒャッハーが不思議そうに尋ねた。この反応からして、今まではテツが隠していたのか?
「えーっと。麻薬っていうのは摂取するとさらに摂取したくなる物質の総称…みたいな?大体が有害なんだ。」
初見でも分かるように、簡潔に説明する。
「有害なのに摂取するんですかい?」
それな。麻薬を摂取しようとしている者に言ってやりたい台詞No. 1だよ。
「殆どがストレス発散か暇つぶし、好奇心が始まりらしい。アタシらはそんなことしている余裕はないから食わないが…。」
テツが付け足す。ヒャッハーは訝しげに感の中身を観察している。
「美味しくなさそうっすね。確かに、俺らは食えるか食えないかで区別してるからコレは口に入れないよなぁ。」
ヒャッハーは裕福街の奇行が理解出来ないようだ。
ユウキは未だに指に絡まっている液体を見つめた。液体は重さに負けて、指の隙間から少しずつ流れ落ち始めている。
「人間は強欲なんだよ。あれが叶うと次はこれがほしい。これが叶うと今度はそれが欲しい…。そうやって、永遠に終わらない欲求が続いていく。生きがいを求めているんだよ。アイツらは。きっと、アタシたちもそうなんでしょうね。そして、誰かが欲を追い求める過程で誰かが犠牲になっていく…。」
テツが悲しそうに言う。ヒャッハーも同じく複雑な顔をしているが、ユウキはどこか他人事のように指を見つめ続けていた。右手は液体で使い物にならない。では、左手はどうだろう?
ユウキは次に左手を見つめる。掴んでいた缶がするりとユウキの手から落ちる。真っ直ぐ落ちたので尖った缶の口が左手の親指を軽く抉り取った。
「うん…。普通だ。」
缶が枯れた地面にぶつかって乾いた音を立てる。異変に気づいたテツとヒャッハーはユウキの方を振り返った。
「ユウキ…?」
ユウキはまた右手を見つめる。そして、右手を左手の上にゆっくりと持ってく。
「ゆ、ユウキさん…?」
右手から濡れ落ちた麻薬は左手の親指の上に静かに降り立った。
「っ!!ぁ、あ」
「ユウキ!?」
全身が痙攣する。全身が痛い!!熱い!!アツイ…!
「ぅ、あ゙ああぁあぁ!!」
痛い、気持ち悪い、気持ちいい、痛い
イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイキモチイイイタイイタイキモチワルイタイイタイイタイイタイイタイキモチイイキモチイイキモチイイキモチイイキモチイイキモチワルイイタイイタイキモチイイ…
「ユウキ!!」
「…あ?」
気がつくと、ユウキは柔らかい地面の上に横たわっていた。服は脱がされ、身体には至る所に汗がべっとりとまとわりついている。
「…テツ、と…誰だったっけ?」
ユウキは不鮮明な意識の中で考える。そういえば、まだヒャッハー達の名前を聞いていなかったかもしれない。
「そんなことはどうだっていい!何してんすか、アンタ!!」
ヒャッハーはユウキの首を掴み上げた。流石は世紀末を生きている人間か。力がもの凄く強い。
「うぐっ」
首が締まって苦しいはずなのに感覚をあまり感じない。ユウキは自分の身体に危機感を覚えつつあった。
「姐さん言ってたよな!?危ないって!!なんで…!」
ヒャッハーはユウキの体を揺らそうとする。そして、それを見かねたテツがヒャッハーの腕を掴んだ。
「そこまでだ。病人は横にしないと死ぬぞ。」
ヒャッハーは舌打ちしてユウキを寝かしつける。その所作は思いのほか優しい。
「…なるほど。やはりと言うべきか…。」
いくらかすっきりとした頭でユウキは思考する。テツはユウキが液体のことを初めて尋ねた時、「食えない」と表現した。あれは、食う以外の使い方が本来の使い方といったニュアンスに感じる。それに、あのとろみのついた感じ。軟膏と称したことは、あながち間違いではないかもしれない。
「…ユウキ。お前、何があった?」
テツが尋ねる。
「何…て。見てただろ?」
目が覚めたばかりなせいか、口調が乱れてしまう。
「片栗粉みて…な麻薬を傷口に」
「違う」
テツの顔から真剣さが滲み出ている。テツは堪えきれない様子でユウキを押さえつける。肩には彼女の体温が伝わって温かい。
「分かるか?お前は今、とても冷たい。頭が必死に熱を送っているのに。」
おかしいな。僕からしてみたら別になんともないし、テツの手が温かく感じてー。
温かく感じる?
あー…、なーるほどぉ。今の僕は死に帰り状態…ってわけだ。
ユウキはよりはっきりとしてきた頭を通常よりもゆっくりと稼働させる。
「なあ、」
覆い被さったテツを見ると、テツは折る場所を間違えた折り紙のような顔をしている。また、背後から月が降り注いでいることでテツからは影が落ちていた。
「お前は」
テツって普通の女子より体格良いよな、多分。
ユウキは呑気にそんなことを考える。
「…記憶を失う前のお前は、一体どんな奴だったんだ?」
テツはやっとの思いで引っかかっていたものを絞り出した。
記憶を失う前の自分?
そんなの、僕が知りたい。
ユウキはそう言おうとしたが、その前に口が勝手に動いていた。
「さあ?」
アストラちゃんの顔が見てみたい。そう思わない?
きっとまた頭を弄ってると思うな!




