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第三十三話

 夏の陽射しは、街を白く塗りつぶすかのように強烈だった。蝉の鳴き声が途切れることなく響き、歩道には熱気が揺らめいている。

 鬼塚探偵事務所のドアが開いたのは、昼過ぎのことだった。ドアベルの軽い音とともに、外の熱気をまとった若い女性が入ってきた。


 白いブラウスに薄いベージュのスカート、手には会社帰りの資料鞄。どこにでもいそうな会社員に見えるが、その表情は落ち着かず、眉間には不安が刻まれている。彼女の名は――秋月紗英あきつきさえ。二十代半ば、都内の中小企業で働く事務職員だという。


「……あの、突然すみません。ここ、霊的なことを扱っている探偵事務所ですよね?」


 声は小さく震えていた。

 蓮司はデスクで煙草を揉み消し、短く頷いた。

 里沙は椅子から立ち上がり、冷たい麦茶を差し出す。


「どうぞ、落ち着いて話してください」


 紗英は礼を言ってから、深呼吸しつつ言葉を選んだ。


「……実は、私の実家のことなんです。両親と祖母が暮らしている家に、最近妙なことが起きるようになって……。夜になると、廊下で人の足音がしたり、庭に知らない人影が立っていたり。祖母は昔から霊感が強い人で、また始まったと口にして……。でも、何がまたなのかは、教えてくれないんです」


 蓮司は顎に手をやり、静かに目を細める。

「また始まった……。つまり過去にも何かがあったということか」


 紗英は不安げに頷いた。

「ええ。でも祖母は多くを語らず……私が子供のころも、よくあの部屋には近づくなとかあの夜だけは外へ出るなって言ってたんです。でも、その理由は教えてくれませんでした」


 里沙が問いかける。

「あの部屋やあの夜というのは、具体的にどんな場所や日なのか、心当たりは?」


「……部屋は、祖母の寝室の奥にある物置。滅多に開けさせてくれないんです。それから、あの夜っていうのは、毎年夏の終わり……旧暦のお盆の時期だと思います。今年も、そろそろで……」


 蓮司は視線を里沙と交わす。季節は夏。旧暦盆を前に、何かが再び姿を現そうとしている。

 ――そして、また始まったという言葉が示す通り、それは家系にまつわる因縁なのかもしれない。


 蓮司は椅子に深く腰を下ろし、ゆっくりと言った。

「分かりました。佐々木さん、まずはあなたのご実家を調べる必要がありそうです。祖母が隠してきたもの……そして、その足音や人影の正体を確かめましょう」


 紗英は深く頭を下げた。

「どうか……お願いします。私も家族も、このままでは夜が来るのが怖くて……」


 外では、蝉の声が一層強まっていた。夏の熱気の中で、ひとつの因縁が静かに目を覚ましつつあった。



 夕暮れの光が、畑の緑を淡く染めていた。田舎の小道を抜けると、立派な瓦屋根の日本家屋が姿を現す。木々に囲まれた佐々木家は、都会の喧騒から遠く離れた静謐な空気を漂わせていた。

 だが近づくにつれて、蓮司と里沙の肌には、微かな冷気がまとわりつくように感じられた。


「……この家、ただの古さじゃない」

 里沙が小声で言う。

 蓮司は黙って頷いた。庭の隅に立つ古井戸や、軒下の注連縄に、過去の信仰の痕跡が濃く残っている。


 玄関で出迎えたのは、白髪をきっちりと結い上げた老女だった。背筋はしゃんとしているが、その瞳には長い年月を背負った重みが宿っている。紗英の祖母――佐々木志津しづ


「……わざわざ遠いところを。お噂は聞いております。どうぞお上がりください」


 居間に通されると、志津は急須を手際よく扱い、客人に茶を出した。その所作は落ち着いていたが、どこか心の奥を隠すような固さがある。


 蓮司は静かに口を開いた。

「佐々木さん。あなたのお孫さんから話は伺いました。家で足音や人影が続いていると。そして、あなたはまた始まったと口にされたと」


 志津の手が一瞬、茶碗の縁で止まった。

「……あの子に余計なことを言ったつもりはなかったのですが」


「お祖母ちゃん……やっぱり、何か知ってるんだね」

 紗英が声を震わせる。


 志津は沈黙の後、深いため息をついた。

「……隠し通せるものではないでしょう。いいえ、むしろあなたたちのような方が来られたのならば、話すべき時が来たのかもしれません」


 そして語られたのは――佐々木家に伝わる古い因縁だった。


「この家には……夏の客が来るのです」


 志津の声は震えていた。

「毎年、旧盆の頃になると、名もなき影が現れる。あれは、人ではありません。けれど……人の声を持ち、足を鳴らす。代々の家人は、それを迎えることを強いられてきました。私の父も、祖父も……」


 里沙は眉を寄せた。

「……迎える、というのは?」


「生き血を供えるのです。かつて村に流行り病があったとき、この家の先祖が祈祷師と契りを交わした。その代償が、この家に課された呪いとなった……。私は供物を減らし、幾度も祈祷を試みてきましたが……完全には消えなかった」


 志津はやせた手を固く握り締め、目を伏せた。

「だから、孫には……このことを知らせたくはなかった。だが、もう……」


 その時、背後の廊下からコトリ、と小さな音が響いた。

 志津がはっとして振り返る。

「……来てしまったのです」


 窓越しに射し込む夕陽が赤く染まる中、薄暗い廊下に影が揺れていた。



 コトリ、と鳴った音に続き、畳の上を擦るような足音が響いた。

 長い廊下の向こう――夕陽の朱に染まった障子の影が、じわじわと歪む。人の形をした何かが、そこに立っていた。


 背丈は紗英と同じくらい。だが輪郭は曖昧で、顔はまるで墨で塗りつぶしたように空白だった。

 ただ、そこから発せられる気配は――確かに「視ている」。


「……来てしまったな」

 志津の声は掠れて震えた。

「これが、夏の客。代々この家を訪れる者です」


 影は動かず、低く囁くような声を放った。

「――供物を」


 その一言が居間の空気を凍りつかせた。

 紗英が顔を青ざめさせて後ずさる。里沙がすぐに庇うように前へ出ると、わずかに霊力の波を立てた。


 蓮司は一歩進み、影を真正面から見据える。

「……俺たちが代わりに話を聞こう。ここにいる娘を、これ以上巻き込むわけにはいかない」


 影は首をかしげるように動き、再び声を発した。

「……契りは果たされねばならぬ。七代にわたり、供物をもって続いてきた誓い。それを破れば、血筋ごと、呑まれるだけ」


 志津が悲痛な声で口を挟む。

「やめてくれ……! 私たちは、もう血を差し出すことなど――」


「ならば、絶やす」

 影の声が低く重くなり、障子の影が大きく膨れ上がる。


 部屋の空気が一気に冷え、灯火が揺れ、座敷の四隅から黒い靄が這い寄ってきた。


 里沙が鋭く息を呑む。

「……完全に顕現するつもりだ!」


 蓮司はすぐに身構えた。

「交渉はここまで、か……」


 影は最後に、声を響かせる。

「血か、滅びか――選べ」


 次の瞬間、影の輪郭が破裂するように広がり、畳一面を覆う黒い腕が伸びてきた。



 黒い腕が幾重にも伸び、畳をえぐるように這い回った。畳表が裂け、障子紙が一斉に破れる。

 冷気が渦巻き、居間は瞬く間に異界のような様相へと変わった。


「来るぞ――!」

 蓮司が叫ぶと同時に、影の腕が薙ぎ払う。


 里沙は紗希を庇い、素早く呪符を繰り出した。

 青白い火花が散り、黒い腕は弾かれる。しかしすぐさま別の腕が地の底から湧き上がるように生じ、彼女の周囲を取り囲もうとする。


「速い……っ!」

 里沙が歯を食いしばる。


 蓮司は霊力を掌に集めると、掌底を畳に叩きつけた。

 瞬間、床下から閃光のような気配が走り、黒い腕を裂く。影の本体がわずかに後退し、歪んだ輪郭が軋むように震えた。


「……血筋を守ろうとするのか。それとも縛ろうとしているのか……」

 蓮司が低く呟き、敵を注視する。


 影は呻き声を上げる。

「血は果たされねば……絶やす……絶やす……」


 声とともに、障子一面が黒に塗りつぶされたかのように闇へと変わり、その闇の奥から人影が幾重にも浮かび上がった。

 それは鷹宮家の過去の者たちなのか――苦悶の表情で、腕を伸ばし、呻きながら影と一体化していく。


「これは……代々の犠牲者の怨念……?」

 里沙の声が震える。


 蓮司は即座に決断する。

「――押し返すぞ! ここで呑まれたら、全部が終わる!」


 彼は霊力を全身に巡らせ、まるで白い焔のようなオーラが肩口から溢れた。その圧に居間の空気が震え、闇の腕が一瞬ひるむ。


「里沙、合わせろ!」


「はい!」


 里沙が印を結び、霊符を重ねると、それは光の鎖のように編まれ、影の動きを封じ込める。

 だが影は呻き声を重ね、畳を割って無数の腕を再生させた。


「……ちっ、これが百年の執念か!」

 蓮司は影の正面に立ち、再び両掌を突き出す。


 オーラが閃光のごとく走り、影を大きく押し返した。

 しかし影は決して退かず、呻き声を重ねながら、なおも言葉を投げつける。


「血を差し出せ……さもなくば、一族は滅ぶ……!」



 影が呻きながら再生する無数の腕を前に、蓮司は目を細めた。

「里沙、限界まで解放する。合わせられるか?」


「もちろんです!」

 彼女は震える指先で印を結び、胸奥から霊力を呼び起こす。その周囲に浮かんだ呪符が、ふわりと光を帯びた。


 蓮司もまた、全身を駆け巡る霊力を解き放つ。

 白銀のようなオーラが彼の輪郭を包み、空気が熱を帯びるほどの圧を生み出す。二人の気配が交わり、居間は光と影のせめぎ合いに呑み込まれた。


「……強い。だが、無駄だ……」

 影の声が、重なり合う無数の声となって轟いた。


「お前たち人は忘れたか――。清左衛門が我を呼んだ夜を。あの血の刀で親族を斬り、我に命を差し出したことを!」


 呻きとともに、光景が歪んだ。

 居間の壁が一瞬、森の闇へと変わり、そこに立つ男の姿が映し出された。血塗れの着物をまとい、手には滴る刀を握る鷹宮清左衛門。

 その足元には倒れ伏す男の影。どうやら彼は「一族の血」を実際に捧げたのだ。


「清左衛門は繁栄を願った……だが同時に、自らの弟を斬った。血を捧げる証としてな」


 影は低く笑い、さらに語る。

「七代に渡り血を捧げる契り……それが果たされねば我は祟る。だが、ある代で裏切りがあった。命を差し出すべき男は逃げ出し、契りは歪んだ。だから我は祟り神となったのだ!」


 里沙の目が見開かれた。

「じゃあ……あなたは契約を裏切られた存在……?」


「裏切り? 違う! そもそも人の欲望が我を縛ったのだ! 繁栄のために弟を斬り、その血で契約を結んだ。その罪が、今も一族に続いている!」


 影は全身を震わせ、無数の人影を顕現させる。

 呻く声――「苦しい」「助けて」――それは過去の犠牲となった者たちの声だ。


「……けれど、あんたはもうただの被害者じゃない」

 蓮司の声が響く。

「自分の存在を正当化しながら、百年も人を呑み込み続けてきた。もう戻れはしない――!」


 蓮司と里沙は互いに頷き合う。

 二人のオーラが交わり、ひとつの巨大な陣形を描き出す。床に光の文様が浮かび上がり、鎖のような光が影の腕を縛りつけた。


「これ以上、一族を喰わせはしない!」

 蓮司が吠え、霊力を解放する。


「――鎮め!」

 里沙の声と共に、呪符が光の矢となり、影の胸元へ突き刺さった。


 影は凄まじい咆哮を上げた。

「人よ……お前たちこそ……血に縛られている……!」



 光の鎖に縛られていた影は、突如として咆哮を上げた。

「……人の子ごときが、我を封じられると思うなァァァッ!」


 鎖が音を立てて裂け、黒炎が吹き上がる。居間の壁は一瞬で焼き焦げたように崩れ、空間そのものが歪み始める。

 床板が裂け、闇の底から顔を持たぬ巨影がせり上がった。

 それは清左衛門の怨念と、七代にわたる犠牲者の魂を呑み込み、巨大な祟り神へと変貌した姿だった。


 無数の腕と顔が重なり合い、ひとつの巨躯を成す。

 その咆哮だけで窓ガラスが砕け、空気が震え、蓮司と里沙の全身に圧力が襲いかかる。


「……完全に顕現したな」

 蓮司の額に汗がにじむ。だがその瞳は揺るがない。


「里沙、俺と同調しろ。――全力だ」


「はいっ!」


 二人の霊力が重なり、陣形の光がさらに広がる。

 里沙の呪符が宙に舞い、蓮司の掌から迸る光がそれらを繋ぎ合わせる。二人の力が交錯した瞬間、巨大な結界が形成された。


 祟り神が呻く。

「七代……血を……返せ……!」

 その声と共に、闇の腕が結界を叩きつけ、地鳴りのような衝撃が響き渡る。


「ぐっ……!」

 里沙が一瞬膝をつきかける。蓮司が肩を支え、声を張る。

「耐えろ! これは俺たちの陣だ!」


 蓮司はさらに霊力を高めた。

 その身体の周囲に迸る光はまるで焔のようで、影の黒炎と正面からぶつかり合う。


「お前の契りはもう終わりだ! 血の呪縛を絶ち、ここで消滅させる!」


 祟り神は凄まじい咆哮を上げる。

「終わりはせぬ……人の欲がある限り、我は繰り返される……!」


 その瞬間、巨影から無数の顔が浮かび上がり、苦痛と恨みの声を吐き出した。

「殺された……奪われた……弟よ……返せ……」


 その声は、確かに過去の犠牲者たちのものだった。

 だが、その怨念すら祟り神に利用され、縛られている。


 里沙は歯を食いしばりながら叫んだ。

「本当は、助けてほしいだけなんでしょう……! でもあなたは、怨念に飲み込まれすぎた!」


 蓮司は頷き、最後の構えを取った。

「だからこそ、俺たちが断ち切る!」


 二人の霊力が一点に収束する。

 光が槍となり、呪符が刃となり、祟り神の胸へと一直線に突き立つ――!



 光の槍が祟り神の胸を貫いた瞬間、轟音とともに闇が爆ぜた。

 黒炎が四方へ散り、屋敷全体がきしむ。無数の腕がもがき、顔なき影が咆哮をあげる。


「やめろォォォ――ッ!!」


 その叫びに畳が裂け、柱が軋み、外の木々までもざわめき始める。

 だが、蓮司と里沙の霊力は決して揺るがなかった。


「――解ッ!!」

 蓮司の声と共に、光の鎖が奔流となって祟り神を縛る。


「――鎮魂!」

 里沙の呪符が矢雨のように降り注ぎ、闇を穿つ。


 光と闇が衝突し、悲鳴と共に祟り神の巨躯が崩れ始めた。

 黒い顔が一つずつ霧となり、空へと還っていく。


「……やっと……帰れる……」

 かすかな声は、祟り神に囚われていた犠牲者たちのものだった。


 しかし――最後に残った核のような影が、なおも蓮司たちを睨み据える。

 その目は赤く爛れ、声は深い地の底から響くようだった。


「……だが忘れるな……」

 影の輪郭が砕け、光に飲まれながら、なおも言葉を吐く。


「清左衛門が斬ったのは……弟だけではない……」


 蓮司と里沙が一瞬動きを止める。


「……奴は……子をも……斬ったのだ……。己が血脈を……永く縛るために……」


 その言葉と共に、影は爆ぜるように霧散した。

 屋敷を覆っていた黒炎も消え去り、残ったのは静かな夜風と、焦げた匂いだけだった。


 ――浄化は終わった。


 居間に崩れ落ちた紗英が、震える声で呟く。

「……子を……? じゃあ……一族に残された呪いは……私たちの血の中に……」


 里沙が彼女の肩に手を置き、首を振る。

「全部が終わったわけじゃない。けれど、少なくとも祟り神は今ここで消えた」


 蓮司は静かに煙草を取り出し、火をつけた。

 紫煙の向こう、その瞳はわずかに翳っていた。


「……だが、清左衛門の子を斬ったという言葉……それはただの呪いの残響か、それとも――まだ別の因縁が眠っているのか」


 夜風が障子を揺らし、遠くで虫の声が再び響き出す。

 嵐のような霊的戦いの後、静けさの中に――新たな疑念だけが残されていた。



 夏の朝。昨夜の激闘が嘘のように、街は澄み切った青空に包まれていた。

 鬼塚探偵事務所の窓からは強い日差しが差し込み、机の上に置かれた湯呑の縁を白く光らせている。


 応接机には、菓子折りを抱えた佐々木紗英の姿があった。

 表情はまだ疲れの色を残していたが、以前よりも落ち着いており、声も震えていない。


「本当に……ありがとうございました。祖母も、昨夜は久しぶりにぐっすり眠れたと言っていました」


 深々と頭を下げる紗英に、里沙はやわらかく微笑み、お茶を注ぎ直した。

「よかった……。あの祟り神は、もう戻ってくることはありません。あなたの家を縛っていた因縁は、ひとまず断ち切られました」


「ひとまず……?」

 紗英が小さく問い返す。


 蓮司は煙草をくわえたまま、窓際に視線を向けていた。

「昨夜、あいつが吐いた言葉……清左衛門は子をも斬った。あれが真実なら、ただの家系の祟りじゃ済まない。血そのものに縛りを刻んでる可能性がある」


 紗英の顔色がわずかに曇った。

「……つまり、私の家族にはまだ……」


「安心して。少なくとも祟り神そのものは消滅しました。これからは血を供える必要もないし、犠牲者が出ることもないはずです」

 里沙が落ち着いた声で言い、紗英の手をそっと握る。

「ただ……完全に因縁が消えたかどうか。それはまだ、調べてみなきゃ分からない」


 沈黙が数秒流れ、紗英はやがてうなずいた。

「……それでも、昨夜、あの声が昇っていくのを感じました。あの人たちが解き放たれていくのを。だから、怖いけれど……前を向けそうです」


 蓮司は煙を吐き、低く言った。

「それでいい。お前はお前の人生を生きろ。……因縁の後始末は、俺たちの役目だ」


 紗英は胸の奥から安堵の笑みを浮かべ、静かに立ち上がった。

「本当に……ありがとうございました」


 事務所の扉が閉まり、蝉の声が外から流れ込む。


 里沙は湯呑を手に取り、ぽつりと呟いた。

「……清左衛門が子を斬ったって話……放ってはおけないね」


 蓮司は曖昧に笑い、机に地図を広げた。

「近いうちに調べる。……どうせまた、別の依頼に繋がるだろうさ」


 窓の外、真夏の空には白い入道雲が湧き上がっていた。

 嵐の前触れのように――新たな因縁を告げるかのごとく。


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