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ある友人の話

作者: しめさば

 これは、私の友人が実際に体験した話です。


 ある観光地の寂れた温泉街に、友人が、当時付き合っていた彼女と訪れたときのこと。


 温泉街は歩いて散策できる小さな商店街のようになっていて、友人はそのなかでもまだ活気のあるビル建てのホテルに宿泊しました。

 心霊スポットがある、という噂は耳にしていましたが、どこにあるのかも知らないし、あまり信じていませんでした。

 部屋の窓から眺望する景色は、山や川といった自然はとても美しいのですが、廃墟らしい建物がいくつもあって、街を見下ろすと物悲しい雰囲気に包まれて、心霊スポットの噂が立つのも当然だと思いました。

 友人はすぐに、デートには不向きだったかな、と後悔しました。

 大学生だった友人は金銭的余裕がなく、仕方がなかったのです。

 それでも、ホテルの中にいる分には、部屋は綺麗で、サービスは行き届いているし、温泉も食事も素晴らしいものでした。


 夜になり、お酒が飲みたいね、という話になりました。

 ただ、ホテルで振る舞われる酒はどれも割高で、どこかに定価で買える場所はないか、と考えました。

 部屋の窓から街を見下ろすと、ちょうどその中に一軒、明かりのついたお店がありました。

 個人経営の商店のようで、灯った看板には酒の文字も見えます。

 友人は、彼女を部屋に残し、買い出しに行きました。


 街灯は少なく、建物の明かりもないため、道はほとんど真っ暗でした。

 目が慣れてくると、なんとかおぼろげに、明かりのついた商店までの道が見えます。


 途中、一軒の潰れた民宿があって、今にも潰れてしまいそうに傾いた平家だったのですが、その前を通ると、中から「泊まっていきませんか」と女性の声がしました。

 突然声をかけられたことに驚いて、友人は息を飲みましたが、その戸口を確認すると、玄関の磨りガラスの向こう側に人影が見えました。

 明かりがついていないだけで、潰れていなかったのかと思い直し、大丈夫です、と答えて、小走りに商店へ向かいました。


 商店には白髪の男性が一人店番をしていて、友人はほっとしました。

 酒も売っていて、無事にいくつか買い込むことができ、袋片手に商店を出ようとすると、店の男性から「帰りはこっちの橋渡っていきな」と言われました。


 ホテルと商店の位置関係は、川を挟んで斜向かいにありました。

 橋は、ホテルの目の前に一つと、商店の目の前に一つあって、商店に来るときはホテルの前の橋を渡ってきました。

 商店の男性が言うには、商店側の橋を使いなさいということでした。

 理由を尋ねると「声かけられなかった?」と聞かれました。

 はい、と答えると、「あそこ誰も住んでないよ」と男性は言いました。


 友人は、全速力で、男性に言われた通り、商店側の橋を渡り、ホテルに帰りました。

 道中、例の潰れた民宿の方を恐る恐る遠目で確認すると、戸口の前に人が立っていました。

 髪の長い女性が、こちらに向かって手招きしていました。


 息も絶え絶え、ホテルの煌々と明かりのついたロビーに飛び込みました。

 フロントの人に心配されましたが、大丈夫です、といって部屋に戻りました。


 部屋に戻ると、彼女が顔をこわばらせて待っていました。


 どうしたのかと尋ねると、彼女は少し黙っていて、私が部屋のドアを閉めるのを確認してから、答えました。


「窓からずっと見てたけど、途中から女の人と一緒に歩いてたよ。帰りは、その人に物凄い勢いで追いかけられてたけど、大丈夫?」



 後で聞いた話なのですが、その温泉街では、経営難で心中をはかったり、川に身投げをした人がいたそうです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「泊まっていきませんか?」 はい、、なんて言う訳も無いのですが、後ろから追いかけてきている(同じ霊だとすると)事から人そのものを求めているという怖さがありますね。全国的にそういう開発に失敗…
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