プロローグ
先輩のお葬式が終わった。
享年24歳ととても短い一生だった。病気を患っていて老い先短いことは知っていたけれど、だからといって受け入れられるわけもない。
なのに悲しみの感情に浸る暇はなかった。
その理由、それは玲奈先輩にはこの世界に残したひとりの子どもがいるからだ。
そして今、その子の養育を巡って家中で押し付け合いがなされている。
ある人曰く、
「4歳の子なんてねぇ、家にも二人いるから·····」
またある人曰く、
「引き取ってあげたいのは山々だけれど、家には子どもを育てる余裕も体力もないからなぁ」
明け透けな人によっては、
「月詠との子だろ。そんな柊の力を受け継げないような子どもなんて引き取る意味もない」
などと言い合っていた。
流石に最後の人に対しては家中からも非難が上がっていたが、みんな口にしないだけで心中は一緒だろう。
玲奈先輩の実家の柊家は古くからの名家で、今でも結界を用いて悪霊の侵入を阻害する"作り師"という役を担う家なのだ。柊家では"作り師"となれるかどうか、潜在能力の多寡によって存在価値そのものが決まる。
相伝の力を
『菜緒、冬花を頼んだわよ』
先輩の遺した言葉が脳裏に蘇った。
「私が冬花を育てます!」