序章後編:最強キノコのこれから
マシュナリーは姉妹と共に、回復したホーンボーアに乗り、カヌア村へと帰った。その道中、ホーンボーアは再び疲労で倒れた際は姉妹と共に頭で抱え運んだが、村に到着するや否や村の入り口で帰りを待っていた村人たちはマシュナリーに対し、頭を下げた。
「「「貴方様に無礼を働き、大変申し訳ございませんでした。」」」
「「「悪しき邪竜を倒していただき、ありがとうございま
す。」」」
『あっ、ああ……そんなに頭を下げないでくれ。こちらが困る。』
マシュナリー対アグニスの空中戦を目撃し、マシュナリ
ーの勝利を確信した時、今までの非難を恥だと考え、さら
に、反省しなければ報復されるという強迫的観念の恐怖に
より、村人たちはアグニスの次にマシュナリーを畏怖した
のだった。
「私たち姉妹や村のみんなの為ににありがとうございます、マシュナリー様。」
「我らの娘を助けていただき感謝します。」
「ありがたや。ありがたや。」
『皆、落ち着いてくれ。私は魔物故にこういう感謝の仕方は慣れない。それどころかこっちが恥ずかしくなる。』
本来、人間から蔑まれる魔物の概念をしっかり熟知して
いるマシュナリーは神のように崇められ、しかも、先ほど
のアグニスと似た状況になるのは居心地が悪かった。
「お姉ちゃんを助けてくれてありがとう! キノコさん!」
唯一、マロンだけはブランたちと違い、マシュナリーを
あだ名で呼び、ぬいぐるみのように抱っこし、彼に癒しを
感じさせた。
『マロン、君が勇気を出して、助けを求めなかったら、今頃は違う結果になったのだと思う。君の行動が村の救いにつながったんだ。』
「えへへ、そうかな……」
「マロン。調子に乗らない。」
マロンがブランに軽く小突られた時、回復したホーンボ
ーアが戻って来た。
「ぶぎ!」
『ホーンボーアにも感謝するんだ。この脚力がなければ、今頃、ブランはあのドラゴンに喰われていたのかもしれないからな。』
「猪さんもありがとうね。」
「ぶぎぃ!」
マロンがホーンボーアを優しく撫でた時、別れの時が訪
れた。
『名残惜しいが、そろそろ帰ろう。来い、ホーンボーア。』
「ええっ! もう帰るの?」
『ああ、こんな私にも帰る場所があるのだから。』
マシュナリーはまだマロンに抱っこされたい気持ちを抑
え、ホーンボーアの背に乗り、帰路へと向かおうとした
が、
「待って下さい!」
「お父さん!?」
突然、マシュナリーの帰路を遮った村長は必死に頼むよ
うな表情をした。
「私を弟子にしてください! 私もあなたのような力と勇気で今度こそ私たちの村や娘たちを守りたいんです。ドラゴンを恐れるだけの自分を見て、このままでは生きているだけで恥ずかしいと自覚しました。何卒、何卒……」
マシュナリーは村長が下げた頭にキノコの拳で優しく撫
で、囁いた。
『なら、もう二度とあの娘たちと離れ離れになるな。それがドラゴンの前で無力だったお前の償いだ。』
「ううっ、ううっ、ううううっ、はい。」
自らの人生最大と思われる涙を流す村長、姉妹や村人た
ちでさえ、もらい泣きをし、マシュナリーの帰りを見守っ
た。
「この御恩は絶対に忘れません!」
「今度は村に遊びに来てねーーー!」
マシュナリーは人外魔境である魔王の森へと劇的な別れを締めくくった。
あっ、そうそう。マシュナリーが帰る時に入れ替わりで冒険者パーティーがやって来ました。どうやら、風の噂でカヌア村を襲うドラゴンを退治しに来たらしいですが、
「皆さん安心して下さい! この勇者アルセ・マグヌスが…」
「ザッケンナゴラー!」
「ぐはぁ!?」
助けに来るのが遅かった為、案の定、村人たちから咎められ、殴り倒されるわ、石などを投げつけられるわで、散々な罵倒で終わりました。
「もう、助けられたわよ! この馬鹿冒険者! 遅れた癖に気取ってんじゃないわよ!」
「お前が来なかったせいで俺はマシュナリー様に殴られ、醜態をさらすことになったんだぞ! 来るなら早く来いよ! 馬鹿野郎!」
「立ち去れ! この身の程知らず!」
「かっこ悪い勇者なんて大嫌い!」
「すみません! すみません! かっこ悪い勇者で
ごめんなさぁ~~~~~い!」
終わったばかりでこの結末、はてさてどうしたものか。