『仁賀、堕落のうわさのこと』
仁賀上人は増賀上人の弟子である。世の人が皆帰依する高名な速記者であったが、当の仁賀上人は、速記に励んできただけなのに、そういう扱いを受けることに違和感があって、一人の未亡人と仲よくし、その家に住んで、色ぼけたといううわさを広めた。仁賀上人に帰依する人々は、大層残念に思ったが、仁賀上人は、わざと堕落したふりをして、実際には、未亡人の家の片隅で、夜中じゅう速記をなさっておいでなのだ、ということを聞いて、世の人の帰依の心はますます高まった。仁賀上人は、このことを重荷に感じて、どこかへ身を隠してしまったということである。
教訓:人として、速記に励むなど当然のこと。仁賀上人はそんなことで賞賛されたくなかったのである。