3話
あれから文化祭準備は順調に進み、無事に文化祭当日を迎えることができた。
「今日は文化祭当日だ。お前ら!悔いのないようにに楽しめよ!というわけで東城、音頭を頼む」
本田先生に促され、東城君が意気揚々と壇上に上がる。
「今日まで準備、みんなお疲れさまでした。さぁ、待ちに待った本番、楽しんでいくぞ!えい、えい」
「「「「おー!!!」」」
東城君の即興の音頭に合わせてクラスのみんなが声を上げた。あたしも調子に乗って参加したが、さすがにこれはうるさい。今日くらいは大目に見てくれることを祈ろう。
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当初はメイド喫茶の予定だったが、女子だけがメイドとして接客をするのは不公平だということでメイド・執事喫茶となっていたが、この盛況ぶりを見るに接客要員を増やしたのはあまりにも正解だった。
「おいーっす、何も問題起きてないかー?」
「「「お前が彼女とデートしていたこと以外に問題はないぞ」」」
俺は梨花と文化祭デートを楽しんだ後で午後からの店番をするべく教室に帰ってきたのだが、その場にいる男子全員にそろって怨嗟の声を浴びせられた。
「それは八つ当たりが過ぎるだろ⁉」
「というのは冗談で予想以上の盛況で材料が足りなくなっているし、列が長くなりすぎてこのままだと周りの迷惑になりそうだ」
どうやら蓮の考案したサンドイッチがおいしいと話題になり、それにつられた人たちがどんどん集まってきているようだ。アイツすげぇなと嬉しく思いつつも、これからさらに拡散されてこれ以上の人が集まってくるだろうことを考えると悩ましくもあった。
「了解。買い出し班を読んで材料を追加で買ってきてもらおうか。列に関しては制限時間を設けて回転率を上げることでどうにかしよう」
「頼んだ」
「前半の売り上げは絶好調!後半もこの調子で頑張っていきましょう!目指せ優勝‼」
「「「おー‼」」」
勢いに任せて声を上げたら予想以上にうるさくなってしまった。
「男子ども、うるさいわよ!何事かと思ってお客さんがびっくりしちゃったでしょ!」
恐る恐る振り返ると梨花が仁王立ちで立っていた。
「要?」
「ハイッッ‼」
表面上は笑顔なものの目の奥だけが笑っていない梨花に気圧されて即座に正座した。「もうすでに尻に敷かれてんな……」と誰かがぼそりと呟いたのが聞こえた。確かに俺もそう思うがこれもスキンシップであると思えばかわいいものだ。交代の時間になるまでそのまま梨花による説教を甘んじて受け入れた。
実際に接客に臨むとかなりの忙しさだったが、言い換えるとそれだけ売り上げがでているということなのだから働き甲斐があった。
「祐樹」
いくらやりがいがあったのだとしても疲れることは疲れる。接客の合間を縫って一息ついたとき、俺を呼ぶ声がした。声からして恐らく蓮だろう。振り返ると予想通りそこにいたのは蓮だったが、予想外だったのは蓮が険しい顔をして立っていたことだ。どうやら問題事は止まないみたいだ。
「どうした?」
「列の前から5番目に並んでる男だが、念のため気を付けた方がいいかもな」
「何があった?」
「少しだが黒いな。何もないといいが……」
何もなければいいとこぼした連の目は男をはっきりと警戒の目で見ていた。
「なら気を付けとくか」
「よろしく」
そう言うと蓮は接客に戻った。
「すまんがちょっと本田先生を呼んできてくれないか」
「おう、分かった」
特に理由を聞くことなく本田先生を呼びに行ってくれて助かった。理由を聞かれたら明確な説明はできなかったから。
しばらくして入り口を見ると男子生徒の一人が件の男のもとに接客に行くところだった。
「お客様、いらっしゃいませ」
「おい、なんで男が接客に来てんだよ!女子を呼んで来い!女子を!」
どうやら蓮が懸念した通りろくでもないやつだったようだ。あの様子じゃ素直に女子を呼んだってろくなことにはならないだろう。あらかじめ本田先生を呼んでおいたからもうそろそろしたら来るはずだ。俺はあと少し時間稼ぎをするだけ、楽なお仕事だ。
「すみませんお客様、どうかなさいましたか」
「ああ!どうしたもこうもねぇよ!大体……」
本当に聞くに堪えない話を延々と垂れ流しているので聞き流していたら男の後ろから本田先生がやってくるのが見えた。
「うちのクラスの出し物が大盛況だっていうから来てみたんだが、おい、てめぇ、何してやがる?」
「あぁ?関係ねぇだろ、すっこんでろ!」
「私の生徒が理不尽に怒鳴られておいて引き下がってられるか!おい、腕輪はどうした。生徒からの招待客は事前に配布された腕輪がなければ入れないはずだがどこから入ってきた?じっくり話を聞かせてもらおうか」
すさまじい剣幕の本田先生に引きずられて男は連行された。
男が連行されたことで安堵のため息が広がる教室で俺だけが蓮を憐れむように見ていた。