転生王子はヒロインを選ばない
初めての異世界系です。
温かくお読みください。
俺は日本に住む一般的な大学生。
両親と妹の4人暮らしで、そこそこ幸せな生活を送っていたと思う。
それが交通事故により亡くなってしまった。
ということを今思い出しました!
はい、はじめまして!ここヴェルナー王国の第二王子として生まれたクリストファー・ヴェルナーです。ここが乙女ゲームの世界であることに気づいたのは生まれてすぐ。金髪碧眼のイケメンと金髪翠眼の美女に顔を覗き込まれ、「この子の名前はクリストファーにしましょう!」と言われた時だ。
クリストファーって乙女ゲームの攻略者の『クリストファー・ヴェルナー』!? 俺、乙女ゲームの攻略者に転生したのかよ!と幾度となく神様を恨みました。いや、だってクリストファーといえば暴言を吐くときと優しくするときのギャップが良い!と人気だったけど、客観的に見たら暴言吐くとか男して、というか人間として駄目だろう。
なんで男の子なのにこんなに乙女ゲームに詳しいの?って思ったその方! 今から説明しましょう!
まず、俺には妹がいる。そして乙女ゲームといった類のものが好きな脳内お花畑である。
ここまでは良い。良いのだが、この妹は兄である俺に乙女ゲームを布教した。それはもう強制的に徹底的に布教した。俺がここまで乙女ゲームに対する知識が増えたのは妹のおかげである。
さて、この乙女ゲームはヴェルナー王国を舞台に過去の経験により捻くれた考えしか出来ない男達を平民出身の男爵令嬢が癒やしていくという王道の物語だ。
ということで、次は俺の紹介に移ろう。
俺『クリストファー・ヴェルナー』はあまり優秀ではない兄を持ち、第二王子というスペアであることや優秀すぎて手がかからなかったことにより親から愛されなかったため、愛情を欲している。無償の愛をもって接してくれるヒロインにいつの間にか好きになってしまうというストーリーだったはずだ。
問題は、俺に婚約者がいるということだろう。
彼女の名前はエミリティーヌ・グリトリッチ。グリトリッチ公爵家の長女だ。グリトリッチ公爵家といえば四大公爵家の一つとして知られている。エミリティーヌ嬢は一人っ子のため、俺が婿養子となりグリトリッチ公爵家を継ぐはずだ。
と、説明はこれで良いだろうか。
ただ、今の俺はヒロインのような可愛い系女子よりエミリティーヌ嬢のような綺麗系女子の方が好きなのだ。
それに、前世含めればかなりの年である俺は別に親の愛に飢えてはいない。というか次期王である兄のほうが大切なのは当たり前で、だからといって俺が愛されていないわけではないのだ。
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俺は7歳となり、婚約者が決まった。
もちろん婚約者はエミリティーヌ嬢だ。
今日はお茶会で、婚約者となったエミリティーヌ嬢に初対面することになったのだ。いや~、緊張する!だって俺の好みどストライクな女の子に会うんだよ!?そりゃ緊張するわ!
「はじめまして、エミリティーヌ・グリトリッチです。よろしくお願いいたします」
幼いながらに完璧なカーテンシーを披露するエミリティーヌ嬢には敬服する。
「はじめまして。クリストファー・ヴェルナーです」
王族ならではの、あの感情を見せない笑顔を披露する。怖かったらごめんね…
「これをどうぞ。蜂蜜入りのレモンジュースなんだけどね。試飲してほしいんだ」
彼女にジュースを渡す。試飲してほしいのは事実なんだけど、リラックスしてほしいとも思ったからだ。
「ありがとうございます。…あっ、美味しい」
やはり緊張していたのだろう。ふぅと息を吐く彼女は来たときよりもリラックスしているようで良かった。
「リラックスしたみたいで良かったよ。僕らは将来夫婦になるんだし」
「あっはい。そのことなんですが…」
ん?なにかお願いとか?
「その、愛人とかをつくるのはやめていただきたいんです」
おおう。7歳にしては考えること大人じゃね?
いや、自分一人だけを愛してと言う時点でまだ子供なのか。
「ああ、もちろん。そんなに僕が不誠実に見えた?」
「いや、そういうわけでは…」
彼女のことだからそうではないと思っていたが、少し困った顔が見たくていじわるを言ってしまった。
俺転生前を含めるとかなりの年なはずなんだけど、子供っぽいな…と反省をしたのは俺だけしか知らない。
その後、週一ほどで彼女に会った。
貪欲に学びを吸収し成長する姿は眩しく、毎週会うのが楽しみだった。
そしてあと少しで王立学園に入学することになる14歳の時のお茶会で、エミリティーヌが暗い顔をしていたから少し気になった。
側近からはなにも問題は無いと聞いているが、どうしたのか?
「あの、クリストファー様?学園の入学式についてですが…」
いつも優しく話してくれているのに、今日は表情が暗いと思ったらそういうことか。
「うん、僕に挨拶をしてほしいんだね?」
「それはもちろんそうなのですが、今年は隣国から王女様がいらっしゃるのです」
ああ、カナルック王国の第三王女か。
たしか数年前にパーティーで会ったはずだ。
それにしても、
「『あの』第三王女が我が国に留学かい?」
皮肉になってしまったがしょうがない。
カナルックの第三王女は、優秀な兄と姉を持つ平凡な王女だからだ。
いや、平凡ならまだいい。彼女は母親である王妃から特に愛され甘やかされたせいで自己中心的な考えをしている。
それが王族としてどれだけ危険か、王も王妃も分かっていないようだ。彼女の兄や姉がいなければ、彼女のせいで他国のお偉方を怒らせてしまったのは一度や二度ではきかないだろう。
「これは王妃様から聞いた話なのですが、第三王女はクリストファー様に一目惚れして絶対に結婚すると息巻いているそうです。あの国の王妃は第三王女には甘いですから」
ん?でも、彼女の父親はまだちゃんとした頭を持っていたよね?
「その、王が会議に出席して国を離れている際に王妃が独断で行ったと」
なるほど。今頃王は慌てているだろうな。
「それで、僕に聞きたいことでもあったの?」
だいぶ論点がズレてしまったからな。
「第三王女はお忍びということで、入学式を含め学校生活で独善的な行動をしないように見張ってほしいと」
「それは誰からのお願いかな?」
「カナルック王国の王太子と第一・第二王女からです。妹姫が他国でやらかさないか心配なのでしょう」
ああ、彼らは賢いからね。
パーティーで会ったけど、あの王妃の子供なのか疑うくらいに聡明だ。特に王太子は若いながらも王の器に足る男だ。たぶん王太子がダメダメだったらあの国は終わっていた。
「分かった。注意するよ」
「ここヴェルナー王国の王立学園に入学出来たこと、とても嬉しく思う…」
ということで、俺は今入学式の挨拶中です。
王族が新入生の場合は王族が挨拶をするのが暗黙の了解だ。普通は入学試験の成績が一番良かった人がやる。まあ今年の首席は俺だけどね。ちなみに次席はエミリティーヌだ。
生まれた時から王族として教育を受けていた俺と幼い頃から次期公爵として領地経営を学んでいたエミリティーヌにとってはこれぐらいのことは普通だけどな。第三王女が上位10位に入っていないのを知った時は王族としての教育を受けているのかと疑問に思ったものだ。
エミリティーヌと同じクラスになった。それは良いのだが、なんと第三王女も同じクラスになってしまった。クラス分けは成績順なはずだ。第三王女はギリギリ俺達のクラスに入っていたというわけか。
おい、マジふざけんなよ!第三王女は脳内お花畑で前世の妹を思い出すから生理的に受け付けないんだよ!
あっ、口調が乱れてしまった。
王族らしく、王族らしくね。
「クリストファー様、アンブローシア・トゥタリーです。よろしくお願いいたしますね」
第三王女が王族特有の感情の読めない笑みを浮かべる。
ねえアンブローシア嬢、君は今トゥタリー伯爵令嬢のはずだよ?
王族の僕に初対面の君から話しかけるのはマナー違反だということはカナルック王国でも一緒だよね?
いや、君は今トゥタリー伯爵令嬢ではなくカナルック王国の第三王女だと思っているんだね。分かるよ、君の兄上や姉上達の苦労が。
「エミリティーヌ、今日は一緒に王城へ行ってお茶会をしよう」
こういう時は無視だと母上に聞いたことがある。
案の定、第三王女は怒ったような表情を浮かべる。
王族として感情をすぐ出すのは良くないんだけどね。
彼女の方を振り向いて言う。
「トゥタリー伯爵令嬢といったかな。王族の僕に対して初対面の君から話しかけるのはマナー違反ではないかな」
周りの子息令嬢達が第三王女を指さしてヒソヒソ言う。うん、陰口はあんまり好きじゃないんだけどね。
まあ、それからというもの第三王女が付きまとって来た。なまじっか他国の王女だから無下にはできない。そのせいでエミリティーヌと会う時間が減って俺はだんだんイライラしてきた。
いや、何が悲しくて好きな人と会えなくなって、苦手な女に愛想振りまかなきゃならないわけ?しかも婚約したときに『愛人は駄目』とかエミリティーヌに言われてるんだよ!?
お前のことはどうでもいいけど、エミリティーヌに愛想尽かされるのは絶対無理!と何度も言いそうになった。
だか俺も王族。第三王女を辱めたら他国から非難されるので俺はずっと黙っていた。
だがここで問題が起きた。
第三王女がエミリティーヌを害そうとしたのだ。
まったく、どこまで俺を怒らせれば気が済むのか。
俺は何されても耐えれるけどエミリティーヌに手を出そうとするのなら容赦はしない。
エミリティーヌに手を出そうとしたこと、後悔させてやる。
そしてエミリティーヌを害そうとする瞬間、犯人を捕らえた。
「ふうん、君の主人はカナルック王国の第三王女かい?悪いけど彼女はここでは伯爵令嬢でエミリティーヌは公爵令嬢だ。下位の令嬢が上位の、しかも四大公爵家の一つであるグリトリッチ公爵令嬢を害するなんて… 君は今の状況が分かっているのか?」
そう言うと、殺し屋は驚いたような表情を浮かべる。
ああ、これは…
「あの第三王女にもし捕まっても自分の権力があるから大丈夫だと言われたのか?我が国を舐めないでほしいものだな」
「あいつ…騙しやがって!」
脳内お花畑に付き合うなんて君も大変だねと言うと、
「王家からの頼みを断れるわけないだろ!?」
と言われた。責任を自覚しない人に権力をあげては駄目という生きた見本だな、あれは。減罪を条件に第三王女の関わりを証言することを約束させた。
これでエミリティーヌに危害が加わることはないだろう。そう思い、ホッとした。
数日後、王立学園始まって以来の珍事が起きた。
王立学園に近衛兵が入ったからだ。
目的はトゥタリー伯爵令嬢こと第三王女を捕まえるためだ。エミリティーヌ殺人未遂の教唆といったところか。
「汚らわしい!私はカナルック王国の第三王女よ!」
近衛兵が、だからなんだという目を向ける。
彼女は驚き、俺に助けを求めた。
「クリストファー様、助けてください!」
本当に愚かだ。
「何を言っているんだ君は。王族の権力が法の権力を上回ることはない。王族であっても罪は償うべきだ」
その言葉に第三王女が押し黙る。
周りを見ると子息令嬢達が集まっており、トゥタリー伯爵令嬢が実は王族であることがバレてしまった。
エミリティーヌを害そうとしたんだからそれ相応の罰は受けなければいけない。
ただ、カナルック王国と我が国の友好が途絶えてしまった。これについては、カナルック王国の王太子から俺の今世の妹を次期王妃にしたいと申し入れがあったらしい。妹には『彼は王の器に足る聡明な男だから』と説明しておいた。今世の妹は可愛く優しい自慢の妹である。王族特有の政略結婚だが、妹には幸せになってほしいものだ。
騒動が落ち着き、エミリティーヌが俺に問いかけた。
「あの、クリストファー様。トゥタリー伯爵令嬢、というかカナルック王国の第三王女のことが好きになったのでは?」
エミリティーヌが言う。えっ!?まさか誤解している?
「何を言っているんだい、エミリティーヌ。『愛人をつくらないで』と言ったのは君だろう? 僕が約束を破り他の女性と浮気した不誠実な男だと思っているのかい?」
「その約束、覚えてらっしゃるのですか?」
エミリティーヌが目を見開く。
「当たり前だ。だいたい僕はエミリティーヌのような外見の方が好みなんだよ。それに、エミリティーヌは僕の初恋だからね」
その言葉にエミリティーヌが驚いた。
「えっ?」
「というかエミリティーヌ、僕達の関係が政略だとでも言いたいのかい?」
「違うのですか?」
エミリティーヌが不思議そうに言う。
俺はこの言葉には苦笑してしまった。ここまで自分の想いが伝わっていなかったことに。
「最初は政略だったけどね、君の学びに対する貪欲な姿勢や困っている人を放っておけない優しい性格を好きになったんだ」
「ふえっ?」
ああエミリティーヌ、その無防備な表情と火照った頬はとても可愛らしいけど他の男に見せちゃ駄目だからね?
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ヴェルナー王国の王弟はグリトリッチ公爵として宰相として兄王の治世を助けた。
その有能さから彼が王になるべきではという声も多かったが、自ら王位継承権を破棄した。
辣腕宰相として知られるグリトリッチ公爵は愛妻家としても知られている。愛人をつくらず、妻一人を愛し続けた公爵が世の女性達の憧れとなっていたことは後世になっても有名だったそうだ。
ヒロインはどこに行ったと思った方へ
ヒロインは王立学園で子爵令息と出会い結婚しました。
ヒロインは子爵夫人となり、幸せな生活を送りましたとさ。