七 鷲宮悠介 2 髪の毛
鷲宮悠介 2 髪の毛
大学に入って初めて出来た彼女が居た。その子は秋田から上京して、一人暮らしをしながら同じ大学に通っていた。それまで、同級の未発達な身体しか抱いた事の無かった僕は、その子の白く、完成された裸を見て欲情した事を覚えている。
でも僕は、その子の豊かな身体を好きな様に使っても、最後まで到達する事が出来ない。勿論、方法が無い訳では無い。その子の太ももの付け根でも××ながら、顔に力強く××を擦り付けたりすれば、絶頂を迎える事も出来たのであろう。ただ、十八歳のうら若き僕には、そんなみっともない行為は出来なかった。×の中でピストン運動をしていると、次第に×えてきてしまうので、まだ×いうちに、「×ってしまったよ」などと嘘を吐いて、空っぽのコン×××を丸めてゴミ箱に捨てるのだった。
その子は地元の気の置けない友人に電話でもして、「彼氏がめちゃくちゃ早×でさ」などと笑いを誘うのだろう。でも実際は、果てる事さえ叶わず、×折れしてしまう××を携えていると知ったのなら、同じ様に笑えるだろうか?
××××の様なものをした夜は、不完全に燃焼させた性欲がいつまでも滾ってしまい、眠る事が出来ず、安らかなその子の寝顔を凝視して、出来損ないの其れを潰れる程抑えつけて下着を汚すのだった。
僕はショートカットの女性が好きだった。その子のくるりとした目元と、顎から耳へのしなやかな骨格のラインが気に入っていて、小さな顔の造りには、必ずショートカットが似合うと思っていた。僕は何度も、何度も、髪を短く切った方が良いよと言ったのに、その子は自分の長い髪に自信や美徳でも持っているのか、僕の言う事は聞かなかった。
僕は仕様がなく、その子の髪の毛を切ってあげた。静かな寝息をたてる、その子の長い髪をうなじの所までハサミで切った。もしかしたら、その子が持って帰るかもしれなかったので、その切り離した髪の毛は、束ねて輪ゴムで縛り、枕元に置いておいた。
確かに僕の行動は行き過ぎていたのかもしれない。言い訳があるとすれば、僕にとってそれはまだ××××の最中の行為だった。誰だって、××××の最中には少しくらい精神が昂ぶって、普段ではありえない、後で思い返すと赤面してしまう様な言動をしてしまっている事がある筈なのだ。僕の中では、身体を交えて、その子が寝静まり、その子の寝顔を見ながら果てるまでが××××という一括りであった。
ただ、自分の正しさばかり主張するのは良くないと思う。僕が後ろめたさを感じるとすれば、本当は、もう彼女の寝顔を見ていても興奮しない様になっていた事。どれだけ先程までの行為を振り返って、××を握りしめてみても、その頃にはもう其れは鎮まって、大きくなる事も×くなる事も無くなっていた。僕は認めたくなかった。僕はその子の事を愛していた。だから、もうその子で絶頂を迎える事は無いのだという事実を認めたくなかった。
もう少しで、ほんのもう少しで、その日は気持ち良くなれそうだった。だから髪の毛を切った。僕はその日、夜明けまでに二度ほどの××を果たした。
遮光のカーテンが少し開いていた様で、鋭い朝日が僅かに差し込み、その子を眠りから覚ました。その子は目元を擦って湿ったヤニを拭い、早々に違和感に気付いた様だった。僕はその時、未だに硬い××を強く握っていた。
「えっ、どういう事?」
その子の両手は、昨夜までは繋がっていた筈の髪の毛を掴もうとして、幾度も自身の肩の後ろで空を切った。その子の寝ぼけながら送る視線に、そしてその表情に、やはりショートカットがとても良く似合っていると思った。
「これかな? 探してるのは」
僕はまだ、右手を其れから離したくなくて、左手で多少不恰好になりながらも切り離して束ねた髪の毛を取って見せた。
「なに、それ?」
その子はまだ寝ぼけているのか、現状をしっかりと把握していなかった。
「君の髪の毛だよ」
僕は普段、行為の最中に微笑む事など無いのだが、仕様がないのではにかんで言った。
「悠介が切ったの?」
「そうだよ」
「なんで?」
「ハサミで」
僕は使用したハサミを取って、チョキチョキと開いて閉じて見せた。
「イヤッ、嫌ァァァァァァァァァ」
その子はベッドから落ちてしまい、憐れに後退りしてカーテンを掴んだ。
「どこか痛めたの?」
ベッドから落ちた時に捻ってしまったのだろう。右足を引きずっていたから。僕は心配になって、掛けていた布団を払いベッドに立ち上がってしまった。僕は、下着を汚してしまって脱いでいた事を忘れていた。×ち上がった其れを隠す様に、右手で掴み力を込めた。
「お願い、近寄らないで」
僕の好きだったくるりとした目は剥け血走り、髪型が変わったせいか別人の様に見えた。
「お似合いだよ」
僕はまだ快楽の中に居たせいか、事が終わり、その後にまた元の関係に戻る事を本気で考えていて、抱き締め様とでもしたのか、恐怖に慄くその子に少しずつ近寄って行った。
「殺さないで下さい」
僕は、その子の言葉でやっと気付いた。自分がまだハサミを持って、いつまでもチョキチョキと開け閉めしていた事を。
「違うから、これは違うから!」
僕は左手に絡んだ、あらぬ疑いを持たせたハサミを、怒りを込めて後ろのベッドに突き刺した。でも、気が動転していたのか、指がハサミの力点から離れなくて、猛り、そのままベッドを縦横無尽に掻っ捌いてしまった。
「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!」
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!」
真っ白な羽根が部屋を舞った。とても美しかった。
「綺麗だ」
その光景に僕は魅了されて、指の力みはなくなり、ハサミはフローリングの床にゴツ、と音を立てて落ちた。
幾つの時を立ち尽くして、呆けていたのか? その子は、足を引きずりながら玄関に向かっていた。
僕は、もうその子と恋を育んでいくのは無理なのだと悟った。それは、きっと僕の精神が正常に戻っている事を示していた。
でも、僕の××は、この心の変化を許さんとばかりに熱り勃っていて、いつまでも右の手で其れを握り締めながら、半年愛を育んできたその子に近寄った。
短くなり、掴みにくい髪の毛を引っ張り上げて言った。
「また何処かで、会えるといいね」
「地獄に堕ちろ」
その子が出て行き扉を閉めた後に、忘れ物の髪の毛の束を握り締め、三度目の××が訪れたのだった。