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醜い得体 (R 15版)  作者: 藤沢凪
22/28

二十二 衛藤夏妃 8 尋問

 衛藤夏妃 8 尋問


 悠介との待ち合わせ時刻を過ぎた瞬間に、私の苛立ちはピークに達して、それからは緩やかに鎮まっていき、三時間程経過した今では、心はいつもの穏やかさを取り戻していた。

 あいつは、一体何をしているんだ? 遅れるのなら連絡しろ、それとも逃げたのか? 隣の部屋に住んでいて、このまま逃げ切れるとでも思ったのか? 二時間前に、部屋のチャイムを狂った様に鳴らして、ドアをいくら蹴っても悠介は出て来なかった。まぁ、逃げるにしても部屋には居ないか。ドアを蹴ったくる様子を、同じ階の住人に見られてしまった。すぐ近くまで来ていた様なのだが、全く気が付かなかった。逃げる様に自分の部屋に戻り、焦らされているかの様な不快感が襲ってきて、一度××をしてみると、次は虚しさが襲ってきた。

 男が予定の時間に来ない。それだけの事なのに、何故こんなにも心が乱れるのか? 昂った気持ちを落ち着かせたのは正解だったかもしれない。もしも苛ついたまま奴に会ってしまったら、いつもより激しく虐げてしまうかもしれなかった。

 悠介は、週末の営みを嫌がっていた。嫌がっているからこそ楽しかったのだが、少しやり過ぎていたのかもしれない。その見返りというべきか、平日は出来るだけ優しく接していたのだが、それでは元を取れていなかったのかもしれない。

 自分の性癖をコントロールするという事は、相手の気持ちも慮ってあげないといけない事に気付いた。一人きりじゃ、楽しむ事が出来ないから、付き合ってくれる相手がいるからこそ、絶頂に達する事が出来るんだ。

 それにしても、なんて扱い辛い性癖なのか。相手を傷めつけるだけで興奮するのなら、そこら辺の自分に自信の持てないマゾ面の豚をナンパして、プレイに励めば満足するのだろう。

 でも、きっとそれじゃ興奮しない。ある程度プライドの高い奴を虐げるからこそ、この心は震え、身悶える。

 私は今、××××を初めて知った猿の様に盛っている。それにしても流石に、朝までやるのには疲れを感じている。もう少し、緩やかにしよう。金、土と朝まで続けているけれど、週一にするか、時間を減らすか、迷う所ではある。悠介に会ったら話し合ってみよう。どっちの方が奴にとって負担が少ないのか、そして、「私の性癖も落ち着いたら、もっと頻度を減らすからね」と、未来に希望を持たせてあげよう。ゆくゆくは、月一程になるのがベストだと思ってもいた。

 今までは、精神まで侵されていく彼を見るのが、楽しくて仕方がなかったのだけれど、もう少し優しくしてあげてもいいかな? 今回逃げた事は怒らないであげよう。きっと、次、私に会った時の報復に心を締め付けられているだろう。それを想像すると、心は高鳴った。ここで更に彼を責めて、悦に浸ると、彼は離れてしまうかもしれない。

 認めていた。私の生活の中で、悠介は今、とても重要な役割を担っていた。

 それが、悠介との待ち合わせ時刻から三時間経過した後で、私が長考した結論だった。

 部屋のチャイムが鳴った。それは、エントランスからでは無く、部屋のドアの所のチャイムの音だった。今日は、会えるのを諦めていたからだったのか、その音に、一気に心が昂り、走って玄関まで向かった。ドアを開ける前に、一度心を落ち着けようと試みた。だけど、いつまでも鎮まる気配が無いので、仕様がなく、笑顔のままドアを開いた。

 そこに立っていたのは、見知らぬ男と、不精な白髪の目立つ、見覚えのある男だった。

「衛藤夏妃さんですか?」

 見知らぬ男が訪ねてきた。

「誰ですか?」

 普段私は、他人に愛想良く振る舞う様にしているのだが、今回ばかりはそうもいかなかった。

「衛藤夏妃さんで、間違い無いですかね?」

 見知らぬ男は、後ろの白髪の男に聞いた。

「あっ、へぇえ、間違い無いです」

 やっと気付いた。その白髪の男は、私が悠介からストーカー被害を受けていると相談した、使えない警察の奴だった。

「何ですか? もういいですよ。ストーカーの話しは」

 見知らぬ男は、鋭い眼光で私を睨みつけた。

「鷲宮悠介さん。知っていますよね?」

「はい。知ってますけど」

「本日午後七時頃に、亡くなられました」

「はっ?」

「三時間前になりますかね? 亡くなられました」

「はっ?」

 私の頭は、予想もしていない言葉に、回るのを止めて、聞き耳を立てていた様に感じた。

「鷲宮さんと、深い交流があったようなのですが? あなたからの着信も残っています」

 暫く私の反応でも見ていたのか、見知らぬ男は、少し間を空けてそう言った。

「はっ? 死んだの?」

「鷲宮さんの事ですよね? お亡くなりになりました」

「なんで?」

「それを調べるのが、私共の仕事です」

「死んだ? えっ? なにそれ」

 何の話しをしているのか? 死んだとか、そんな話し、身近で聞いた事も無かった。なのに、悠介が、死んだ? 話しが奇天烈過ぎて、頭がショートして、痛くなってきた。ドアを閉め様とすると、無駄に黒光りする靴を挟んできたので、力いっぱいドアを引っ張り、締め上げてやった。

「あっ、あァァァァア」

 見知らぬ男は、喜んでいるとしか思えない悦顔を晒して見せた。

「ちょ、ちょっと、何してるんですか? 公務執行妨害ですよ⁉︎」

 白髪が、歳下の上司を敬う為に言った。

「はっ? 何かコイツ喜んでない? 楽しませてやるよ」

 そう言って、ギッシギシとドアの重圧を掛けてやると、本来の姿を晒しながらも、部下の手前、己の立ち位置を守ろうと必死だった。

「あっ、イィ、良イィィィィイ、否ッ、イナァァァ、イナァイ、バァァァァア」

「あっ、あの? 松井警部?」

 私には、マゾを弄び、受ける快楽は無い。ただ、部下に恥ずかしい性癖を露わにした男の顔は格別だった。ドアノブから手を離し、挟まれていた足を自由にしてやった。すると、白髪の男が吠えた。

「き、君? 今の行為、タダで済むと思うなよ」

「いや、いいんだ。話しを進めましょう」

「えっ? いいんですか?」

「いいんだよ。良いんだよああいうのは‼︎」

「は、はい」

「しっ、失礼。あなたは、今日の午後七時頃、何をされていましたか?」

「七時? 家に居たけど?」

「家で、何をされていましたか?」

「鷲宮を待ってた。ってか、何なの?」

「あなたは、容疑者です。ちゃんとしたアリバイが無いのであれば、あなたは、重要参考人となります」

「容疑者? 何言ってんの?」

「鷲宮悠介さんは、殺されたんです」

「はっ?」

「刺されて、殺されたんです。明らかに、他殺です」

「それでここまで来たんだ?」

「そうです」

「うざっ、何で私が悠介殺すの?」

 暫くは黙って聞いていた、白髪の奴が口を開いてきた。

「松井警部、その、衛藤夏妃さんは、私達に、鷲宮悠介からのストーカー被害を訴えてきていまして、ちゃんと記録も残っております。それで、ストーカー被害を受けていたというのに、鷲宮さんを待っていたというのは、あまりにも矛盾がありませんか?」

「確かに、そうなりますね。その話しを照らし合わす為に、この方にも来てもらったんです」

 この白髪は、私が本気で悠介からの悪意に怯えている時は何もしなかった癖に、こんな時には揚々と、私の一貫性の無さを語らう。それが、事実では無いのに、コイツの頭の中で決め付けている。殺したのは私だと。千載一遇のチャンスなのだろう。私が犯人だとするならば、自分の証言で、事件を解決に導いたという名誉でも与えられるのだろうか? でも、それでも私はやっていない。いずれ泡を吹くのは、この白髪混じりの腰巾着だ。

「梅澤さんは、衛藤さんが犯人だと思いますか?」

 ドMが白髪に向かって言った。

「えぇ、へへ、彼女の話しは筋が通ってませんし、嘘を吐いてる様にしか見えませんね」

 以前会った時は、こんな笑い方する奴だったか? この白髪は、どうせ仕様も無い立ち位置で、私の所にストーカー被害で来た時は、こっちの話しは本気で聞いているのか? と、何も頼りになりそうも無いのに、部下の女には、やたらと頼って来いよ感を出す、大はずれの奴だと思っていた。そして、上司の前では、四十路も越えているであろうにも関わらず、クネクネ腰を曲げ、上司の顔色を伺い続けている。胸糞悪い。私が、一番嫌いなタイプの男だ。

「あなた、言ってる事おかしいですよ? ストーカー被害を受けていた相手を部屋で待ってるだなんて、我々が来た時の狼狽え方も普通じゃ無かったですし」

 どうにかしてコイツを、あのマッサージチェアに縛りつけられないかとも画策さえした。

 そして、「産まれて来てゴメンなさい」と言うまで遊んでやるのだ。

「悠介とはより戻しました。普通じゃ無いってなんですか?」

「狼狽え方がねぇ、何か、尋常じゃ無いって言うか」

「具体的に言ってくれますか?」

「具体的にって言われてもねぇ。というか、よりを戻したっておかしくないですか? ストーカー被害を受けてたんですよね?」

「受けていて、和解して、付き合ってたんです。理解出来ないだろうけど」

「理解出来ないねぇ。嘘、吐いてるんだよねぇ? そんな心の変化なんて、ある訳無いよねぇ? 君が、殺したんだよね?」

「お前さぁ、私が犯人じゃ無かった時、泣いて土下座して詫びろよ」

 私と、クソ白髪の言い合いを割いて、ドMが聞いてきた。

「衛藤さん? 悠介さんが殺された時に、抱えていたであろう物が、近くにあったんです。あなたなら、それが何か分かるんじゃ無いですか?」

 私は、分かったけど、言うのを躊躇った。でも、今は、そんな状況じゃないと思った。

「ブラックスティックセブンですか?」

「その通りです」

「そっか。ちゃんと、買って来てくれてたんだ」

「あれは、×××を拡張する道具。そうですね?」

「はい。そうですけど?」

「アレを、ブラックスティックセブンを、いきなり×××に入れるのは無理なんです。少しずつ拡張していったカップルが辿り着く物なので、私は、あなたの反応を見て来て、犯人のリアクションだとは思えません。確信を得たい。もしも、あなたが鷲宮悠介さんと交際をしていたと言うのであれば、見せて下さい。BSSを使う前に、使用していた物を」

 BSS? ブラックスティックセブンの事か? そんな略称、普通に言われても知らんし、松井警部? お前詳し過ぎだろ。

 私は、適当に、×××用の×××を買って来いって言っただけなのに、まさか、こんな物が、自分の人生を左右する証拠になるだなんて思って無かった。

 細長い、×××用の×××をその刑事に渡した。彼は、一瞥すると、後ろのモブ警官に渡した。

「鑑識に回せ、鷲宮悠介の反応が出れば、衛藤夏妃は白だ」

 そこまで言い切るのか? この男の判断力はズバ抜けている。

「えぇぇ? 松井警部、お言葉ですが、それだけで白と言えるのでしょうか?」

「お前は黙ってろよ腰巾着」

 私は普段、心の中でどれだけ暴言を吐いた所で、口に出す事など無かった。でも、このクソ白髪に、頭でブレーキを掛ける事無く口にしてしまっている。それは多分、悠介が死んだという事実に動揺してしまっている自分が居るから。そして、悠介の前では、何も気取らず、言葉を口に出せていた事を思い出させた。

「でもですねぇ、それでもし、鷲宮悠介が使用した物だと断定出来たとして、以前までは恋人同士だった訳ですから、その時に使用した物かもしれないじゃ無いですか?」

「お前さぁ、初めて会った日から思ってたけどさぁ、顔が子分顔なんだよね。だからさぁ、お前がストーカー被害の事で家に来た時、多分コイツ何もやんないんだろぉなぁって思ったんだよね。案の定そうだったし」

 他人に、ありのままの自分の気持ちを吐き出す事が、こんなにも気持ちいい事だなんて知らなかった。クソ白髪は、私を睨みつけながらも、持論を続けた。

「それに、もしかしたら、それを使って×××を拡張していたのは、彼女の方だったかもしれませんよ?」

「やめろ!」

 私が、頭に血が上って、どうしても殴ってやりたい衝動を宿した瞬間に、ドMがクソ白髪に向かって言った。

「えっ? 松井警部? 失礼ですが、私は、自分の推理と言いますか、へへっ、意見に矛盾は無い様に思うんです。何故、この人を庇うんですかい?」

 ジジイの様な喋り方するんだなと思った。まぁ、苦労が絶えなくて、そうなってしまったんだなと憐んだ。ドMの返しをちゃんと聞きたくて、今回は、口に出すのをセーブする事が出来た。

「梅澤さん。もしもあなたに、真実を追求する刑事魂があるのであれば、聞いてもらいたい」

 私自身、苛つきはしたけど、このクソ白髪の言い分は、否定しようが無かった。後々、事実が明らかになれば、間違いだったと分かるものだから、暴言を吐いたのだけれど、今の時点で、あの細長い×××から、悠介に使用した物だと断定出来た所で、私を白だと言い切る要素にはならないと思っていた。

 なのに、このドMの、イナイイナイバァ刑事は、大風呂敷を広げて、あの×××から悠介の反応が出たら、私は白だと言ってのけるのだった。

 イナイイナイバァ刑事は、話しを続けた。

「捜査をするにあたって、不可解な点、道理に合わない点はいっぱい出てきます。梅澤さんは、道理に合わない点ばかりに目を向け、自身の考えに固執してしまっているのです。勿論、私も、衛藤さんが犯人では無い、という持論に固執をしているのかもしれません。でも、それに至るまでには、幾つもの判断材料があったのです」

 コイツは、ドMで、×××に対する性癖さえ無ければモテるんだろうなぁと思った。

「まず、これは今までの経験なのですが、鷲宮さんが亡くなられた事を、伝えた時の反応、あれは、演技だとは思えませんでした。何度もそういう状況を繰り返していると、分かるんです。意外と、知っていたのに、知らなかった振りをするのは、難しいものなんですよ」

「それだけで、彼女が犯人じゃ無いと言うんですか?」

「勿論、そんな筈はありません。演技が上手な方は、一般の方にも多いですからね。その理論だと、有名女優さんは、いくら人を殺しても捕まらない事になってしまう」

「じゃあ、彼女を白だと決定付ける理由って、何なんですか?」

「梅澤さん。あなたは、これはこうだと断定出来る物を探し回っているんです。違う。それじゃあ真実には近付けない。細かい情報を繋いでいくと、限りなく真実に近付ける。僕が、衛藤夏妃さんが犯人では無いと断言する事で、一早く、捜査が別の方向に転換出来る。この仕事は、時間との勝負だ。犯人を野放しにすれば、次の事件が起こるかもしれない。見誤った容疑者を調べ上げる内に、本当の犯人の痕跡が消えてしまうかもしれない。だから、断定は出来無くても、限りなく白に近いのであれば、言い切っていいんです」

「松井警部。それじゃあ私の応えになっていませんよ?」

「その通りです。梅澤さんあなたは、私の言葉に、幾つの陽動が秘められていたか分かりますか?」

「よ、陽動? それは、カマかけて、相手がどういう行動を取るか見るといった事ですかい?」

「その通り。これは、引っかからない人が多いのですが、まずは、被害者が亡くなった事を告げます。そこで、何で殺されたのか? 等と聞く人はもう黒です。こちらは、他殺だと説明していないのでね」

「確かに、そいつは狼狽るばかりで、誰に殺されたんだとか、そんな事は言わなかった」

 別にいいっちゃいいけど、クソ白髪、お前私の事そいつって言ってんな? 私怨出てるよね? いい加減にしろよ。

「それでも、そこまでミスしない人はザラに居ます。ストーカー被害を受けていた相手とよりを戻すなんて、基本的には信じ難い話しです。だからこそ、仕掛けてみた」

「仕掛けた? 一体、何を? 何を仕掛けたって言うんですかい?」

 クソ白髪、お前、とんだピエロだな。色々な推理小説とか、漫画とか読んで来たけど、確かに、的外れな推理する奴が居るから面白い。上手い事ミスリードを体現してくれる。ただ、現実にもそんな奴居るんだなと、現実は小説より奇なりを、ちょっと違うか、現実は小説と同等だというのを痛感させられた。

「まず、鷲宮さんが殺害された現場にあった、ブラックスティックセブン。衛藤さんが、これを知っているか試しました」

「確かその女は、ちゃんとブラックスティックセブンと答えた」

 おいピエロ。いくら何でも、その女は無いだろ。

「そうですね。ただ、正式名称を知っていた事は、実は大事じゃ無い。殺害現場に居たとすれば、知っていても不思議じゃないですからね。たまたま、僕がそういった物に詳しかったので、BSSは、初めて×××を拡張する人が使う物じゃ無い。もしかしたら、その前段階に使った物が、この部屋にあるんじゃないかと思ったんです。そこは、別に間違っていても良かった。もしかすると、鷲宮さんの、以前に交際されていた方に、拡張されている可能性もあるし、無いから黒だとか白だとかでは無かった。ただ、僕の中で、白の可能性が高かったから、あと一押し欲しかった。それだけです」

「だからその前段階があるのか聞いた。そうだったんですかい。私は、どうやってもあなたの居る所まで辿り着ける気がしませんよ」

「まだ終わりじゃありませんよ」

「えっ?」

「梅澤さんの問いに、まだ答えきれていない。もしもその、BSSの前に使っていた物があったとして、以前付き合っていた時に使っていた物か、改めて付き合う事になって、使い始めた物かどうかという謎です」

「たっ、確かに」

「よく考えてみて下さい。彼女が、鷲宮悠介からストーカー被害を受けていたと、警察に頼るというのは、それが真実だからなのでしょう。真実か、別れた後、顔も見たく無いとまで、厭悪を膨らませた結果でしょう。同じ立場に立って考えてみて下さい。梅澤さん。あなたなら、忌まわしい相手に使った、××××××を残しておきますか? きっと、気持ち悪くて捨ててしまう。そして、気持ちの悪い××××××を、ベッドの横の戸棚に入れて置きますか? 衛藤さんが、あのベッドの横の引き出しから、あの×××を取り出した時点で、僕の中から、衛藤さんが犯人の可能性は5パーセント程まで下がりました。なので、鑑識の結果が出るまでは、何とも言えませんが、僕の中で、衛藤さんが犯人の可能性はとても低いのです。だから、他の可能性を考えて、僕達も動きませんか?」

 ピエロは、ぐうの音も出なかった。握った拳が、プルプル震えていて、こういう奴を、思うままに陵辱するのが、私は好きなんだろうなぁと思った。

 張り詰めていた空気は、一気に和らいで、鑑識の結果待ちの松井警部に、お茶でも振る舞おうと思った時に、予期せぬ来訪者が現れた。

「すいません。えっ、衛藤夏妃は、無実です」

 齋藤裕也だった。また、何の用なんだ? もう二度と、顔を見せて来ないと思っていた。ってか、私が無実って、何故、事の成り行き知ってんの?

「あっ、あなた? 確か、齋藤さんですかねぇ? ってか、あなたが、衛藤さんの恋人だったんじゃ無かったんですか?」

 ピエロは、無意識に、裕也の心を掻き毟った。そこは、悠介とより戻してんだから分かるだろ? 言ってやるなよ。イナイイナイバァ刑事だったら、上手くやるんだろうなぁとは思ってしまった。

「僕は、夏妃と別れました。そして、証言したくてここに来ました。彼女は、無実だ。何故なら、鷲宮悠介が殺された、午後七時、夏妃はこの部屋に居たから!」

 私は、何か報復にでも来たのかな? と、勝手に思っていた。違った。裕也は、私の為に、社会的地位を捨てに来たのだった。

「僕は、衛藤夏妃さんを盗聴していました。今日、夕方の六時から、今まで、この、イヤフォンで聞いていました。先程言っていた、午後七時、彼女は、部屋に居ました。僕の仕掛けた、盗聴器の近くに居ました。あぁ? あぁ? と、出ろや。多分電話にという意味でしょう。そんな声が聞こえていました。彼女は、白です」

 正直に言うと、もうほぼほぼ私は白だった。ってか、まだ盗聴続いてたんかい? 何故出て来た? まぁ、私の為にって分かるし、嫌な気はせんけど、んっ、はっ? じゃあさっきまでの全部聞いてるよね? ちょっと前にした、自慰の声まで聞いてるよね? マジキモい。

「有力な証言、ありがとうございます。ただ、それですと、あなた、盗聴していたのを認める事になりますけど、良いですか?」

 いいよ。そいつに気を使わなくていいよ。もう、疲れたよ。眠くなってきた。今日は、朝までヤるつもりだったのに、理屈に合わないね。でも、考え過ぎたのかな? 眠いわ。

「僕は、夏妃ちゃんの無実が証明されるなら、何十年刑務所に入ったって構わない!」

 何か格好良いな。そんな事言ってくれるんだ? 盗聴くらいじゃそんなに入んないよ。あんたはあんたの人生をちゃんと生きてよ。盗聴止めてくれるんだったら私は何もしないからさぁ。

 でも、殺人ってなったら、重いよね。

 何だろう。冷静になってからかなぁ? 分かるんだよね。多分、あの子だろうって。でも、警察には言わなかった。それは、ただ、不確かな事ではあったから、そして、友達だったから、言わなかった。そうじゃ無いって思い込みたかったんだとも思う。

 楓が捕まったのは、二日後の日曜日だった。楓は、捕まった後、精神科医に回されたと知った。精神科医? 意味が分からなかった。楓の過去を知ったのは、夕方のニュースの中でだった。

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