第80話︎︎王、帝。
前回のあらすじ
レタリス王国王城内で飛んできたゆーすちゃんから報告を受ける。
敵意のある神によって起こされた痕跡を確認。
神界進出を目標に対策を講じると決める。
話に置いて行かれてるレタリス組に説明して、行動の話をふわっと決める。
「ふぅ大分落ち着いてやっと戻ってきたよ」
「......」
「これから、どうしたら良いんだろうね。シャノン」
「......」
「は〜あ......シャノン――――」
「陛下、ご報告が」
「――――あぁ、入れ」
「失礼します」
今来たのが狼人間のような見た目のコック、ノエル。
天幕の中に軽く荷物と寝具が置かれている状態で、簡易ベッドには目覚めないスライム娘のシャノンが寝ていて、そばには僕が居る。
「幸い我々の位置は森の横の平地で、森では食料が確保できそうです。森の奥には海が見えておりこちらも魚が発見されております。ひとまず食料はどうにかなり、現在軍を駐屯できる砦の建設を進行中となっております」
「料理がお前の役目なのにすまないな」
「いえ、アレスにイルヴィには役目があります」
「シャノン......」
民は大丈夫だろうか。国には軍が3つ残っているし、将軍も残っている。元帥は連れてきてしまったが、彼らでも回せるだろう。
王たるこの僕が居なくても民は大丈夫だ。内政は僕が居なくても回るようになっている。
軍と政、2点が守られれば民も国も大丈夫だろう。
それよりも問題は僕ら、だろうな。
「奴は......奴らはどうした」
「不明です。謎の転移も奴らがやったことかすらわかりません」
「......シャノンは」
「陛下」
「くっ......」
転移していた時にはすでに、シャノンは昏睡状態だった。
息は止まっていないが魔力が常に乱れている。不安だ、シャノンを失ってしまうのではないかと。
僕が持っているアイテムを使っても起きない。最上級の解呪、解毒、回復、何を使っても起きない。
「少しお休みください。シャノンはヤワではありません。必ず起きます」
「あぁ、わかっているっ......」
泣きそうだ。すべてを捨ててしまうほどに短慮で視野が狭まって決断してしまうような、あの弱かった頃に戻ってしまう。
だが今は一個軍団の命を預かっている。それに大切で信頼の出来る一人がここまで言ってるんだ、前を向かねば。
「備蓄物で作った物ですが一息お付きください」
「感謝する。食料の目処が経っているのなら備蓄を開放し、従軍しているものに振る舞うようにしろ」
「ではそのように。失礼します」
シャノンはいずれ起きると信じている。意識が無いわけでは無いのだ。
それに僕がいつまでも意気消沈してると軍の士気が落ちてしまうし、未知の環境下では最悪恐慌を起こして最悪の状況に陥ってしまう。
この機に、国内の組織に潜り込んだ平和ボケ活動家共が軍団内に居たら、扇動して反旗を翻す輩も出るかもしれん。気をつけねば。
* * *
「......はっ、もうこんな時間」
こんな未知の場所に来てまで政務に時間を取られるのは王の責務といった所か......一個軍団とはいえ我が国の民には変わらんし、未知の場所なら尚更管理や指示に手間取る。活動が多くなれば決裁も増える訳だ。急ぎの行動なら口頭で済ませるのだが、砦設営や陣地化に関する話は大抵決裁書で済ませる。
まぁ現状、捻出できるの現地で調達した資材だけで、資金など何も無いのだが。
「シャノンは......起きてないか」
シャノン。
メイド服を着ているが、僕の相棒であり嫁である。
ギルステア・リット・ヴィストレイとしての覇道。その一番最初の仲間で、国を持つまでにずっと支えてくれていた。その彼女が起きない事実だけでも辛いのだが......この謎の転移には悪意を感じる。
なぜシャノンだけが昏睡状態なのか。他にも疑問が溢れているが、今は背負っている命の為に動かなければ、と言い聞かせて動くしか無い。
僕......我が背負ってるのはシャノンだけでは無いからな。
「流石に今日は眠れない、な」
今まで培った魔王としての精神性のお陰で、焦ってしまう事も無いが......シャノンと時間を共有出来ないのは結構刺さる。
だが今は彼女の魔力を見ると、この場所特有の魔力との支配権争いをしている様に見える。実際どうなのかは分からないけれどね。
彼女は今、内側で戦っているのだろう。
「シャノンが目覚める前に事を終わらせておきたい」
彼女が諦めず戦っているのであれば、僕も未知との戦いに備えなければね。
予測できない事が多くて、これからどうなっていくのか一切わからない。
明日には大規模な襲撃を受けるやもしれない。
軍団の兵士も従軍してくれている、軍隊上がりではない者も、不安でいっぱいだろう。
だが僕も彼らも、愛する者の為に今を乗り越えなければならない。
我が国民になった以上、心に灯った焔を燃やし続けねば、この残酷な世界は生き残れないと皆知っている。
なればこそ、よりいっそ奮起しなければ。
* * *
「おあー」
疲労で頭がぼーっとするぅ。
この一週間の間、対処する為に全力でやる事に潰されて、イチャイチャを控えてしまったせいで完全にダウンしてる。
なんやかんやすれば疲労を感じない身体に出来るけど、嫌な疲労じゃないからこのままでも良いと思って放置。
「マスター、お母様、本日の報告書ですぅ」-
グナーデちゃんも疲労感が表に出てるなぁ......ALICEトップに立って管理する立場で、報告を捌いて只管に中間管理してるから、本当に偉いねぇ......!
「ん、おつかれ。それはこっちにおいて、おいで」
「いいのです?」
「えぇもちろん良いわよ。グナーデは音亜ちゃんの右腕なのだから」
毎度だけどイチャイチャ空間に自分が入る事を躊躇してるグナーデちゃん。えーなの次に一緒に過ごしてきた大事な家族で、数少ないえーなほどに心を許せる一人だからもっと遠慮は無くしてほしいな。
えーなとグナーデちゃん、リアノアにALICE、悠羽と響羽ぐらいしか心を許してるモノは居ない。
他のは従者でもペットでも、仲間で信頼していても心は許せないからね......心を許すってことは隙を与える事になる。
これまでの経験上、ね。あんまり信用ってしずらいものだから。
これまでの人生を振り返って前向きに動くなら隙は減らさないといけない。信じていてもね。
「あぅぅ......なんだかムズムズしますぅ......」
「ふふっ」
なんだか嬉しいな。私が心を許してる人に心を許してくれる、その事実が暖かい。
家族のように慈しんで
「――様〜!」
「あら、うちの娘が集まってきたわね」
ドタドタと廊下を駆ける音と共に、悠羽と響羽の声が聞こえてきた。
扉を勢いよく開けて、密集してる私達の中に抱きついてきた。
「ずるい〜」
「あたしもー!」
ゆったりとした空気感に気づいて集まってきたのかな。最近の忙しさやばかったから癒やされるぅ。
程々に撫でてあげた後、みんなとくっつきながらうとうとし始めた。
「ん、だめ......寝ないように資料を読み返そう......」
ぽかぽかでほっかり空間過ぎて寝ちゃうから、報告資料の振り返りをしよう。
まずこの一週間の間に、正体不明の軍団の接触が3回あった。
軍団発生付近の村から街に繋がる森林部分にて、第1接触が発生。姿を発見した後相手は即逃げていったと村衛兵から報告が上がったと、レタリス王国側から連絡。
第2接触は同じく街道への道途中、もっと直接的な接触が発生。不明の言語を喋っていたと村衛兵へ報告が上がったそう。
第3接触は......詳細不明。街道まで村衛兵の巡回があるのだが、当日の当番である18名が行方不明となった。分散展開している村衛兵であり、魔物や盗賊の影響が少ない環境下での、痕跡無しで行方不明になるのは明らかに軍団の仕業であると推測された。
まぁここでゆーすちゃん率いる監視部隊の報告だね。
相手の言語は分からないが解析から翻訳まで時間はかからない。
誘拐された18人は、極めて穏便に回収されたとの事。長距離観測では今がっつりもてなされていて、対価として言語を解析しているのが確認されている。
察するに穏便な接触の為の行為なのだろうけど......戦力面で優位性を持っている、または絶対的自信があるからこその強硬手段なのだろうね。
「ふ......ぁ〜」
「眠くなってきちゃったかしら」
「うん〜」
おや、悠羽はもう寝ちゃってるし響羽も眠そう。
もう今日は寝ちゃおうかな。明日頑張る。
フィリア精霊帝国万歳!エイネア万歳!
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