第70話 食欲、睡眠欲、いちゃx2欲
リリスママが席を立ち、リリスパパの手伝いへ行った。
リリスちゃんはテストの疲れからか、隣に座っているセルの肩に頭を乗せて寝ている。
私はえーなに頭を撫でられて心穏やかに料理を待っているところだ。
「香りが漂ってきたわね」
「ん、店の料理はこれが良い」
「来るまで香りで楽しめるのは良いわよねぇ......高級料理店なんかは目の前で作ってもらえるし、宿を作るのならありかもしれないわね」
「確かに見るのも楽しい」
地球に居た頃は目の前で料理されても、かの永那の嫁さんが無表情で見つめ続けてくるって、料理店界隈では言われてて地獄みたいだったらしい。
えーなの機嫌を損ねれば経営も危うい所が多かったし......あっでも今も変わらないね。
だって国のトップだもん。
「特別な食材じゃなくてうちで使ってる物だから、大丈夫だとは思うけどどうなるかしら」
「んぇ、もしかして処理とか火を通しとか難しい?」
「そんなことないわよ。ただ、この辺りで住んでる彼らだと、インパクトが強いんじゃないかしら。神力に浸った食材を見た時、一般人はオーラを感じるそうよ?」
あ、そっか、私たちは神力を抑えてるからオーラとか威圧感が無い。
けど食材は漏れ出た神力を貯める傾向にある......特に野菜とかね。
栄養素を吸収して成長してるから、土に含まれた神力が野菜を強くする!
効果に健康長寿とかありそう。
「確かにインパクト強い」
「主殿の神力を貯めた食材の効果に、魔力筋力増強がありますな。精霊帝国では年々、冒険者ランクの水準が高くなる傾向にあり、農民も一人が管理する広さも段違いでありますぞ」
「私達の神力は国内全域に漏れているから、それで国に恩恵が得られるなら良いわね。でも神であることを表に出さずって方針なのに、これじゃいずれバレてしまうわね」
「ん、たしかに」
国内だけで神力を溜め込んだ食材が出回ってるって事は、言外に神が居るまたは神の恩寵を受けた土地ってことになる。
噂が広がって神が居るとか、神の恩寵を受けているとかが当然の事実になるかも。
そうなってきたらこの大陸外の宗教国家とか、大陸内既存の宗教に存在する膿が活発になるかも。
面倒くさいなぁ......でも潰すのも暇つぶしになるから良いか。
「雑談はさておき、そろそろ出来上がりそうね?」
「楽しみですな〜」
「んっ」
「すや......」
軽い雑談をしていると、料理の進捗を知らせる良い香りが漂ってくる。
懐かしいスープの香り、ウルフの肉を焼く油の音が聞こえてくる。
硬いパンと一緒でそこまで質が良いとは言えなかったけど、一週間滞在してたから食べる事が多かった。
それ以来全く食べてなかったから本当に懐かしい。
「今思えば、ウルフ肉って筋張って硬い肉だったけど、イーノが柔らかく工夫してたのね」
「ん、元冒険者。ぱわーで解決?」
「実際そのようですな。作業音が聞こえないのは魔道具で、一定以上の音を遮断しているそうですぞ」
「へぇ配慮もばっちりね」
「宿でバンバンは流石に気をつけると思う」
早朝とか夜にキッチンからバンッドンッ! って音がなったら流石に宿泊したくないよね。
冒険者からしたら目覚めのアラームみたいなものになるかもだけど、旅してるタイプの人からは泊まりたく無くなるよね。
魔の森を目の前にして、戦う冒険者の多い昔は良かった。
今の魔の森は昔とは違って、うちの領土になってる。
領土になっては居るけど魔の森に関しては、冒険者であれば侵入して狩りや採取をすることは許される。
それに今は、魔の森の外へ魔物が出なくなっている。
うちの娘たちが管理してるからね!!!
あと立地っていう面で、私達の国が近い理由もある。
観光や旅行、精霊帝国へ行く前の中継地点として機能してるから、冒険者ばかりではないのだ。
「おまたせ、ウルフ肉のステーキとスープ、そしてパンだよ! パンはおかわりもあるから言いな!」
リリスママが料理盛りだくさんのお盆を両手に私達の所へ戻ってきた。
待望の料理が来たね! 懐かしいなぁ、でも昔とは少し違う......?
「少し前から色々な調味料が回ってきてな、色々改良してるんだ。客からは評判がいいから新しい客もふらっと寄ってくれるようになった、楽しんでくれ!」
「ん、いただきます」
「いただくわね」
「いただくであります!」
「すやぁ......」
一口目は旨味が旨味してそうな、食欲をそそる香りを放つウルフステーキから。
「はい、あーん」
「あーん......ぉ! あふっ......すごい。えーなも、あーん」
「あーん......! 凄くお高い牛肉みたいな食感になって凄いわね」
「うまいですな!」
昔食べた時はリリスパパの手によって美味しく食べられる程度には手を加えられていた。
だけどウルフ肉だから筋肉質で、筋張ってたり固かったりと欠点もあった。
今食べたウルフ肉は高級店の口の中で溶けるお肉......ってほどじゃないけど匹敵するぐらい柔らかくなってる。
肉も凄いけど、味付けもかなり強くなってる。
素材を複数使った複雑な味なんてなかったのに今じゃかなり違う。
多分私達の国から回ってきた香辛料とか色々を使ったんだろうね。
ピリッと効いたり、バジルのような香りが通ったり、一度では説明できない正にハーモニーが生まれてる。
「んっ、ナイスリリスパパ。良い味付け、お肉は下処理が凄い。その探究心、大事」
「ありがたきお言葉ですぜ!!!」
少し目が潤んでいるけどすごくいい笑顔でガッツポーズを取ったリリスパパ。
お肉でこれならスープもパンも期待できるかも。
肉だけ手を込んで研究なんて......しないよね?
「ずずっ......っ!」
スープに口を運んだらやはりレベルが上っている。
何よりこれは確信を持って言える。
「はむっ......ん〜〜〜♪」
良い香りを放つパンをスープに浸して、そのまま口に運ぶと多幸感が溢れ出してくる。
このスープ特別味が濃いけど、パンが中和してくれる。
パンを作る過程で味付けされた強い香りのある味を、スープが中和している。
なんてこった......お互いが中和しあって、無限に食える......合間にウルフステーキを口に運べば胸躍る食事のスポーツだ。
たった3品でこれほど多幸感が得られるなんて......腕、上げたねぇ。
まぁえーなの作ってくれたご飯には、美味しさも多幸感も負けるけどね!!!
「これなら通用するわね。美味さもそうだし、貴族なら平民の直接的な食べ方を新鮮に楽しめる」
「ん、楽しめない固いやつは来なきゃ良い。しつこければ消せばいい」
「そうね〜」
「「(しれっと怖いこと言ってる......)」」
私達の国が提供する学園都市だから、私達のルールを当てはめる。
独裁的でも人が集まるのは見えてるから、そのままのスタンスを貫くよ。
「むにゃ......ぅ?」
私達が宿のリニューアルした料理を楽しんでいると、しれっとセルによって肩枕から膝枕に変えられていたリリスちゃんが起きた。
顔は見えないけど、困惑した声色だね。
「おっ、やっと起きましたな。テストお疲れ様」
「ほわぁ......へぁっ!?」
セルがリリスちゃんの頭をポンポンと撫でたみたいで、勢いよくリリスちゃんが起き上がったよ。
「リリス、食うか?」
「あっ食べる食べる......ほわぁ」
起き上がったけど呆けたままのリリスちゃんにリリスパパが声をかけると、意識が戻ってきてすぐに顔を赤らめて呆けた。
え、耐性無さすぎじゃない......?
「セル、好きにしていい、けど仕事はしてね」
「えっどういうことでありますか」
「おー鈍感系だった......」
「いや分かっていて言ってるわよね」
「なんのことだかわかりませんな!」
鈍感じゃなくて照れ隠しか、まさかうちの娘たちの弱点が好意だとは......!
箱入り娘ならぬ箱庭入り娘だから、箱庭で仕事をしていてハイスペックでも他者の好意には弱いんだなぁ......
変な人に捕まらないように、一応ヒアリングとかして守ってあげなきゃ。
「まぁ......リリスちゃんなら大丈夫かな」
「「ほ゛っ!?」」
「ふふっ初々しいわねぇ」
お互い脈アリで、ピュアな反応をしてるなら変なこと起きないだろうし、うちの職場は自由恋愛なのでね。
ただ私達の娘を黙って見過ごすことはない、しょーぶに勝ったら娘をやろう......くっくっくっ。
「持ってきたぞ〜」
リリスパパがリリスちゃんの料理と私のおかわりを持ってきた。
「ん、ありがと」
さて、あともうちょい食べて、時間のあるうちに色々進めようね。
頭を撫でるえーなの手を感じながら、これからの行動スケジュールを脳内で組み立てていった。
フィリア精霊帝国万歳!エイネア万歳!
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