第59話 多くに見られる事が綴られる歴史。
「「「隊長っ!」」」
勇者達と離れ、聖王の元へ向かっていると親衛隊隊員の一部が俺を追っかけてきた。
「お前ら......なぜ......いや、覚悟を決めたのか」
一瞬隊員たちを咎めようとしたが、それは彼らの気持ちを踏み躙るものだと思い、言い直した。
「はい......ここに居るのはもはや騎士ではありません。剣を持つ、己のが意思をもった剣士......革命の鉾です」
「そうか。お前らも、覚悟が決まったみたいだな。ならば征こう」
「「「ハッ!!!」」」
俺達を仲間だと思っている聖王派閥......勇者を奴隷とし、隷属させる為に行動する者達を横目に駆けていく。
アイツらは視野が狭すぎる。
勇者として召喚された者......俺達じゃ立ち向かえない魔王への対抗戦力、その勇者に牙を向ける時点で知能が足りてない。
俺達がどうにもできないから召喚してるのに、その相手に強制的に隷属させるなんてな。
絡め手が刺さればいいが......そもそも今代の勇者相手じゃ明らかに悪手だ。
最初に見たときの印象は強烈だった。
なにが強烈か、それは纏う空気だ。
武人ならわかるし、策謀に慣れた貴族なら隠された顔が見えるはずなのだが......耄碌したか。
後から知られた情報もそうだし、情報伝達が遅れてるならまだしも正常に伝達されて判断を変えないのはな。
「っ!」
勇者奴隷化派閥......心が追い詰められ視野狭窄的になってしまった者達。
可愛そうな奴らだ。
だが視野の狭くなった者達の中にも、頭を働かせられる者達も居る。
......我々が敵対勢力であることを理解する者達だ。
「貴様らッ......聖王の忠実なる騎士であるはずの貴様ら......やはり行動を起こすとはな......ッ!」
「お前らの方こそ物事に囚われ過ぎだッ! 俺と同じく迷いがあるなら俺の方に来い!」
迷いがあるならと、告げたが分かっている。
あいつに迷いなんて一切無いって事を。
「裏切り者めがァ!」
――ガキィン
「俺は隊長まで上り詰めた男......覚悟しておけよ」
「ッ......」
俺は相手を見つめなおし、剣を振るった。
* * *
剣と剣がぶつかり火花を散らし弾き合う。
たまに受け流しては切りつけ、相手の切りつけをギリギリで躱し、鎧または肌に浅い傷を作る。
「「うおおおおおおお!!!」」
激しく、絶え間なく行われる剣裁。
「周りも戦いの手を止めて見てるわね」
「んね」
グルシチが聖王へ矛を向けようとしている。
元聖王親衛隊隊長を止める為の戦い......いや一騎打ちを見届けているのだろう。
こういうの見てると映画とか思い出すな~って。
将軍が奴隷に落とされて、最終的に皇帝を殺すアレ。
現代じゃありえない戦いだからこそワクワクして見れた。
いつもえーなはもっと鮮やかに、瞬時に敵を倒してくれる。
それは映画のような拮抗する戦いとか、魅せる戦いではなく淡々とした処理。
けれどこれは違う。
「ぐっ......!」
拮抗した戦いはグルシチの手に依って崩れる。
聖王側の騎士は相手を殺すことを考え体を狙っていたが、グルシチは違った。
剣に強い衝撃を与え、相手の腕の無力化を狙っていたのだ。
――ざわっ
「――よい、主の負けだ。控えよ」
「は......!? ははぁ!」
場に居た者皆一斉に驚き、静まる。
人から発せられるオーラ、背中から感じる神々しい気配、重々しくよく通る声。
間近で受けた騎士はひれ伏し、その人より後ろへ下がる。
「聖王へい......いやマルーシャ」
「フン、お前も裏切るのか」
「......違う、正すだけだ。捻じ曲がってしまったお前をな」
聖王とグルシチが睨み合う。
おぉ......凄いドラマティックな展開。
親友が考えを別ち、道を違える。
そして巨悪となった親友を止める主人公......ってところかな。
「お前にはわからんのだ。失う辛さを」
――ブォン
聖王の一言と共に大剣が振るわれる。
「お前にはわからん。国の為に、時には倫理さえ無視せねばならぬ時を」
――ブォン
グルシチの身体に大剣の風圧がかかる。
「だがそんなお前でも親友だ。引いて、くれるか」
マルーシャが大剣を振り上げ構える。
彼は......考え方が私達と似てる。
違う所は地位に縛られ既に大切を失ってしまって、気持ちや目的の方向性が暴走している所。
会場に戻る途中にグルシチから聖王の話を聞いた。
彼は側室を持たずに、たった一人の妻を四天魔獣王の侵攻で失ってしまった事を。
だからこそわかる。
地位さえなければ身をもって大切が守れただろう、大切を失って無ければ親友に刃を向けなくて済んだだろう。
そんな心の気持ちが溢れ出てるのを。
「......それは出来ぬ」
「ならば......死ねェッ!」
――ガキンッ!
先ほどの素振りより研ぎ澄まされ、高速で振り下ろされた大剣。
それが今、阻まれた。
「っ......お父様、もう、諦めてください。復讐に、他者を巻き込まないでください」
見るだけでも威圧されるような大剣を、なぜか安心感を感じる盾が防ぐ。
そしてその持ち手がイワノフだった。
「フン、守られ守る事しか出来ないお前に何が出来るというのだ」
マルーシャがイワノフの盾を見ながら言った。
顔を険しくして、イワノフが言い返す。
「確かに僕は守られて生きて来た。手に入れた力だって守護するもの。それでも、間違った道を行こうとする国を、正す力はあるはず」
「マルーシャ。俺はお前より剣の腕が高く、王太子殿下は守る力が秀でている。勝てる要素はない、だから矛を収めてくれ」
強く反論するイワノフと聖王に降伏を促すグルシチ。
だが聖王の瞳は揺れることは無く、強い決心と共に大剣を構えた。
「覚悟を決めたのならばかかって来い」
「っ......マルーシャ......」
「お父様......」
聖王の言葉を受けてグルシチは表情を歪め、イワノフは覚悟を決めた表情をした。
そしてグルシチは剣を構え、イワノフはグルシチの前で盾を構えた。
「守れるものなら守って見せよ、排除できる物なら排除して見せよ」
――ジリ......
空気がヒリつく。
見守る騎士と貴族達が息を飲む。
この戦い、一撃で倒さねばマルーシャの勝利になる。
何故なら最強の盾があろうとも、研ぎ澄まされた剣技があろうとも、絶対の暴力には抗えない。
大剣とは思えない速度で繰り出される斬撃は、聖王が本気で行けば盾で守らなきゃ回避できないだろう。
そして一撃で倒させねば二撃目が来る。
――ポタッ......
「シッッ!!」
誰かの汗が滴り落ち、無音に等しい世界は崩れ大剣が振り下ろされる。
「頼ん――――」
大剣を受け止めに行ったイワノフは、グルシチに振り下ろされた大剣を横に逸らし、衝撃で吹き飛んでいった。
そしてイワノフの守りを信じたグルシチは既に聖王に剣を――――
――ザク
「かはっ......」
「っ......なぜ......」
グルシチの剣は聖王の胸に刺さり、聖王の逸らされたはずの大剣はグルシチの頭の上を通り過ぎた。
「当たらなかった......ようだな......」
「マルーシャ......」
マルーシャは逸らされた大剣の勢いを乗せたまま、腕と手首を使い切り返していたのだ。
並みの力、並みの技量では成し得ない動き。
「わざとなのか......?」
「ふん......」
――ドサ......
グルシチの質問には答えず、失血のせいか虚ろな瞳のまま背中から倒れた。
「......」
聖王......親友だったモノを見下ろし立ち尽くすグルシチ。
「お、とう、さま......」
私達の背後で息を潜めていたシュリーニャに肩を貸してもらいながら聖王......父親に近づくイワノフ。
兄妹で父親の亡骸を見下ろす。
周囲は静けさを取り戻し、騎士や貴族達も静かに場を見守る。
戦う事を躊躇わせる強い意思を見たのだ。
血縁者、親友同士、その戦い。
そして最後に躊躇った聖王。
もうちょい物語として深堀したらすっごいエモかっただろうなぁ......まぁ関係ないけどね。
所で話が変わるけど勇者なのに私達放置され過ぎだよね。
あのー私達、狙われてたんですが......気づいたら内輪だけの戦いになってませんかぁ。
まっ、見てる側に回れるたからありがたいけどね。
クライマックスのイベントも終わったしそろそろいいかな。
「ん、終わったなら、すべきことをすべき」
「「「!」」」
私が三人に声をかけた。
この今を噛みしめたり、尊ぶ空気感は良いけど戦いは終わってないはずだからね。
ここに居ない者はまだ戦っているだろうし、聖王が死んでも狂信的な者なら抵抗を続けるだろう。
だからこそすべきことを、ね。
「そう、だね。聖王親衛隊隊長、僕の指揮下に入ってくれるかい?」
「......ハッ、聖王の指揮下へ。指示を」
イワノフが目つきを変え言葉を並べ、グルシチは新たな聖王を迎え入れた。
「事態収束の為に動くよ――――」
そしてイワノフの命を受けた親衛隊と、場に居た仲間の騎士団と共に、場内の抵抗勢力を捕縛または無力化していった。
だが、場内の事態が終わっても戦いは終わらない。
今も尚会場外では戦いの音が鳴り響いている。
「あ、あの私は......?」
そして特に役割もすべき事も、私のせいで後回しになってやることがない王女が呟いたのだった。
フィリア精霊帝国万歳!エイネア万歳!今回は聖王対決編!
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