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女神適合者の異世界侵行  作者: 水無月鷹野
追想 解放者永那
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永那の追想Ⅲ 趣味


「はい、水。飲んだ方が楽になるわ。あと音亜ちゃん、お腹すいてる?」


 お風呂から出てリビングにあるソファーに音亜ちゃんを下ろし、私はキッチンでコップに水を注いで来て、音亜ちゃんに差し出した。

 音亜ちゃんは変わらず無表情。ただ私の顔に視線を向けている。


「(......こくり)」


 ゆっくりとした動きでコップを受け取り水を飲み、私の質問に首肯で返してくれた。

 緩慢な動きを見るに疲れてるようね。

 食べ終えたらゆっくり休ませなきゃいけないわ。

 久しぶりのシャワーに疲労感を感じてるかもしれないし。


 湯船に浸かると逆に疲労感を感じることもあるらしいし、気を付けないと行けないわね。


「何か食べたい物とかある?」


 質問を投げかけると、音亜ちゃんは私から目線を外した。

 目線の先はソファーの目の前に置いてある机、その上に置かれたノートパソコン。


「何か......調べたいのかしら。それとも出前?」

「(こくり)」


 私が質問するとゆっくりと首肯した。

 出前、かしらね。


 ――とてとて


 音亜ちゃんがゆっくりとした動きでソファーから降りて、ノートパソコンの元へ。

 そして画面を付け、利き手じゃないせいか慣れない動きでウェブページを開く。

 拙い動きで開かれたウェブページは、今日ここに来る途中に出会った店長の店。

 ピザ屋のデリバリーページだった。


「どれを食べたい?」


 私は画面を見て、音亜ちゃんに尋ねる。


 ――ちょんちょん


 すると横から音亜ちゃんの指が伸びてきて、私の頬を突く。

 突いた後にノートパソコンを私の方に向け、私の顔をジーっと見つめ始めた。


「私に決めて欲しいのね?」

「(こくり)」


 ジーっと私の顔を見て、行動を止める。もう思い出したのだから流石に間違えないわ。

 音亜ちゃんは私にピザを選んで欲しいみたい。

 それは私の選ぶピザが食べたいのか、単純に選ぶのが面倒なのか。


 答えは明白で、私の選ぶピザが食べたいのだろう。

 理由は簡単。音亜ちゃんはここに来てから、全く同じ種類のピザしか食べていなかったからだ。

 嬉しいわね......


 そういえば私、知らなかったわ。

 音亜ちゃんってあの家に住んでいた頃、何を食べていたのかしら。

 ......いつか大丈夫な時に聞けると良いわね。

 音亜ちゃんの事なら何でも知りたいもの。


 何のピザにするか悩んだ末、満足感の多そうなピザを選んだ。


「これ音亜ちゃん食べられる?」

「(......コクリ)」


 私から目線を外して、モニターを見て早めの動きで首肯した。

 ピザが楽しみなのだろうか? 読み取るのは難しいが、ゆっくりでもいいから理解していきたいわ。

 私が選んだピザをカートに入れ、プリンとかもあったからそれも入れ、注文を確定させた。


 もうしばらくあそこの店長には頑張ってもらう事になりそうね。


 ――とてとて


「......♪」


 音亜ちゃんがソファーに戻り、楽しみな気持ちを体で表現している。

 具体的に言うと体を左右に揺らしている。

 これも初めて会った当初を思い出させる動きだ。


「隣、いいかしら?」

「(こくり)」


 私も隣に座って、ピザの到着を待つ。

 部屋は無音状態で電気も付いておらず、パソコンの光だけが私達を照らしている。


 きっと分かっていない人間が見たら、電気を付けろ(など)宣う(のたまう)だろう。

 だが私はちゃんと知ってる。音亜ちゃんは暗闇が好き。

 曰く、暗闇は盾。だそうだ。

 言葉から推測するに、音亜ちゃんの親は容姿を嫌っていたのだろう。

 そして容姿が見えない環境下であれば、特に手は出されなかったらしい。


 人間とは斯くいう醜いものだな、と思う

 自分と少し違うだけで暴力性を発露させる。

 そもそも相手を理解しようとする気持ちが無い。

 実に現代的な獣だ。


「そういえば音亜ちゃん。音亜ちゃんは小説を読むようになったのかしら」

「(......! こくり)」


 人間の醜さについて考えに耽りそうになったから、音亜ちゃんの事をもっと知るという崇高な方針へ転換した。

 掃除をしていた時、小説が部屋の至る所に散乱していた。栞の代わりに何か適当な物を挟んだ状態で。

 それらは全部コピー用紙で簡易的な栞を作って入れ替え、音亜ちゃんの手の届く高さの本棚に入れた。

 因みに本棚はリビングに置いてある。


「新しい趣味が見つかってよかったわ」

「(こくり)」


 あら、私ってこんなに会話が下手だったかしら。

 話がここで終わってしまい沈黙が流れる。


「「......」」


 ――とてとてとてとて


 音亜ちゃんがソファーから降り、本棚へと向かった。

 暗闇の中で小説のタイトルを見て、目当ての物があったのかそれを手に取ってソファー戻ってきた。

 持ってきた小説の表紙を私に見せてくれる。


「あらこれは......」


 表紙を見て思った。大分コアな物を読むんだな、と。

 最近では廃れて来た異世界最強物。

 昔、娯楽に新鮮さや爽快感が無くなった倦怠期。爆発的に人気が伸びたジャンル。

 今やフルダイブVRなどのゲームが発売され、小説のジャンルもゲーム系に推移して行った。


「音亜ちゃんはこのジャンルが好きなのかしら?」

「(コクリ)」


 この小説は『優しき敗者、異世界の魔王になる』という題名。

 黒く暗めの描写の中で、小柄な少女が玉座で脚を組んでいる。

 そして周りには異形の生物たちが侍っており、皆が少女に忠誠を誓っているのが窺える。

 悪堕ち物......? ダークな物語なのかしら。


「どんな内容なの?」

「......」


 私が質問をすると小説を開き、挿絵を見せてくれた。

 挿絵の内容は、少女と異形達が人間を相手に......仲良く食事をしているシーンだった。

 それは異様な光景で、でも平和を願う者が叶えた未来のような絵だった。

 意外とハートフルな内容だったりするのかしら。

 

 ......音亜ちゃんはやっぱり純粋ね。


「優しい物語?」

「(コクリ)」


 私が確認をするとやっぱりそうだった。

 音亜ちゃんはこんな優しいのを望んでるのかしらね。

 その願いを私の力で全力で叶えてあげたいわ。


「今度私に読ませてくれる?」

「(コクコク)」


 私がお願いすると、音亜ちゃんは忙しく首肯した。

 ふふっ、私も読んで音亜ちゃんとの話題に出来たら良いわね。

 それに音亜ちゃんが読みたい、見たい世界を知りたいわ。

 

 ――ピンポーン


「......!」

「あら、来たみたいね」


 小説の話に区切りが付いた所で、丁度良く出前が届いたようだ。

 音亜ちゃんが音に反応して扉の方を見て、私の事を見た。


「私が取ってくるから待っててくれる?」

「(コク)」


 私が尋ねると、音亜ちゃんはしっかりと首肯した。

フィリア精霊帝国万歳!エイネア万歳!今回は過去編Ⅲ


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