第4話・永那は拠点作りへ
※2023/08/09 加筆修正済み
「行っちゃった、わね」
音亜ちゃんが森へと歩いていくのを見て、寂しい気分。
寂しいし、心配な気持ちが抜けないけど、気持ちに翻弄されて本懐を忘れちゃダメよね。
音亜ちゃんの楽しめる様にするのが私の使命、だから拠点となる家は音亜ちゃんの望む形で、今作れる最高のモノを。
「作るのはログハウスね。イメージはグランピング......あとしたいことを出来るように色々、ね」
その為にはまず丸太を確保しなければならないわね。
道具も無いわけだから、道具を用意......なんてしてたら音亜ちゃんが帰ってきてしまうわ。
だから魔法を使って丸太を確保する。
「このぐらいの太さが良いわね......≪ディメンションカット≫」
私は手のひらを木へ向け<空間属性>に存在する魔法、≪ディメンションカット≫を発動した。
この魔法は文字通り次元斬りで、ほぼなんでも切れる......らしいわ。
所持している属性の魔法は、知識として存在していて、丁度良さそうだから使ったけれど――――
「――――これは......ふふっ、作業が楽になるわ」
結果に満足。
木がすぱっと切れて、切り口から上を手で押すとバランスが崩れて木が倒れた。
≪ディメンションカット≫は次元に干渉し、存在をズラして断ち切るという結果を残す。
だからこそ消費魔力は多いらしいのだけど......そこは神様ぱわーね、魔力が尽きる感じがしないわ。
この調子で木を切って、枝切りして丸太を確保していきましょう。
* * *
ある程度大きさを決めた丸太が、拠点予定地に集められた。
あまり時間は経っておらず≪ディメンションカット≫された木は、同じ属性である≪アポーツ≫で運ばれた。
「魔法が便利すぎてヤバいわね」
ここまで乱雑に木を斬って予定地に引き寄せてきたけれど、改めて魔法の凄さを感じてるわね。
ゆったり出来る程のログハウスを作る材料は膨大で、それを数時間で用意すると数百人に木を樵らせ、運んで加工して貰わなければならなくて、金が沢山必要になる。
でも私一人居れば、魔力を使う以外ほぼノーコスト。
「地形だって適当にディメンションカットすればいいし、アポーツで土とか岩退かせばいいし、楽だわぁ〜」
鉄製じゃないけれど、釘を作ったり細かい加工とかも小さく≪ディメンションカット≫をして作れば良い。
≪アポーツ≫で丸太を任意の位置に引き寄せて、ログハウスを形成していく。
* * *
出来たッ......圧倒的ッ......ログハウスッ......!
丸太に木の繊維と少々の岩、ほぼ全てを木材由来の素材で作られた家と家具たち。
<生活魔法>で≪乾燥≫なるモノがあって、円滑に出来たわ。
流石にベッドだけはマトモな品質には出来なかったけれど。
急務ね......夜が大変になるわ。
「あ、折角なら≪鑑定≫してみようかしら」
私が作った家具は雑草と違ってどんな表記になるのかしら。
音亜ちゃんも気になるだろうし、鑑定結果は転写しておくべきね。
[家具] ダークモルスの机 レアリティ:A 品質:A
ダークモルスと言われる木を使用された机。
木製だが重量がとてつもなく、完璧に作られた机は一切揺れない。
[家具] ダークモルスの椅子 レアリティ:A 品質:A
ダークモルスと言われる木を使用された椅子。
頑強で重量があり持ち運びが不便。
[家具] 魔力岩のキッチンセット レアリティ:A 品質:A
大量の魔力をぶち込まれたのキッチンセット。
かまど二つと、シンクに調理台があり、魔力の圧で矮小な生物は死ぬ。
[家具] ダークモルスの浴槽 レアリティ:A 品質:A
ダークモルスと言われる木を使用された浴槽。
頑強で重いが木製の為、浴槽自体に熱を保持せず、ゆったりと体を預けて浸かれる。
[家具] ダークモルスのベッド レアリティ:A 品質:A
ダークモルスと言われる木を使用されたベッド。
どれだけ激しい動きをしても壊れないが、マットレスを置かなければ寝心地は悪い。
色々作ったわねぇ......他にも彩りの為の観葉植物とかあるけれど、全て鑑定してたら時間が足りなくなるわね。
それぞれの鑑定結果を見るに、ある程度基準は満たせたと思うわ。
木製で暑くはならない家だけど、鋼以上の防御力のある要塞って考えるとヤバいわね。
「さて、予定通り早く家を作れたし、探索をして道具作りもして行きたいわね」
包丁とか無いし、料理の時に魔法を使っても良いけれど、流石に嫌ね。
料理は繊細な作業だから、手に馴染んだやり方でやりたい。
「鉱物とかあると助かるけれど......あってもどうやって加工しようかしらねぇ」
音亜ちゃんが家に帰ってくる頃には、道具を作っておきたいわ。
さて、音亜ちゃんが行った方とは反対の山側に行ってみようかしら。
* * *
傾斜がきつかった所も終え、落ち着いた地形の所まで来た。
――ズン....ズン....ズン....ズン....
でもなんか居るのよねぇ......鑑定で確認しておきましょう。
もう見た目で何なのか解るけれど一応ね。
[魔物] アイアンゴーレム レアリティ:B 品質:B
鉄鉱石に魔力を帯び、魔力が結晶化して魔物となったモノ。
魔力で精錬された鉄は、銀のような輝きを放つ。
「ふふっ......丁度いいじゃないの」
道具を作る為に鉱石を探すという、結構無茶なことを考えていたけれど......最高のタイミングね。
「さぁ私のウォームアップに付き合いなさい......≪ディメンションカット≫」
採取とか加工と戦闘は別。
遠距離攻撃だとしても変わらない。
そしてゴーレムが居る以上、周囲一帯も安全ではない事を示唆している。
ならば、守るものならば。
「ゴゴゴゴゴゴッ!!」
私の放った≪ディメンションカット≫は確かに腕を落としたが、アイアンゴーレムが私を補足して一直線に駆けてくる。
やはり痛覚は無い様ね。
「ッ≪ディメンションカット≫!」
危機感を覚えた私は瞬時に首を狙って魔法を放った。
「グゴッ......」
声帯に該当するのは首か頭にあったみたいだが、動力源は別みたいね。
足を止めること無く駆けてくる。
ここまで来ると私も冷静だ。
「≪ディメンションカット≫」
他にも魔法があるけれど、効果的なモノを連発するのは悪い事じゃぁない。
≪ディメンションカット≫はゴーレムの両足を通り過ぎ、足が置いていかれ上半身が投げ出される。
片腕と胴体しか残っていないが、それでも敵を排除しようと片腕を動かし、近寄ろうとする。
「お疲れ様......≪ディメンションカット≫」
体の中心に魔法を斬り込むと、力が抜けたようにゴーレムが止まった。
「ふむ、やはりコアがあるのね」
魔法を何時でも放てる様に構え、ゴーレムの亡骸に近づいて調べていると、胴体中心部分にコアらしきものが見つかった。
ゴーレムって思えば、かなり不思議で便利な存在よね。
コアだけあれば戦闘に移行して、戦い続けるってことよ。
解析すれば今後音亜ちゃんがしたいことを楽にできるかしら。
まずは≪鑑定≫ね。
[素材] 壊れたゴーレムコア レアリティ:B 品質:D
魔力が結晶化し、世界の法則に則って演算処理出来る力を持ったゴーレムコアの残骸。
破損しているコアは演算処理が不可能だが、残骸を活用する方法はある。
「なるほど......?」
やはりオーバーテクノロジーというか、異世界らしく法則が定められたモノが存在するようね。
鑑定のテキストに書かれずとも、研究してAIコアのようなモノに出来たら良いかなって思っていたし、回収しておこうかしら。
「回収は......あら、空間属性に丁度いいのがあるわね。≪アイテムボックス≫」
私の目の前に枠組みが白くて、面の部分が白い半透明の立方体が出てきた。
恐らくこれに物を入れられる感じかしらね。
「便利ねぇ〜! これなら密輸に関税回避、武器の輸送が捗る......のはもう関係ないわね」
保有魔力を割り当てしてストレージを増やすタイプの魔法みたいだから、20%ぐらい割り当てておけばいいわね。
実際どれくらい入るかはわからないけど、多分......湾岸倉庫1棟分ぐらいかしら。
「鉄も沢山ね。道具にも部品にも使えるわ」
この鉄もゴーレム化で変質してたりするのかしら。
勿論鑑定するわよ。
[素材] アイアンゴーレムの精錬魔力鉄 レアリティ:C 品質:B
アイアンゴーレムを構成する精錬された魔力鉄。
95%の鉄に、物質化した魔力片が5%混合されており、魔力がよく浸透する。
「なるほど、所謂魔道具向けの鉄って事かしら。魔力伝導率が良いってことよね?」
膨大な魔力を操って、無理やり形状変化とかも出来るかしら。
魔力で溶かしたり、形状を整えられればかなり楽よねぇ。
一体分で十分だし拠点に戻って、道具やら色々作りましょう。
* * *
拠点に戻ってきたけれど、当然帰ってきてないわね。
守護契約の影響か、音亜ちゃんが近くにいるのか遠くにいるのかが解る。
「さて、魔力を使って加工できるかしら」
音亜ちゃんが戻ってくる前に道具を作って、すぐにでも料理できるようにしておきたいわね。
「魔力操作の延長線上って意識して......まず鉄に魔力を通す。そして魔力が浸透した鉄を掌握......」
鉄が私の魔力に沿って変形を始めた。
完璧ね、これで原型を作って......細かい修正は木工で慣れた≪ディメンションカット≫の出番ね。
魔力鉄で出来た原型に魔法で細かく削ったり、さっきまで使っていた木材を使って道具を完成させていく。
刃物は落ちていた、ザラザラした石で頑張って研いだわよ。
「料理用の包丁、採取や解体用のナイフ、扉や窓周りのパーツ、他にも必要なら作れるけれど一先ずこれでいいわね」
扉は作ってあるけれどパーツがなくて取り付け出来てないのよね。
ささっとパーツ取り付けだけ済ませて、道具の鑑定だけしておく。
[道具] 魔力鉄の包丁 レアリティ:B 品質:A
魔力鉄とダークモルスで作られた包丁。
両素材の重量が重く、包丁自体も重くなっている。
石で研がれた程度の切れ味だが、魔力を通すと切れ味が増し、付着物が落ちる効果が付与されている。
「え、なんか効果付与......されてるわね」
物を作る時に品質が良かったりすると効果が増えたりするのかしら。
正にゲームっぽいわねぇ......世界を構成する一部情報にゲームが使われてるみたいだから、そういう法則があるって思うだけで良さそうね。
[道具] 魔力鉄の汎用ナイフ レアリティ:B 品質:A
魔力鉄とダークモルスで作られたナイフ。
片刃で、刃の反対には鋸と、皮剥用の引掛けがついている。
石で研がれた程度の切れ味だが、魔力を通すと切れ味が増し、付着物が落ちる効果が付与されている。
「効果が一緒......求めた機能が付与されるのかしら、それとも道具毎に突く効果が設定されている......?」
ここらへんは何度も検証する価値があるわね。
とりあえず鑑定は終わりね。
パーツ類も鑑定してあるけれど、自爆機能も無く、効果もべつに面白いものが付いてる訳ではないし、転写する必要も無いわ。
「ぉ〜ぃ」
あら、帰ってきたみたいね。
丁度道具も出来てるし、音亜ちゃんは何を獲ってきたのかしらね。
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