第39話 戦人、救出作戦を始める。
準備を終えた班毎に船から降りていく、船は帝国西部の山の麓に着陸した。
すでに帝国と王国が戦争を始めてから1週間近く経過している。
グロリア様は一時的に本国へ戻り、こちらから信号を発したらすぐに迎えに来てくれるようだ。
何故一度戻るかと言うと、グロリア様はそもそも国の守護竜なのだ。それにグロリア様の武力を頼るなど言語道断、だからこそこちらの方が都合がよかった。
船には戦闘に不慣れな同志を残し、これから行く街々に帝都も含め担当の班が工作をして待機してもらう。そして主力である俺達は帝都ダリアから戦闘を開始。各所の生産施設や収容所を襲撃し囚われた同志を解放して行くのだが、主力兼囮としてA班がそのまま戦意のある元奴隷を連れたまま通ってきた街へと向かい、B班が救出した非戦闘員の同志を複数の魔法や魔術を利用した隠遁結界を展開しつつ撤退していく予定だ。
要するに俺らは各街で仲間に見送られながら帝都に行き、帝都で派手に暴れながら戦える奴と共に来た道を戻る。
戦えない奴は隠遁結界を使用してるB班で護衛させるってだけだ。
隠遁結界の非戦闘員護衛班をアイリス様とルナ様が、救出主力部隊が俺になった。グリム爺は船の守備戦力だ。
工作活動が上手く行かなければ力押しのみの愚策になってしまう。けれど俺は彼らを信じている。
デブルイネ帝国は北部が平原や森で構成されてるが、南部は突然変異が起きたかのように砂漠になっている。
そしてその砂漠に位置する帝国の街が見えてきた。山に沿って作られた鉱山街の様だ。
「では団長、先に街で待ってますよ! ちゃんと帝都からここまで来てくださいね!」
「あぁ任せろ、全部の街で同志を解放して仲間を増やして戻ってくるさ」
俺達主力部隊は街を山から見下ろし、工作部隊を見送った。
帝都ダリアから国境に位置する山側に進軍するとなると、普通は敵戦力が減っていくはずだが今回は違う。王国侵攻に戦力が傾いており、王国から最も遠い帝都ダリアには戦力が少ないとの情報だ。
今見送った同志が行く街は一番国境側に近く、鉱山街になっている。
鉱山街。それは武器を産出する為の要所になる為一番警備が多いんだ。
「よし! お前ら次行くぞ! あまり時間をかけすぎるとあいつらが見つかっちまうからな!」
「「「「「おうっ」」」」」
俺は主力部隊の各部隊長に指示を出し行軍を進め、次に向かう街は元農業国国境線近くの都市。
西に鉱山街、東に港町、南に農業国、北に帝都ダリアが位置している為、宿泊と商業が盛んな都市だ。だがここは警備より輸送部隊が多く駐屯しており、恐らくここに奴隷が一番集まっているだろう。
帝都ダリアは砂漠化していない地域で都市の西には湖があり、基本的に居住地と観光地に特化している為、恐らく国民一人一人が所有している奴隷のみしか残っていないだろう。
だからこそ警戒する戦力は城と城下の警備のみになっているはずだ。
まぁ城を攻め落とすわけじゃないから敵の増援として、要警戒ってだけなんだがな。
俺達は順当に行軍し商業都市も超え、途中で港町へ行く部隊と分離し帝都ダリアの近くまで付いた。
「さぁおめぇら、都市内へ続く地下道が用意してあるから通って行くぞ」
工作部隊が帝都内部に潜伏している密偵達と先行して合流しており、その工作部隊が掘っておいてくれたトンネルだ。しっかりと指示通りの所に作っていてくれたおかげてすぐ見つけられた。
流石に俺達の規模で検問を超えるのは怪しいからな。戦時という事で人通りも少ないんだ。
トンネルを通って出てみると大きな建物の中に出た。ここは倉庫の中で秘密裏に占領した所のようだな。
「団長!」
「おう、主力部隊到着だ。まずは情報の共有を行おう」
「了解です」
倉庫に迎えに来てくれたのは帝都内にずっと潜伏してくれていた密偵の同志だ。
隊長格が俺と共について来て、戦闘要員達は倉庫にて休憩だ。
|魔強行軍《魔法や魔術を行使した強行軍》だった為かなり消耗してるだろう。
商館中に入り、会議室へと通された。
「では帝都内の最新の情報を共有しますね」
伝えられた情報は事前情報通り......いやそれ以上に都合が良い情報だった。
帝都内の国民所有の奴隷さえも国が徴収して商業都市へ送られているようだ。
おかげで今帝都内に居る奴隷は生産施設と収容施設内の奴隷のみ。
そして収容施設もそこまで警備が多くないようだ。
奴隷達には特殊な器具がつけられており、それを外さない限り反逆の可能性は一切ない。だから警備も薄いとのこと。
「それじゃその首輪はどうすんだ? 外せねえと無理矢理連れて行くしかねえ、それじゃ人手が足らねえぞ」
「そこはご安心ください。こちらの方で首輪を入手し解析した結果、魔法による効果だった為専用の解除器具を作っておきました」
解除器具......まったく首輪をかすめ取って解除器具を作るたぁ優秀だぜ。
「それじゃその器具があれば問題ねえんだな」
「いえ、もっと良い物を作っておきました」
「もっと良い物? なんだそれは」
「これです」
渡された者は麻布袋に紐が飛び出した物。
「なんだこれは?」
「この紐に火属性の魔力を籠めると火が付き、麻布の内部にある首輪解除の術式が込められた魔石が魔力爆発を起こして、辺り一帯に首輪の拘束性のある魔力を無効化できる”魔力障害”を発生させることが出来ます」
「......流石だな。これがあれば一斉に解除して後は救出して行けばいいってわけだな」
「はい、その通りです。そして工作部隊がこの魔石爆弾をすでに設置済みで、その他工作に関しても完了しております」
「んじゃぁ後は攻めるだけって事か?」
「その通りです」
はぁ......優秀だなこいつら。工作部隊に入るほどだから戦力だけじゃなくて知識も強くねえと行けねえにしてもレベルが高い。
「お前らが生きて国へ戻れたら大事な部隊になるだろうな」
「えぇ......私の部下はとても優秀です。研究も出来て現場行動も可能と」
「俺も生きて戻れたら推薦してやるよ。それじゃ準備は出来てるようだし後は......」
俺と隊長格たちに襲撃ポイントを共有してもらって、細かな作戦を立てていく。
敵の戦力は帯剣した警備員だけらしい。特殊な兵装をした敵はいないとのことでごり押しでも良さそうだ。
救出後は帝都外に居るB班に非戦闘員を託し、そのまま帝都を脱出。商業都市へ向かい、そこでも救出して鉱山街も同じくだ。
「帝都ダリアを襲撃した事がバレれば鉱山街の戦力が厚くなるかもしれませんね......」
「あぁ国境線に展開している軍から増援が送られる事も考慮しねえとな」
鉱山街が鬼門になるかもしれないな。だがそこも突破してしまえばこっちのものだ。
「よしそこに至る為にはまず帝都からだな。さぁお前ら待機してる部隊に配置を伝えて作戦に移るぞ!」
隊長格に指示を出して俺も行動を始める。
さぁ戦争の始まりだ。
ここは目標の収容所前。収容所の見た目は豪邸のように見える。
そして俺達は今、追加収容の奴隷のフリをしている。
連れて来た兵士の役は密偵の奴らだ。
バシンッ
「おい早く進め!」
偽の兵士が鞭で地面を強く叩き音を鳴らす。真に迫った演技だな。
俺達はぼろぼろの服を着て首輪を付けているが首輪は偽物で、服の内側には自分の装備が入ったマジックポーチがある。
「止まれ! そいつらは捕まえた亜人共だな? お前の所属は何処だ?」
「はっ! それの事なんですがこちらを見て頂けますか!」
収容所の裏口の門前で警備兵に止められた俺達。偽の兵士が少し離れた警備兵に近づきながら何かをポケットから出し、近づいた所で
「フンッ!」
「ガハッ......」
ポケットから出したのは貴族が良く使う証、によく似たただのナイフだ。
それを近づいた所で心臓に一突き。鎧越しからでもさせる腕力には敬意を表したいな。
他にもいた警備兵も同時に潜んでいた同志に首を搔き切られた。
「よし、装備しろ!」
門番の警備兵を始末したのち全員が防具と武器を装備した。
裏口だから人目も少なく事が運べるのはとてもいいな。
「みんな準備は出来たな? ......門を開けてくれ」
ゴゴゴゴゴゴ......
「おっ珍しいな追加の奴隷か?」
門は開かれた。ここからだ。
「うっし......行くぞおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」
「っ!? 敵襲!? てきしゅ、ぐぁっ!」
門が開かれ一気呵成に亜人部隊が流れ込む、門の近くに居た兵士は即座に斬り殺された。
「なぁっ!? 退けッ! 中のやつと合流するぞ!」
「やべえって! あの人数じゃっ」
裏口とはいえ豪邸の為、建物の入り口は少し遠い。
建物の入り口に居た兵士が隣の兵士に声をかけ急いで建物に入った。
「進めぇぇぇぇぇぇ!!!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
そんなこと知った事ではないと言わんばかりに俺は前進の指示を出し、亜人部隊は声を上げ進んでいき扉の前まで来た。
一部の部隊は正面入り口や他の入口へと駆けて行く。
「おっらぁっ!」
バギャァ!
「おめぇら! 事前に指示した通りに動け! 俺とお前の部隊は地下行くぞぉ!」
扉をこじ開け素早く指示を出し、俺達は別れて進んだ。
建物に入り地下への階段を探していく。
「クッソここもねえか......」
「団長! 地下への階段見つけました!」
どうやら部下が先に見つけたようだ。
声の方向へと向かい部隊を集める。そして俺達は地下へと入って行った。
長い地価階段を進んでいくと豪邸一件分入る空間へと繋がり、四角い檻の箱が敷き詰めて置かれている。
その中に同志が見える。
ズズン......
どうやら爆弾を爆破したようだな。よし救――――
ガギン!
「しねぇぇぇ!」
「っ!」
あっぶねぇ!
他の事に意識が割かれたタイミングで横から敵が襲ってきた。
それを反射神経で反応した。
「死ぬのはてめぇだ!」
「がはっ」
振るわれた剣をはじき返し、万歳状態の敵の腹を横から斬った。
それを皮切りに戦いが始まった。
「ぐっ、ぅぉぉぉおおおおお!」
「てめっしつけえな死んどけっ!」
腹を斬り付けられたはずの敵兵士が意地で反撃してきた。剣をいなしてとどめを刺した。
「ふっ!」
「チッくそ!」
とどめを刺した所に別の敵が攻撃してきた。それをバックステップで避ける。
「<付与魔術:風属性>! おらっ!」
「なぁっ!? ぐはっ......」
避けた後即座に魔術で剣に風属性を付与し相手の剣ごと真っ二つに斬った。
周りを見てみると各々が敵兵士を相手に戦っている。
「ふっ、おらぁ!」
「くそっ!」
「おらおらおらァ!」
全体的に優勢だ。こちらの士気はとても高く相手は強襲に曝され士気は低迷している。指揮官が居ないのが問題だろう。
だが関係ない、俺達は同志を解放する為に蹂躙するだけだ。
「......これで全部か?」
「その様ですね」
「あっけないな」
「本当に根こそぎ戦争に向かったようですね」
「まぁ俺達の存在がイレギュラーだからな」
「......ですね」
あれから戦いを続け、敵を殲滅した。捕虜は取らずにその場ですべて殺した。
「さぁ急いで解放するぞ! 解放した後はそのまま護衛しつつ都市街へ行き引き渡しその場を防衛する! 他の救出部隊が合流したらそのまま南進、商業都市へ行くぞ!」
「「「「おぉ!!!」」」」
それぞれ別れて檻を魔法で破壊して解放して行く。
「<ウィンドカッター>......助けに来たぞ、さぁ」
「ぁあ......本当に、助かったのか?」
「あぁそうだ、これから脱出するぞお前も他の同志達に話をして回ってくれ」
「あ、ああ分かった!」
檻を魔法で破壊して中に居た同志に話を伝えた。これで話が拡散されれば呆けてる時間も減ってすぐ移動が開始できるだろう。
「よし次だ」
それから次々と解放して行き全員が解放で出来たようだ。
一部の者は怯え動けるまで時間がかかったが、動けないような同志はいなかった。
......ディアナはここにいなかったようだ。
「みんな集まったな。これから俺達は帝都から脱出、別の部隊にお前たちを引き渡す。だからここで問う、戦える意思のある者は武器を手に取り俺と来い。引き渡し後はそのまま護衛してもらえるが、共に戦いと思えるならそこの武器を取り、鎧を着て戦え!」
一部の者が敵の兵士から鹵獲した剣や鎧を装備していく。
「よし......戦えないものもそれで良い、それもまた己との戦いだ。さぁ合流地点へ行くぞ」
「「「「「おぉ!!!」」」」」
豪邸の階段を上り、上階に居た仲間と合流してそのまま街を駆ける。
途中に帝国の民に見られたりしたが、武装を見るとすぐさま家に逃げ入った。
元奴隷達は報復したい相手も居るだろうが今はまだだ。いずれ機会は来ると伝え耐えてもらった。
途中途中敵の兵士と会敵したが特別強くも規模も大きくもなかった。本当に戦争に戦力を傾けているようだ。流石に愚策なのでは......? 戦略など無知の人間が作戦を立てたとしか思えない。
だが好都合だ、そのまま進み合流地点へとついた。
「グラン、無事だったようですね」
「アイリス様! はい無事です。......俺達が最後でしたか」
「の、様ですね」
どうやら俺達が会敵してばかりだったからか、他の部隊は円滑に合流地点まで来れたようだ。
「では引き渡しはしました。俺達が襲撃した所は物資が沢山有ったのでこちらも渡しておきます」
「えぇ助かります。では私達は先行してまいりますので次の地点で」
「了解です。お気を付けください」
「貴方も、武運を祈ります」
俺達は街道を堂々と行軍して商業都市へ向かう事になっている。
これによって俺達へ戦力を向ける事になり、捜索部隊を作る余裕を減らすためだ。
実際に俺の部隊には元奴隷が居る為、良い感じに偽装できるだろう。
「よしお前ら、ここで食料の補給。小休憩後南進するぞ!」
「「「「了解!」」」」
フィリア帝国万歳!エイネア万歳!始まった救出作戦。
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