第1話・森に降り立つ百合達
※2023/08/09 加筆修正済み
* * *
「――――ゃん、ねあ......ん〜音亜ちゃん〜?」
「んぅ......ぁ、おはよう」
「んふ、おはよう」
うん、やっぱり夢じゃなかったね。
当然のようにえーなの膝枕で寝かされていた私は、周りに目を向ける。
一面木々が生え、芝生のような草が生い茂る、森っぽいけどゲームチックで均された景色が見えた。
不可思議な景色だけど、それでもこの世界は私達のモノで、えーなが居る。
それで良い。
「えーな、私が寝てる間、何かあった?」
「特に何も起きてないわね。風が草木を揺らす程度よ」
「ん、なら探索?」
「そうね、そうしましょう」
立ち上がって大きく息を吸うと、肺が洗われる様な......これを空気が美味しいって言うのかな。
いつも部屋に引きこもって、窓すらえーなが開けなきゃ開けない始末だからね。
我は闇に生きる者よ......
「空気も良いし、不思議な地形だけどお陰で音亜ちゃんの足の負担が......あれそもそも神だから気にすることかしら?」
「ん、創造神は言った。身体を好きに作り変えられるって。私はあんま変えない......必要に応じてぐらい」
「確かにそう言っていたわ。音亜ちゃんがそうするなら私もそうするわね」
「なんで?」
「それは単純に音亜ちゃんが好きで居てくれてる身体を捨て切りたくないからよ」
「んっ......私と一緒。でも変わっても、私は"えーな"が好き」
「私だって"音亜ちゃん"が好きよ? だから......右腕だって治してもいいのよ?」
やっぱり、えーなと一緒の気持ちを持ってて嬉しい、愛してるぅ......♡
でも右腕は治さないよ。
「右腕は、えーなから贈られた大事な思い出。戒めでもある、諦めちゃった戒め」
「何度も言ってるけどそれは音亜ちゃんのせいじゃないわ。それこそ私がもっと早くに」
「ん、ソレこそ違う。でもいつも平行線」
「確かにそうだわ」
えーなの愛があったのに、諦めて環境から逃げ切らなかった戒め。
でもえーなから贈られたって部分がほぼ占めてるから、ネガティブな物じゃない。
ネガティブな意味で所持したいなら、腕を治して持ち歩けばいいだけだし。
この右腕は実質えーなだから、常にえーなと一緒だけど、常にえーなと繋がれるわけじゃない......流石にお外でシちゃうような趣味はない。
その溢れ出る気持ちを抑えてくれる大事な役割も負ってるのだ。
流石に外せない。
「切り替えて探索に行きましょう」
「んっ、そうしよ」
とりあえず水場とか、拠点にしやすそうな所があるといいな〜人里とかはまだいいや。
しばらく手を繋ぎながら森の中を練り歩いても、生き物の気配があんまりしない。
「不思議ねぇ〜ここまでに小動物や虫の類すら見ないなんて」
「ん、森だし、虫がうざいものだと思ってた」
「普通そうよね」
虫が居ないのは助かるけどね。
にしてもこれほど生き物が居ないのも、起伏の少ない芝生が広がる森っていうのも相まって不思議だ。
* * *
それからまた少し練り歩くと、潮の香りが漂ってきた。
おっあれは〜?
「海かしらね。それか不思議ルールが適応されてるなら海の香りがする湖の線もあるわね」
「近く行ってみよ」
「えぇそうね」
木々の隙間から見える広大な推定、海。
海へと近づくに連れて木々が少なくなり、太陽の光に照らされるキラキラの砂浜が見える。
人気は無くて未開拓地域っぽい。
砂浜へ足を入れる頃には生物の気配が増えて来た。
ものすごい透明度を持った鮮やかな海に、悠々と泳ぐ魚がはっきりと見える。
遊んだら楽しそう......海でも浜でも釣りでもなんでも楽しめそう。
全部がキレイだねぇ、すごいねぇ。
「いい景色、近くで拠点作ろ」
「そうしましょうか。あそこらへんであれば場所的に丁度良さそうね」
「ん、これで目の保養に食事もおっけー」
「フードは良いとして、あとはファイア、ウォーター、シェルターね」
サバイバルにおいて大事なポイント。
火、水、身を守れる建物、最後に食料。
そのうち食料は魚で取れるけど、言った順番が結構重要。
火が無ければ煮沸して水が飲めず、獲物を焼いたり燻したり出来ない。
身を守れる建物は、寝転がって身体全体を隠せる程度であれば、枝と葉っぱを多く使って雨風を凌いで、長期活動が出来るように身体を休めるのに重要。
食料が最後なのは、水があるから何とか~って感じ。
場合によっては拠点と食料は前後する。
「ん、水も火も最悪拠点も魔法で良くない?」
「......確かにそうね!? 木ならたくさんあるし、道具を用意でも魔法で加工でもやりようはあるわ」
良い事に気づいてしまった......!
それにえーながいれば大丈夫だ、ログハウスなんてちょちょいで作ってくれるから。
本当に頼りになる......カッコいい、えーな好き♡
「ここらへんが良さそうね」
「ん、結構歩いた」
「精神生命体になると身体をイジらずとも基礎体力が増えてるのかしら?」
「そもそもえーなは数十時間歩いても平気。流石に活動に差し障るし、体力は持つようにしてる」
「あら、そうだったのね......(いっぱい歩いたあとの音亜ちゃんを吸いたかったわ......)」
わざわざトイレ行かなくて済ませたり、単純な持久力を上げるのはセーフ。
さっき決めた事に反してないからセーフ。
多分すぐ破るけど。
「あら......? 身体をいじれるって事は......」
えーながぶつぶつと喋りながら、いきなり私の腰を片手で引き、空いた手を私の後頭部に添えて、どんどんとえーなが顔を近づけて――――
「――――んっ......っ......ん゛ん゛ぅ゛!? んぅっ......んふっ♡ちゅ......ぷぁはっ」
い、いきなり、でぃーぷきすっ。
しかも凄い舌長かったんだけどっ!?
わ、わぁ、まだっ
「はむっ、んっふ......んっ......♡」
だめぇ......まだ寝床すら出来てないんだからぁ......!
「ぷはぁ......はぁ、はぁ、え、えーにゃ......さ、さきに、やること、やろう?」
「あっあああごめんなさいねっ!? つい、やってみたいことやったら抑えが効かなくて......」
「......ん、今じゃなければ。また、ちゃんとシて」
「スゥゥゥゥゥゥ......」
「......?(上目遣い)」
「あっ、あっ、もう世界から生命体を消し去れば壁もいらないのでは......? 豪速球で人里襲ってベッド用意すれば良いのでは......?」
「えーな......」
残念なものを見るような瞳でえーなを見る。
いや嬉しいんだけどね? クズが過半数を占めた世界ならもうそれでもいいと思う。
でもまだ冒険してない......生命体を淘汰して、非人道的なことをするならせめて観光してからにしてほしい。
「あああああもうごめんなさい、暴走してばっかりだわ。ちゃんと楽しめるように拠点を作りましょう」
「ん、その意気。ご褒美は後で私を好きにして良い」
「するわ、頑張るわ」
まぁ動機が不純だけど、やる気になってくれてよかった。
てかご褒美って言ってもいつも好きにされてるんだから、あんま変わらない気がするね。
「あら? そういえば音亜ちゃん気づいてる?」
「ん、なに?」
「今までの知識ってあると思うだけれど、それらに加えてこの世界の知識があるのよ。まるで知っていたかのように」
「......ん、確かに」
今更ながら気づいた。
ちょっと色々自分の知識を掘り起こして、話し合って擦り合せしたいね。
「とりあえず得た知識を共有しましょう」
「んっ」
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