第11話 冒険者試験だよ!
戦闘描写は主人公側だとお遊び感になっちゃうので他人の視点の方がいいですね
※2021/11/21 整合性が取れてない所とか文脈とか、一部加筆などの修正
※2022/04/11 改稿
暫定ギルマス試験官に付いて階段を降りると、地下に大きな空間があった。
この空間には魔力を感じる......恐らく、空間属性を利用した魔術かな。
蛇足だけど、魔術というのは魔法とはまた違った魔力行使だ。
魔法には魔法式があったけど、魔術には『魔力/段階+起点属性/段階/性質+付与属性/段階/性質』と指向性が失われている。
代わりに、それぞれの”段階”を調整することによって魔術を行使した際の事象が変わる。
それに魔法と違って、触媒を利用すると効果に指向性や性質が追加される。
何故そうなるかは分からない。知識には無いからね。それを調べるのも楽しそう。
閑話休題。
「よしついたぞ。ここが地下修練場だ。今は丁度人が居ねぇから貸し切りだな」
「広いわね......」
「だろ? 領主が金出して作ってくれたからな」
実際、本当に広い。
空間属性を利用してるからか、サッカースタジアム程の広さはあるんじゃないかな。
「武器は何を使うんだ?」
暫定ギルマス試験官が、長方形の大きな木箱を持って尋ねて来た。
「私は刀や斧や槌あたりを使うわ。今持ってるのは刀だけね」
「そのメイド服に全く合わんのが刀か。んじゃお前さんはどうだ?」
「ん、魔法と杖」
「ほぅ、まぁ杖持ってるから魔法師ってのは解ってたがな! そっちのメイドの方、えーっと名前はエイナだったな。この木箱の中で好きな武器を選んでくれ」
私達に何の武器を使うか聞いて、さっきから持っていた木箱を下した。
木箱を開けると複数種類の武器がある。もちろんすべて木製である。
「準備が出来たら言いな。俺は大剣を使わせてもらうぞ」
「わかったわ。私はこれにしようかしら」
えーなは木箱の中から、作った刀に近い形状の木刀を取った。
「おう決めたかそれじゃ始めるぞ。ルールは相手に攻撃を1度でも当てたら終了で、致死性のある攻撃はなし。それだけだ。えーネア嬢だったなこの銅貨を投げてくれ、落ちたら試合開始だ」
「ん」
暫定ギルマス試験官は私に銅貨を投げ渡した。
さてどうなるかな? おもに試験官さんが心配。
<ギルマス視点>
俺の名はドストル。ギルマス業務から逃げ出して酒場に飲みに行っていた。
そん時だ、受付カウンターですっげぇオーラ出してる二人組が居た。
少し話を盗み聞きしてたんだが、どうやら今日初めて冒険者登録するらしい。
このオーラを持って冒険者登録してないなんてちょっと気になったんだ。
で、これから試験するってんで、本来やるべき試験官には悪いが俺が試験官として入った。
多分俺じゃねえとやべぇからな。
ネアって名前の嬢ちゃんに銅貨を投げ渡し、エイナって奴に対峙して武器を構える。
くっなんてプレッシャーだ......これでも元Sランクだぞ......? 構えに隙もねえしよ。
受付で紙を盗み見たが、恐らくあのネアという嬢ちゃんの護衛らしい。
胸を借りるぐらいの気持ちで行かねえと厳しいだろうな。
「それじゃぁネア嬢、投げてくれ」
「んっ」
相手のオーラにあてられ、戦士としての気持ちを思い出し、高揚する気持ちを自制する。
そしてネア嬢に指示を出す。
ッ......!
銅貨が空中を舞った。
神経を尖らし、精神を研ぎ澄ます。
そして――――
――チンッ!
「ハァッ!!!」
――ズドッ!
銅貨が落ちた瞬間。
俺が一気に踏み込み、相手の左肩に向かって本気の袈裟切りを放つ。
「ふっ」
だが、エ相手は大剣の下側に避けながら、持っていた木刀で受け流した。
クソッ! 大剣を受け流すとかどうなってやがるッ!
バランスを崩した俺はそのまま前に転がり、前転をしたまま大剣を振り向きざまに切り上げた。
「っ!」
相手は余裕を持って避けており、お互いの距離が離れて最初に戻った。
立ち上がって相手の顔を見ると、一切汗をかかず余裕の表情だった。
「俺の踏み込みを見切るとは、なかなかやるじゃないか」
「あの程度、音亜ちゃんを守る為なら当然よ」
余裕を隠さない表情で俺の言葉を返すエイナ。
こんな強い相手は初めてかもしれねぇな。
「っか~メイドの立場でそこまでなれるなんてすげぇなぁ!」
「私はメイド服着てるけどメイドじゃないわよ、恋人よ」
「へぇ......そりゃまた......」
属性てんこ盛りか? メイド服を着た剣豪で、嬢ちゃんの護衛で、恋人かよ。
だが話している間でも気は抜けない。
「......次はそっちから来な」
「んじゃ行くわよ。そして、これで終わり」
「よし、こぃ――ッ!?」
一体何が起きたっ!? い、今起きたことをありのまま思い出すぜ!
俺は大剣を構えてたと思ったら、いつの間にか大剣が半分切り落とされ、着ていた上着が真っ二つになっていた。
な、なにを言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなった......
木刀は刃なんてなくて丸くなってるはずなんだがな......
「これでいいかしら?」
「はっ......ははっ、あぁ合格だ。お前さんはCランクスタートだな」
正直Cランクなんて物じゃ収まらねえ。
けど規則は規則だからな、Cランクからになる。
「はいありがとう」
「ふっーちょっと休憩させてくれ。結構疲れちまった......」
ドラゴンとの死闘の方がまだ気が楽だったぜ......
* * *
<音亜視点>
暫定ギルマス試験官は木製の大剣を投げ捨て、その場で仰向けに倒れた。
まぁえーなと真面目に戦ったらそうなるよね。
なまじ強い実力があれば解っちゃうからね......差が。
「は~い、ただいま」
「ん、おかえり。最後の攻撃かっこよかった」
えーなが戻ってきた所で感想を伝えた。
最後の攻撃は居合、縮地、それらを同時に行った結果。
そして肌に一切傷を付けず、服を斬る事によって試験をクリアした。
芸術点が高い攻撃で見惚れちゃうね。
「ふふっ、ありがと。ちゅっ」
「ちゅっ。ん、それでどうだった?」
えーなの口付けを口で受け止めて、戦った感想を聞いてみた。
「そうねぇ......強いと思うわ。でも新たに手に入れた力を使わなくても勝てるわ」
「ん、それくらいか」
えーなは本当に強いからねぇ......。
今思えば地球でえーなに対して、正面切って一対一で勝てる人は居ないんじゃないかな。
凄いなぁ......私も試験頑張ろ。
久しぶりの対人戦になる訳だし、少し楽しみかも?
「おーい、休憩はもう大丈夫だー!」
「ん、行ってくる」
「いってらっしゃ~い」
暫定ギルマス試験官の休憩が終り、お呼ばれしたから向かう。
そしてえーなが最初に立って居た所で止まり、私は杖を地面へ刺す。
「おう来たか。その杖は?」
「ん、使わない。ただ近くに置いておかないと落ち着かないだけ。武器は無くていい。魔法で行く」
そういって私は手をひらひらさせる。
杖をそのまま振り回してもいいけど、大事な物を振り回したくないし......魔法一択だよね。
「やっぱり魔法、か......木剣とじゃ話が変わるな」
「ん、そう。だから武器、使っていいよ」
「そうか、ならお言葉甘えて......まぁ大丈夫さ、寸止めは得意だ」
「ん、私は手加減が苦手。だからそっちから来て」
彼を倒すのに、どれくらいの火力が必要なのか分からないからね。
暫定ギルマス試験官が取り出したのは青緑色の大剣。
ちょっと鑑定してみようか。
[武器] 刃転幻移 レアリティ:S 品質:A
ミスリルと魔法鉄の合金で、風属性と空間属性を付与された大剣。
斬撃を飛翔させる事が出来て、空間属性で特定の場所に飛撃を転移できる。
ふふっ、攻撃のネタバレ見ちゃった。
要するにその場から動かずとも、何処からでも攻撃できるって事ね。
「そうか、わかった。それじゃエイナ嬢、銅貨を投げてくれ!」
「わかったわ」
暫定ギルマス試験官が、銅貨を投げる様にえーなに指示を出す。
そして再び、銅貨が空中を舞い――――
――チンッ!
「っ! ≪武技:斬滅方囲≫!!!」
「ふむ」
銅貨が落ちたと共に相手が駆け始め、重々しい大剣を振り回す。
魔力のうねりが大剣から発せられ、一閃、また一閃と振り抜かれる度に、私の周りに斬撃が生まれる。
大剣から放たれた風の斬撃。それが空間属性によって、私の周囲に転移してくる。
斬滅方囲。なるほど、確かに斬滅《《包囲》》だ。
それなら私はこうしよう。
「<ドゥンケリッターズ>」
――バシンッ!
「なぁっ!?」
私が放ったのは、前に魔法実験をしたときに生まれた闇属性の剣。
それを10本同時に操り、飛んでくる斬撃を消滅させていく。
それはさながら暗黒騎士団。姫を守る騎士達。
あっ、でもこれダメだな。
魔法にえーなが嫉妬しちゃうから今度から止めよ。
「くっ!?」
並行してえーなの事を考えながら、隙の出来た相手の首元に4本の剣を添える。
暫定ギルマス試験官は冷や汗をかきながら動きを止めた。
「......降参だ。はぁ~お前さんもCランクだ。明らかにCじゃないがな!」
「ん、お疲れ様。回復させてあげる」
疲労マシマシな暫定ギルマス試験官に、魔力操作で魔力を与えて疲労回復を促進させた。
これは<ヒール>とは別で、肉体の疲労を癒す方だ。
さしずめ<リフレッシュ>と言った所か。
「おぉ助かる。これはヒール......じゃないな。まぁ深くは聞かない方がいいよな?」
「ん、本登録の時にでも教える」
そういえば、完全に失念してた。
明らかなオリジナル魔法じゃんこれ。さっき攻撃した時のもそうだし。
まぁ情報が洩れてもそっちの方面で事態を面白くすればいいや。
情報が洩れればこの人のせいだし、洩れなければ私達を知る人間として使える。
「あーまぁ......知っておいた方がいざという時楽か…? んじゃ登録は執務室でだな」
「執務室?」
私はわざとらしく聞き返した。
まだ名乗ってもらってないからね。
「ん? あぁ言ってなかったな。すまんすまん、俺はここのギルドマスターをやってるドストルってんだ」
「へぇ~」
「あらそうだったのね」
「あぁそうだったのさ。じゃ行くか」
白々しい感じにお互いが声を上げる。
試験が終わり、地下から出てそのまま建物二階へと向かい、ギルマスの執務室へと入る。
「おうそれじゃそっちに座ってくれ」
執務室に入ると、奥の方に紙が積んである執務スペースがあり、それより手前側にローテーブルと左右にソファー。右の壁は一面が書類を置く本棚になっており、左には絵画が飾ってある。
一般的な応接室と、書斎をセットにした感じだね。
とりあえずソファーに座った、えーなの上に座る。
「それじゃまず登録だがこの鑑定玉に触れてくれるか?」
「ん、わかった。でも鑑定結果が秘匿事項」
「犯罪行為......とかそういう訳じゃねえんだよな?」
「ん、もちろん」
怪訝な表情で確認をしてくるドストル。
若干表情の裏に焦りが見えるけど、そんなわけないので大丈夫。
さて、一応重要情報だから部屋には結界を張っておこう。
張る結界は防音結界、物理結界、鑑定阻害、次元結界って感じかな。
風属性、光と闇の混合属性、無属性、空間属性を使ったものだね。
「っ......空気が一気に変わったな」
「ん、結界を張っただけ。玉に触れるよ」
「お、おう」
ドストルは戸惑いながらも、自分のすべきことに集中し始めた。
私達は鑑定玉に手をのせた。
乗せた時にニヒルに笑ってしまったのは仕方ない。
==============
名前:水無月音亜 神名ネシス・シアーカ
種族:魔法の女神、現人神
武器スキル
<杖><銃火器>
魔法スキル
≪魔力支配≫
<アイスピアスト><魔力誘導><ヒール>
<ドゥンケリッターズ><リフレッシュ>
スキル
<ステータス><鑑定>
称号
<最高神の領域を侵す者><魔法の女神><”世界”から興味を持たれし者>
==============
鑑定結果でステータスが写ると......魔法はいいとして、称号が増えている。
<”世界”から興味を持たれし者>
"世界"から興味を持たれた者に送られる称号。
君達のイチャイチャが世界管理中での癒しだよ。偶に覗いてるけど気にしないでね。
”世界”......やっぱり創造神より上位存在は居るんだね。
その相手に興味を持たれた訳だけど......まぁ興味を持った内容がアレだから気にしなくていいね。
==============
名前:文月 永那 神名エイナ・ガルド
種族:守護の女神、現人神
武器スキル
<刀><斧><槌><盾>
魔法スキル
≪生活魔法≫≪光属性≫≪闇属性≫≪空間属性≫
≪付与魔術≫
スキル
<ステータス><鑑定><守護契約>
称号
<創造神の領域を侵す者><守護の女神><魔法で創作ジャンキー><魂を創造せし者>
==============
えーなにも称号が増えてるね......後≪付与魔術≫が増えてる。
称号の内容から確認して行こう。
<魔法で創作ジャンキー>
攻撃魔法を利用して物をいっぱい創作した者に送られる称号。
ディメンションカットをこんな使い方したの君が初めてだよ......。
<魂を創造せし者>
自らの手で魂を創造した者に送られる称号。
君の強い想いが......君だけでは無いようだね。魂を創る程の意志に敬意を。
やっぱり称号は創造神と”世界”の二人で作り分けてるのかな?
”世界”の作った文章は感想で溢れてるよ。
「おっ、おいこりゃぁ............まじか。どうやって門抜けてきたんだお前ら」
「それは鑑定玉をちょちょいと」
私達のステータスを見てもっっっっっのすごい複雑な表情を浮かべるドストル。
門で起きたアリアの犠牲は忘れないよ。
「はぁぁぁぁぁ............鑑定玉弄れるとなると、大陸全土と教会大騒ぎだぞ......」
「ん、問題ない。神にしかできない」
「ほ、本当か!? はぁ、胃が痛くなるぜ......」
胃をさすりながら薬を出し、飲みながらそう言った。
結構苦労人だったりするのかなぁ、胃薬らしきものを口に含む動きに無駄がなかった。
「そんじゃぁこの書いてある通り、二人とも現人神つう事なんだな?」
「ん、そういう事」
「だが......なんで隠すんだ? 教会にでも国にでも伝えりゃ......」
まぁ......それは人間なら求める形なのかもしれない。
「みんなから崇められ、祀られて、それじゃ楽しく遊べないわよ。明かすのは後ね」
「あぁ......容易に想像がつく。鬱陶しくて堅苦しい感じになるより、言わない方がのんびりできそうだな」
「そういう事ね。だからちゃんと秘密にしなさいな。この秘密を知ったのは貴方が最初よ」
えーなが私達視点の思いを述べて、ドストルはそれに共感した。
きっと過去に同じようなことがあったのかもしれないね。
「はぁ......うっし分かった。この情報はしっかりと守る」
「ん、良かった。もうこれで終わり?」
「あぁ待ってくれ、ほらこのカードに魔力を流せ。魔力は人それぞれ固有だからな、カードに登録すれば偽造できん」
「ん、そういえば、女神って分かっても口調変わらないね」
「まぁほら、もうおせえしな。はっはっ!」
快活に笑うドストル。
確かに今更変えるのもね。変えられても別に何も思わないし、それならそのままの方が良い。
「確かにそうね。変えられても困るし」
「ん、私も」
「それじゃもうやることは終わったのよね? 私達はそろそろ失礼させてもらうわよ」
「おういいぞ。......楽しめよ、この世界を」
結界を消して、私達はカードを手に持って部屋から出た。
やっぱり面白い人だね。
私達は執務室から出て、宿屋へと向かった。
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