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死神の寵愛を授かった少年  作者: ユウ
第Ⅱ部:最下層
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第6話:契約

 

 ジワリと汗をかいた春樹の頭上から、不意を突いた火の玉が落下し―――髑髏の紋章に飛び込んでいく。

「え?」

 隙をつかれた春樹が驚く間に、無数の火の玉が次々と髑髏の紋様に飛び込んでいく。まるで機関銃の連射を至近距離で浴びるように。時間にしてわずか二秒ほどの間に、火の玉は全て髑髏の中に消えていった。

『ク、、ククククク』

 呆然と立ち尽くす春樹は、髑髏の笑い声で我に返ったようだ。

「おぃクソ髑髏、何だよ今のは?」

『クハハハハ! コイツはやべぇ! 魂だよ魂!』

「なっ!?」

 悪魔が喰らうものが、もう一つある。

 感情とは比べものにならないほど、莫大な力をもたらす糧。

 彼らにとって至上の糧、それが魂だ。

 そもそも悪魔からすれば、感情であれ魂であれ糧を喰らうには面倒な手続きを必要とする。

 契約者本人が譲渡に同意しなければ、喰らうことができない。

 だから悪魔は人と契約し、願いを叶えてやりながら、まずは感情を喰らわせてもらう。

 地道に契約を果たして感情を喰らいつつ、あわよくば魂までも喰らう契約チャンスを、悪魔たちは伺っているわけだ。

 しかしなかなか、魂を差し出すような大きな契約は成立しない。

 まさに非効率的と言っていい。

 契約やその継続の努力を思うと、少量の糧しか得られないわけなのだから。

 それでも、存在するため、そして位を高め力を得るため、糧を必要とするのが悪魔。

 その希少な糧が、そして力の源たる魂が今、契約もなしに捧げられていることになる。

 ディアブロに。

『クハハ! 堪んねえなっ! どんどん上がりやがるぜ!』

 髑髏の紋様がシルバーに輝く。

 ディアブロの悪魔としての位が上がっていっている証だ。

「なっ!? 嘘だろ? 身体向上、精神向上、属性魔法習得、スキルもかよ!? クソ髑髏! どうなってんだ! 説明しやがれ!」 

 春樹の脳裏に、習得された魔法やスキルが辞典のように綴られていく。

『あん? 契約通りだろうが?』

 糧を喰わせた分に、つまり対価に相応する力を貸す。

 春樹とディアブロの契約により、春樹の力が高まっていく。

「なんで魂がお前なんかに?」

『正確には春樹、お前のためだろ』

「は? 何言って―――」

『こいつら復讐を望んでやがるぜ? 勇者とその一味を殺せってよ! クハハ!』

「―――クソ。そういうことかよっ」

 死神を追放した勇者たち。

 それを煽ったバカな権力者たち。

 死なないことと不老不死や健康とは別物―――人々がこれに気づいたのは、アンデッドが世界に溢れたあとだった。

 それに巻き込まれた、か弱く貧しい人々。

 彼らの復讐が今、春樹と悪魔に託されたことになる。


「やっと、終わったか」

 自分の脳裏に浮かぶステータスや魔法、スキルの習得結果を見て春樹はがく然とする。

「身体機能、精神力、各種耐性全てランクS―――マジか。それに魔法、スキルも」

 火、水、風、土、雷。これら各種族性魔法は全種コンプリートされたようだ。

 探索スキルもコンプリート。周囲の地形や環境、敵の数や移動状況や体調などが把握可能になった。

 念話に軽い物体を動かすエスパーのようなスキルも習得したらしい。

 それに希少なスキルもある。物質変化スキルだ。これによって、この世の神秘とされる錬金術の類まで、今の春樹にはたやすいだろう。

 戦闘スキルもコンプリートだ。剣、槍、ハンマーに斧、色々な武器を用いた戦闘方法が春樹の体に宿ったらしい。

 もはや超人と言っていい。

 魔法を駆使する賢者であり、あらゆる武術に長けた武人であり、超能力者。それが今の春樹だ。

 ディアブロは、これだけの力を春樹に寄越したことになる。

 その当人(ディアブロ)は今、どの程度強くなったと言うのだろうか。

 春樹は唾を飲みこんだ。

「オイ、クソ髑髏」

(オレがこれなら、コイツはどんだけ強くなったんだよ……)

『なんだ?』

「お前に変化は?」

『そうだな……地獄の四騎士相当ってとこだろうよ』

「は?」

「オレより高位の悪魔は二十もいねぇってこった。クハハ」

 春樹は顔を引きつらせて笑った。

『なぁに安心しろって。こんなおいしい契約主を粗末にはしねぇさ』

「別に…… そんなことは心配はしてねぇ」

『クハハハハ! 信頼されてるみてぇで光栄なこった!』

 ディアブロの機嫌がよさそうなことを察したのか。春樹は瞳を閉じて、小さく息を吸いこんだ。

「なぁ。俺が新たな魔法やスキルの創造を願ったら、叶えられるか?」

『創造? 神の怒りを買うぞ?』

「構うもんかよ。転移者だからな。この世界の神の怒りなんてオレの知ったこっちゃねぇ」

『まぁ……そりゃそうだな』

「で、可能なのか? 今この世界にないような魔法の系統やスキルを生み出したい」

『不可能じゃねぇ。契約主の願いを叶える力が悪魔にはあるからな。ただ―――』

「なんだよ?」

『もっと魂がいるぜ? クハハハハ』

 先ほどの食事を思い出してか、ディアブロはうっとりとした笑い声をあげながら春樹の答えを待っている。

「あぁ。上手くいけばそうなるだろう。作戦を考えたから手を貸せ。試したい」

『あぁもちろんだ。喜んで力を貸そう、偉大なる我が主よ。で、何すんだよ?』

 わざとらしく主といいながら春樹をイラつかせて。

 ディアブロはまた、春樹のささやかな感情の起伏を味わった。

「俺のスキルを使う。お前は髑髏の陣を使え。詳細は―――」

 告げられた春樹の作戦に、ディアブロは高笑いで返事をして。ニヤリと、髑髏の紋様が歪んだ笑みを浮かべた。




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