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死神の寵愛を授かった少年  作者: ユウ
第Ⅰ部:一度目の終わりと二度目の始まり
1/21

グランドフロア:幕間劇

以前、構想を練っていた作品です。

本作は、ちょっとダークな世界観になっています。ご留意ください。








 

 今となっては遠い昔のことようだ。

 かつてこの体育館は、スポーツに励む高校生で溢れていた。

 しかし今は、、、埃をかぶった床が示す通り。


「それで?」

 興味がない―――そう表情で語る勇樹を、春樹は反射的に殴った。 

 温厚な春樹にしては珍しい直情的な行動に、勇樹の頬を歪む。鳴り響いた床の音が、拳の強さを物語っている。

「はぁ、はぁ―――」

 呼吸を乱しているのは殴った春樹の方だ。

 倒れ込んだ勇樹は、そのままの姿勢で。ただ静かに春樹を見つめ返している。

 舞い上がった埃が、光に照らされて細かく輝く。そしてそれが全て舞い落ちるのを待っているように、二人は動かない。


「もう、止めたい」

「………」

「もう殺したくないんだよっ」

 ―――春樹は両手で顔を覆い、涙を隠した。

「それで?」

 埃まみれの勇樹は床に倒れ込んだまま。機械的に質問を繰り返す。

 まるで、春樹の答えが違うと言わんばかりに。 

「止めてくれよ。頼むから」

「それで?」

 ――堪えきれずむせび泣く春樹を、ただ見つめる勇樹。

 無人の体育館に響く泣き声は、壁時計の長針が五度進むまで続いた。

 何と答えるべきかを春樹が誰よりも理解している―――そう言いたそうな冷たい表情で。勇樹はただ、春樹を眺めている。

「―――止めてくれ」

 春樹の懇願は受け入れられない。

「それで?」

「もう黙れよ! うるせぇんだよお前!」

 両手で耳を防ぎながら、春樹は吠える。

「それで?」

「黙れよ! お前が―――世界を滅ぼしたんだろうが!」

「それで?」

「もう、誰もいないんだよ。父さんも母さんも、友達だってみんな―――」

「それで?」

「お前が、お前がみんな、殺しちまったんだろ?」

 春樹の乾いた笑いとともに、問いかけた言葉が空しく体育館に響きわたった。

 

「それで?」

「俺が間違ってたんだ。あんなこと願うべきじゃなかったんだ」

 床を両手で叩きながら―――春樹は後悔の涙を零し続ける。

「それで?」

 勇樹は微動だにせず。

 ただ壊れた機械のように質問を繰り返す。

「わかった。オレの負けだ」

「……」

「もう一度願う。弟を、勇樹を返してくれ」

「それで?」

「もう一度誓う。そのためなら何でもする」

「それで?」

「もう一度言ってくれ。お前の条件は何だ?」

 その答えを待っていたかのように、音もなく勇樹が立ち上がる。

 床に座り込んだ春樹と瓜二つの顔で、勇樹は微笑んだ。

 その体に今、魂が宿ったかのように。勇樹は豊かな表情で口笛を奏で始める。

「なら殺して来い」

「ターゲットは?」

「同じだ。前回とな」

「わかった」

「忘れるなよ? これは慈悲だ。間抜けなお前に二度目のチャンスをやるんだからな」

「感謝する」

「またミスれば、どうなるかわかってるよな?」

「……あぁ」

 勇樹がニヤリと微笑んで、天に掲げた指を鳴らす。


 くたびれた体育館に、一瞬で活気が戻った。

 汗を流す若者たちの笑顔や掛け声に、春樹は嗚咽を漏す。

「忘れるなよ?」

 再び響いた指先の弾ける音が、世界の時を止める。

「この世界をもう一度滅ぼす」

 ゆっくりと、子どもに言い聞かせるような丁寧な口ぶりに、春樹は体を震わせた。

「―――あぁ、わかってる」

「なぁに簡単なことだろ?」

 さわやかにほほ笑む勇樹から、春樹は視線を逸らすことができずにいる。

「成功すればこの世界も元通り。弟も生き返らせてやる」

「―――本当だな?」

「あぁ。神に二言はない。ただし―――」

「わ、わかった! 頼む!頼むから止めてくれっ」

 右手を掲げた勇樹の足元に、力なく倒れ込んで。春樹は必死に懇願する。

「一瞬で消し飛ばしてやるからな?」


 春樹は震える両手を勇樹に差し出して。

 その笑顔を優しく包み込んだ。

「待ってろよ? 兄ちゃんが絶対に助けてやるからな?」

 涙で歪んだ笑顔を浮かべる春樹に、勇樹は微笑み返す。

「確認だ。ターゲットは?」

「あぁ。異世界アルマダーク、世界を救った勇者アイス」

「ちゃんと覚えてて偉いじゃないか。いい子だな春樹は」

 春樹の頭を撫でながら、勇樹は静かに瞳を閉じる。

「失敗から学べ。我も更なる力を授けてやる」

「でも、俺は―――もぅ」

「殺せ。アイスを殺せ。立ちふさがる者はみな、、また殺して来い」

 勇樹が瞳を開いたときには、春樹の姿は消え去っていて。

 高らかな笑い声が、静止した世界に響き渡った。







ありがとうございました。

現在、構想だけが仕上がっている作品でして。機会があったらボチボチ続きを更新しようと思います。


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