眷龍になりました
「でもその前に、体は大丈夫なの?」
言われてから気づく。
あんなに動きまわりたいと訴えていた体からの欲求が収まっている。
「…大丈夫みたいです。だいぶ落ち着きました」
「そう。それならよかったわ。普通なら力をちゃんと解放するまで体の欲求は止まらないのよ。普通なら大体発現して一週間くらいはかかるんじゃないかしら」
そんなにあの欲求が続くとか地獄だな。
それにもし沢山の人が見てる前であんな翼が生えたらどうなっていたか。恐ろしいぜ。
「なるほど。助けていただいてありがとうございます。…でもどうやって力を解放?させたんですか?」
俺自身には何もされてなかったよな?
「それは単純よ。目の前に龍の力を持った者が現れたからよ。雫君の中の力が同じ龍の力に反応して無理やり引っ張られて出てきたのよ」
あんまりいい方法じゃないんだけどね。
と、苦笑いしながら言う。
「よかったんですか?見ず知らずの俺なんかに自分の正体バラしちゃって?」
科学者なんかが知ったら人体実験のモルモットにされてもおかしくない様な内容だし。
「それは大丈夫よ。龍の力を持っていることはわかっていたし。それに信用を勝ち取るには先ずは自分から情報を提示しないと信じてくれないでしょ」
と真面目な顔をして白銀さんは言う。
「確かにそうですね。それで俺になんの用があるんですか?信用を勝ち取ってまで話す内容なんですか?」
この人は何のために俺なんかに情報を教えてくれるんだろう?
「…そうね。そろそろ時間も時間だし本題に入りましょうか」
「…ッ⁈」
雰囲気が変わった。
「貴方、私の眷龍にならない?」
「……はい?」
「えっと、先ず眷龍ってなんですか?」
「そうね。先ずは私達ドラゴンの話をしましょう」
白銀さんの話によるとどうやらドラゴンとか頂上の存在ってのは実在するらしい。人間たちの住む世界とは別の次元にあるらしく、大昔にとある龍が次元に穴を開けてもう一つの世界を作り出してしまったらしい。それが白銀さんたちドラゴンが住む天龍界(略して天界)らしい。そこでは沢山の龍が暮らしているらしい。そこに住むドラゴン達の力が強すぎて稀に人間界にまで影響を及ぼす事があるらしい。地震や豪雨などの自然災害は天界の世界で戦争が起こった反動で起こっていると言われてるらしい。ドラゴンどんだけだよ⁈
天界の学者の考えではドラゴンの龍気の影響を受けた人間の細胞が変化して龍化してしまうと考えられているらしい。これもどうやら予想であってまだまだ解明されていない謎なのだそうだがこの説が一番有力らしい。
天界では龍ごとに最上位龍、上位龍、中位龍、下位龍、の4つに分けられるらしく白銀さんの親は最上位龍なのでその子供である白銀さんは必然的に上位龍になるそうだ。上位龍になると眷龍と言って自分の配下を持てる様になるそうだ。上位龍から最上位龍になる為にはそれ相応の功績が必要らしく眷龍の実力も評価の内に入るそうだ。より優秀で強い眷龍は自分の評価につながるので眷龍集めはとても慎重に選ばなくてはならないそうだ。ちなみに眷龍になると全ての細胞が龍そのものになって寿命が伸びて数万年は生きるそうだ。龍の体になるからもちろん身体能力も劇的に向上するらしく夜目が聞いたり龍声もわかるようになるそうだ。
「そんなに重要ならもっと、て、天界?とかで強い龍を眷龍にしたらいいんじゃないですか?」
純粋に気になった事を聞いてみる。
「ダメよ。天界にいる龍は向上心がなさすぎるのよ!」
寿命が長いが故に若い時から上を目指そうと努力する龍は滅多にいないらしい。
「それに比べて人間は向上心の塊じゃない!それに雫君はそこらへんの下位龍よりも龍気も多いし何より私が一眼、雫君を見た時にこの人とならって思っちゃったのよ!」
凄い剣幕で迫ってきた。
「近い!近い!ちょっと離れてください!」
びっくりしたぁ。
「あぁあ、ごめんない テレッ」
あ、照れてる。ちょっと可愛い。
「すこし考えさせてください。」
真面目に考える。
「…え、えぇ。もちろんいくらでも考えてもらって大丈夫よ。この選択で人生が大きく変わってしまうのだから後悔のない選択をして頂戴」
そう言った白銀さんはとても優しい顔で雫を見ていた。
数分後〜
「決めました。貴方の眷龍にしてください」
俺の答えは最初から決まってたのかもしれない。
「…本当にいいのね?一度龍になったらもう人間には戻れないのよ。…貴方だけの問題じゃないのよ。ご両親も悲しむかも「大丈夫です」しれ…」
あぁ、やっぱりこの人なら信用できる。
「…もう一度だけ聞くわ。本当にいいのね?」
「俺を貴方の眷龍にして下さい」
白銀さんの目を見て答えた。
「…ありがとう。私を信用してくれて」
そう言いながら一つのワイングラスを取り出し開いている方の手を龍化させ、なんの躊躇いもなく自分の腕を切り裂いた。
「…ナッ⁈」
俺は突然のことに驚いて固まってしまった。
その間にも白銀さんの腕からは血が滝の様に流れている。
「⁈ッ…ッて何してるんですか⁈早く止血しないと」
慌てて持っていたタオルで傷口を塞ごうとしたが白銀さんに止められてしまう。
「動かないで!」
白銀さんは持っていたワイングラスに自分の血を注いだ。注ぎ終わると白銀さんは龍気を傷口に集中させ一瞬で傷を治してしまった。そして注いだ血龍気を集中させ呪文を唱え始めた。
「我、上位龍が一体、白銀 雪音の名において命ずる。汝、鳴上 雫 我が眷龍としてここに新たな命を与える!!」
白銀さんの龍気がワイングラスの血に完全に取り込まれ、白銀さんの龍化した時のような氷のような薄い水色がかった綺麗な液体になっていた。元々が血だとは思えないほど綺麗に見えた。
「…さぁこれを飲めば貴方は私の眷龍よ」スッ
差し出されたワイングラスを両手で丁寧に受け取った。
「有り難く頂戴いたします」グビッ
一気に飲み干した。
「グッ…ガァガァガガガガガガガァアア!!」
背中に翼を生やした時の痛みを全身に感じていた。そんな中、白銀さんは
「えっ⁈雫君⁈どうして⁈何が起こって⁈しっかりして!」
酷く困惑していた。
十数分後〜
「はぁはぁはぁ」
やっと治った。
「大丈夫?雫君?ごめんなさい。まさか龍になるのがそんなに痛いなんて知らなくて」オドオド
「…はぁはぁ、大丈夫ですよ。覚悟の上でしたから。心配しないでください。それよりだいぶ大きな声を出しちゃったので騒がれる前に移動しましょう」
「あ、それなら大丈夫よ。公園の外には音漏れ防止の為と人払いの為に龍気を張り巡らせてるから」
そんなこともできるのかよ。龍気万能だな。
「そ、それならよかったです。…これで俺も龍に成れたんですか?」
これで失敗だったなんてなったら泣く。
「うん。それは大丈夫。試しに上に軽くジャンプしてみて」
「…わ、わかりました」
疑問に思いながらも取り敢えずジャンプしてみる。
「ッ⁈」ビュン
軽く跳んだだけなのに15メートル位は跳んでいた。
「ドサッ⁈」
全然足に衝撃もこない。本当に人間の体じゃないんだと思った。
「これから、長い付き合いになりそうね」
白銀さんは見惚れるような笑みを浮かべていた。
「これからよろしくお願いします!」
そう答えた。