9話「一矢報いてヤル」
『フェーズ3だ!ホーンウルフは突撃、ゴブリン部隊はその背後から投石!昆虫部隊はオールフルフラワーを持って隠れながら接近するんだ!オールフルフラワーは効果範囲内で麻痺毒と睡眠毒を散布!』
突撃したホーンウルフと背後に控えていたゴブリンは太刀で切り倒され、昆虫部隊とオールフルフラワーは腕を振るった風圧で壁に叩きつけられ、全滅した。
岩陰に隠れていた一輪のオールフルフラワーが効果範囲内で睡眠毒を散布したのだが、男は即座に反応して毒の効果範囲外へと一瞬で移動し、毒の散布終了後に踏み潰された。
『嘘だろ……』
その後も、強酸の落とし穴や滑る床、限界まで狭くした通路内での挟み撃ちなど、考えられる全ての策を試したが、男に傷一つつけることはできなかった。
「ここが最奥、ダンジョンコアの部屋か」
ついに……辿り着かれた。
ゴツゴツとした岩肌が剥き出しな10畳ほどの空間。その部屋の一番奥にある簡素な台座の上に俺の心臓とも呼べるダンジョンコアが置かれている。
『ここまでか……』
1ヶ月かけて作り出した昆虫も魔物もオールフルフラワーも……ほとんどが倒されてしまった。
「なるほど、貴様がボスモンスターというわけか」
そう呟きながら、男は身の丈ほどもある太刀を俺専用ゴブリンへ向けて構える。
太刀男の正面にいる魔物は他のゴブリンよりも少しだけレベルの高い俺専用ゴブリンだけだ。
「ボスモンスターもただのゴブリンか。やはり生まれたてのダンジョンで間違いなかったようだな」
太刀男は特に警戒する様子もなくこちらに近づいてくる。
俺はゴブリンに意識を接続し、ボロボロの剣を男へ向けて構えた。
「セメテ……一矢報いてヤル」
毒も効かない、罠も効かない、奇襲も効かない、正面戦闘でも全く敵わない。
もう俺は確実に殺されるはずだ……だが、この悔しさを晴らすためにせめて一太刀だけでもくらわせてやる!
「クラえ!」
男へ向けて、構えていたボロボロの剣を投げる。
「無駄だ」
男がそう呟いた直後、太刀を軽く振っただけで投擲した剣が弾かれた。しかしーーー
「マダだ!」
ーーー剣が弾かれると同時に、天井の隙間に隠れていた1匹のスライムが強酸の粘液を纏いながら男へ向けて落下した。
「ふむ……残念だが、儂は神より特別な加護を賜っている。低レベルの者からの攻撃は効かんのだ」
強酸を纏ったスライムは太刀男に簡単に掴まれ、地面へ投げつけられて倒された。
スライムが纏っていた強酸が付着したはずの手には、傷一つない。
「最後まで見事な戦略だったぞ」
そう言い、男は太刀を振りかぶった。だがーーー
「マダだああ!!」
ーーースライムの叩きつけられた位置から大量のコバエが男の顔めがけて飛び立つ。
落下したスライムは風船状になっており、内部の空間に大量のコバエを内包していたのだ。
「ふむ、しぶといな」
男が腕を振るうと、顔へ向けて迫っていたコバエの群れは一瞬で吹き飛ばされた。だが、ありがとうコバエ達。視線誘導の役目はしっかりと果たしてくれた。
「ウオおおおおおお!!」
剣の投擲、スライム特攻、コバエによる視線誘導。その立て続けの攻撃の最中に太刀男の目前まで迫っていた俺は、隠し持っていたもう一本のボロボロの剣で男を斬りつけた!
「ヨシ!」
ボロボロの剣は粉々に砕けたが、斬りつけた男の手には小さな擦り傷が付いている。
目を凝らさないとわからないほどの傷だが、満足だ。一矢報いてやったぜ。
「傷、だと……?」
男は驚愕の表情で右手の甲についた擦り傷をまじまじと見つめている。
擦り傷なんて珍しくもないと思うが、強すぎて今までまともに怪我とかしたことなかったのかな?まぁいいか……あとはトドメを刺されるのを待つだけだ。
「傷を、負わされた……もしやお主、転生者か?」
「エ?」
……え?
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