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8話「太刀男」




「アー、アー」


 ゴブリンの発声練習。奇妙な光景だが、やっている方は真剣だ。


「アー、あーいーうーえーお。オッ、今のいい感じダ」


 なぜこんな事をしているかというと、この世界の住人達との来たるべき対話の際にちゃんと話せるよう練習しているのだ。

 エルフやドワーフ、獣人などなどのファンタジー人種に会いたい、話したい。というか、ここ1ヶ月誰とも話していない上に誰とも会っていない。流石に寂しい。


『ゴブリン、何か話して』

「ニンゲン、殺ス」


 うん、寂しさが増した。

 

『!!』


 突然、ダンジョン周辺を警備させていた昆虫部隊から異常の報せが届いた。

 作り出した生物は自分の体の一部のようなものなので、意識を接続していなくともちょっとした連絡なら取ることができるのだ。


『ふむふむ。人が、人間が近づいてきている!?』


 どうやら、ダンジョンに向かって初老の男性が1人近づいてきているらしい。


『手には太刀か。日本の武器が伝わっているって事は、俺以外の転生者もいるって事か!?いや、日本の鍛治師と同じ発想の鍛治師がいたって可能性もあるな……』


 いけないいけない。つい余計な事を考えてしまった。

 もうここに到着するまで時間はない。すぐに準備に取り掛からねばっ!


『来客用フォーメーションだ!全員配置についてくれ!』


 俺の合図とともに、周辺の警備にあたっていた魔物部隊や小動物部隊がすぐに帰還した。

 そしてダンジョン内にいたゴブリン達とともにすぐさま準備に取り掛かる。


『緊張する。転生直後にライフィア様と会話して以来誰とも話してないからな、うまく喋れるだろうか』


 俺専用ゴブリンは体格がいいので威圧感を与えてしまうかもしれない。そのため、はじめの挨拶は普通のゴブリンに接続して行う予定だ。

 そんな事を考えながら、男の到着を緊張半分、嬉しさ半分の複雑な気持ちで待ち構えるのだった。





「着いたな、ここがダンジョンか……ん?」


 男はダンジョンの入り口に立つ1匹のゴブリンに気付いた。


「コ、コんにち……」

「はっ!」


 瞬間。男は10メートル以上離れた位置にいたゴブリンへ一瞬にして距離を詰め、その首を切り落とした。


「仲間を呼ばれては面倒だからな。さて、すぐにダンジョンコアを破壊するとしよう」


 男は悠然と歩き出し、ダンジョン内部へと歩を進めるのだった。





『ぐはあっ!い、生きてる!?俺生きてる!』


 首を切り落とされる感覚が今も残っている。怖かった。本当に死んだかと思った。

 ゴブリンへ意識を接続していたがために、太刀男がゴブリンへ放った一撃をそのまま体感してしまったのだ。マジで焦った。


『意識を接続した生物が倒されても俺自身にダメージはないのか。ほんとに良かった』


 とりあえず、来客用フォーメーションは見事に失敗だ。気さくな挨拶で場を和ませながら危険じゃないよアピールを行うのが来客用フォーメーションの第1段階だったのだが、問答無用で崩されてしまった。


『ってかやばい!ダンジョン内に入られた!』


 明らかに相手はこちらを潰そうとしている。交渉の余地はなさそうだな。


『戦いたくはなかったけど、仕方ないか。フェーズ1だ!みんな、配置についてくれ』


 ライフィア様が与えてくれた第2のダンジョン生。わずか1ヶ月で終了なんて絶対に嫌だ!

 侵入者には申し訳ないが全力で対処させてもらう。

 

 





「ほう……異常なまでに統率力が高いな」


 ホーンウルフによる正面突撃からのゴブリンによる奇襲。その直後に、岩の隙間から飛んでくるスライムの麻痺毒と睡眠毒の体液。

 男はその全てを避け、向かってくる魔物を全てなぎ払いながら、危機感とともに僅かな安堵を感じていた。


「生まれたてのダンジョンとは思えないほど魔物が充実している。その上、これほど戦略的な行動をとらせているとは……このダンジョンが『三大迷宮』に匹敵するレベルまで成長するのも時間の問題だったな。今気付けたのは幸運だった」


 そう静かに呟きながら、男はダンジョンコアを目指して進むのだった。

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