38話「お茶漬けの上に刻みたくあん」
「それじゃあ、いただきまーす」
「「「「いただきまーす!」」」」
今日はたまたま時間が合ったので、レオナとミーナとヒマリとシズカと一緒に我が家で昼食をとっている。
ディエゴ達の全身全霊を注ぎ込んで建てられた俺の家は、もはや小さなお城だ。ダンジョンの入り口ごと囲うように塀もできているため、城塞と言った方がいいかもしれない。
村に敵が侵入してきた場合は俺の家が避難所になるため、こんな造りになったらしい。
万が一の時は全員ダンジョン内に避難してもらおうと思っていたので、確かにこのほうが都合はいいな。
「うん、美味い」
そんな事を考えながら昼食をいただく。
今日のメニューは、味付けなしのマッシュポテトもどき、魔物の骨で出汁を取ったスープ、山菜のサラダ、魔物の肉焼き。この村の定番メニューだ。
「美味い、美味いけど……何か物足りない」
虫ばっかり吸収してたころとは比べ物にならないほど恵まれているが、この生活に慣れてくるともっと贅沢な食事を求めてしまう。
人間は欲深い生き物だ。今はダンジョンだけど。
「米が食いたい。卵かけご飯したい」
「うわぁ、いいですね。私はたくあんとみそ汁でご飯かき込みたいです。お茶漬けの上に刻みたくあん乗せたいです」
「おお!ヒマリは中々渋いな。でもその組み合わせはとても良い」
「私はパンが食べたいです。バター塗ったトーストにベーコンとオムレツ……」
「シズカはパン派か、王道の朝食だな。思い出したら食べたくなってきた」
日本出身勢でそんな雑談を繰り広げていると、知らない単語にレオナとミーナが首を傾げている。
「こめって何ですか?」
「ぱんはって何なのです?」
どうやら、レオナとミーナは米もパンも知らないらしい。
「私たちの故郷で主食だった食べ物なの」
「お米は粘り気のあるモチモチした食べ物で、パンはふわふわで、いろんなおかずに合うんだよ」
米とパンだけでなく、他にも美味しい食材や料理が沢山あるのだとヒマリとシズカは教えていた。
「でも、私達は毎日お芋やお肉が食べられるだけで凄い幸せです」
「何日も食べない日も珍しく無かったので、私達は今の生活で大満足なのです」
「「「おっふ……」」」
レオナとミーナの言葉を聞いて、先程まで贅沢な食事を求めていた自分が恥ずかしくなった。
ヒマリとシズカも同じ思いなのか、レオナとミーナから目を逸らしている。その気持ちわかるよ。2人の目が眩しすぎて見れないよね。
「楽しそうな会話ですね」
「米は美味いよなー!」
「私はパン派かな」
5人で談笑しながら食事をしていると、そう話しながらエメラとアズとラズリが食卓にやってきた。
実は、彼女達は俺と一緒にこの家に住んでいる。エメラは俺の入り口の上に本体である木を植えており、アズとラズリは誰かと同居して楽しく暮らしたいとの要望があったため、それぞれに部屋を与えて一緒に暮らしているのだ。
村人全員を押し込んでもまだ余裕があるほど大きな家なので、俺としても誰かと一緒のほうがありがたい。
「アズとラズリは米とパンを知ってるのか?」
「迷宮都市ラビリンスに行った時に食べた事あるよ!」
「あそこは冒険者の聖地と呼ばれる場所なので、商人の行き来も盛んで色々な食べ物があるんです」
「迷宮都市?」
聞くと、迷宮都市ラビリンスはこの魔の森の南側に存在し、その中心地である中央都市には3大迷宮の一つである『ラビリンス』が存在する都市らしい。
ラビリンスから溢れ出る魔物に対抗するために数多くの冒険者が集まり、次第に都市へと発展していったそうだ。さらに、魔の森に隣接していて西には獣人至上主義の獣国ガルド、東には人間至上主義のナロウ王国に挟まれた位置関係のため、そこから流れてきた者達も集落を形成し、ラビリンスの周辺以外にもいくつもの都市や村が建ち並ぶ国のような様相になっているらしい。
だが、誰かが建国を宣言しているわけではないため、国家としては認められていない。現在は暫定的に冒険者ギルドが本部を置いて各都市を管理しており、どの国にも属さない中立都市として秩序が保たれているそうだ。
「小国クラスの規模はあるけど、国ではないのか。だから迷宮都市なんだな」
「大きさが小国クラスなだけで経済規模はとてつもないですし、冒険者の数も多いので戦力もあります。なので、昔はラビリンスの利権を手に入れようと各国が争い合ったそうですが、結局決まらず、今の形に落ち着いたみたいですね」
ラズリがそう説明してくれた。
にしても冒険者か、やっぱり異世界といえば冒険者だよなぁ。本来ならダンジョンは狩られる側だけど。
「ナロウ王国のすぐ隣だったので、クラスの男子達はみんな行きたがってましたね」
「王様に直談判しようとした人もいましたね……」
ヒマリとシズカが遠い目でそう呟いた。きっと、暴走する男子生徒を抑えるのに苦労したのだろう。
クラスの男子達の気持ちは分かるが、迷惑をかけるのは良くないね。
「でも、迷宮都市ラビリンスは行ってみたいな。お米や小麦の種が手に入れば食事の質も格段に良くなるし、隣国ならナロウ王国の情報も手に入りそうだ。それに、拠点を作っておけば召喚魔術のスクロールを駆使していつでも買い出しに行けるしな」
「もしもラビリンスへ行ける事になったら私達連れて行ってはもらえないでしょうか?」
「足手まといにはならないよう頑張ります。お願いします」
ヒマリとシズカがそう言いながら頭を下げてきた。おそらく、迷宮都市ラビリンスで地球への帰還方法を探るつもりなのだろう。
「俺としてもその方が心強いから、是非とも頼むよ」
「「ありがとうございます!」」
「いいなー」
「私達も行ってみたいのです……」
「俺がラビリンスに行けるようになったらスキルでみんなも連れて行けるから、その時にはみんなで行ってみるか」
「本当ですか!?やったー!ありがとうございます!」
「ありがとうございますなのです!嬉しいのです!きっと、ワンドとチックとミミも行きたがると思うのです!」
その時は、みんなでパーティー組んで冒険なんてのも楽しそうだな。
とりあえず、レオン達にも意見を聞いてみるとしよう。
「そういえば、ラビリンスへ行けるようになったらエメラも行けるのか?」
「残念ながらそれは難しいです。もう少し成長すれば行動範囲は広がりますが、まだ幼木ですので移動範囲は村の周辺までが限界です」
それは残念だ。たまにダンジョン付近まで来た魔物をエメラが退治してくれているのだが、正直相当強い。自然を操る事ができるらしく、蔦で拘束したり突風で吹き飛ばしたりと様々な技が使えるのだ。
一緒に居てくれると相当心強いが、今は俺の本体付近を守ってもらう事にしよう。
エメラも俺と同じくレベルの上昇で行動範囲が広がるのなら、いずれは一緒に旅する事も出来るだろう。
「それじゃあ、早速聞きに行ってくるかな」
食事を終えてすぐ、俺はレオン達を探しに出かけたのだった。




