37話「独特な匂い」
「カイさーん!ただいま戻りやした!」
「「「「戻りました!!」」」」
「おう、おかえり」
レオンが何人かの若者とブラックウルフとホワイトウルフを連れて狩りから帰ってきた。
機動力も戦闘力も探知能力も高いブラックウルフとホワイトウルフは、集団戦における汎用性がとても高い。そのため、狩りを行う際に数匹同行させるのが決まりとなっているのだ。
「今日も大漁でしたぜ!ん?どうかしたんですか?」
「いや、ちょっと気になる事があってな」
狩りを終えたブラックウルフとホワイトウルフは、村の中央にある広場を抜けてダンジョンへと戻っていく。
だが、いつも広場の中央を迂回するようにして通っていくのだ。ホーンウルフや他の魔物はこういった行動を取らない。
「まさか、進化して向上した探知能力で何かを察知しているのか?」
地面の下に何か危険なものが埋まっていてそれを察知しているとしたら、相当ヤバいな。
村の真ん中に危険な物が埋まっているなんて洒落にならない。
「接続」
早速、ホーンウルフに意識を接続して広場の中央を調べてみるが、何も感じない。続いてホワイトウルフに意識を接続して調べてみると、前世で嗅いだことのある独特な匂いを僅かに感じた。
「こ、これってまさか……」
神人ボディに戻った直後、あまりの衝撃に思わずそう呟いてしまった。
まだ確定ではないが、これは何としてでも調べる必要がある。
「グランドワームに調べてもらうか」
イサメ婆さん達との狩りの後、すぐにグランドワームは生成した。だが、アークワームはCランクの魔物だったようでまだ作れていない。
ちなみに、グランドワームとアークワームのステータスは以下の通りだ。
種族名:グランドワーム
種族能:貪食
レベル:1
スキル
『浄化』
種族名:アークワーム
種族能:貪食
レベル:1
スキル
『聖浄化』
『浄化』のスキルは文字通り汚い物を清潔にできるスキルであり、『聖浄化』はその上位互換で、怪我や状態異常の回復もついたスキルらしい。
「っと、そんな事よりここの調査だ。グランドワームカモン!ここを垂直に掘ってくれ」
影の中から現れたグランドワームにそう命令すると、ズズズズと土を掘る音を立てながら広場の中央を掘り進めていった。
予想が当たっていれば少し危険な任務となるため、命の危機を感じたらすぐに戻るよう命令もしておく。
「予想通り、匂ってきたな」
数分後。グランドワームが約500メートルほど掘り進んだぐらいから、独特な匂いを感じるようになってきた。
「何でしょうこの匂いは?あまり気持ちのいい匂いではありませんね」
「ん?この匂いってもしかして……カイさん、あれじゃないですか!?」
見物に来ていたシルバとレオンも匂いに気づいたらしい。
レオンはこの匂いを嗅いだ事があるようで、すぐに正体を察したようだ。
「おっ、掘れるのはここまでか」
それからさらに数分後、1000メートルほど掘り進んだ地点でグランドワームから警告の信号が届いた。これ以上進もうとすると命の危険を感じるようだ。
仕方がないのでグランドワームは帰還させた。
「匂い的にあともう少しなんだけどな……」
「カイさん、何をされてるんですか?」
不思議そうな表情でシズカがそう話しかけてきた。
気がつくと、周囲に村のみんなも集まっている。俺が真剣な表情でグランドワームに穴を掘らせているのを疑問に思ったらしい。
「ちょうど良かった。シズカ、この穴を掘り進める事って出来るか?アークワームに1000メートルくらい掘ってはもらったんだけど、もう少し深く掘り進めたいんだ」
「1000メートル以上ですか、多分大丈夫だと思います」
シズカはそう答えると、空に手をかざして魔力を込め始めた。
「『大地の槍』、『暴風の槍』」
シズカの目の前に周囲の土や石が徐々に集まっていき、鋭く尖った岩の槍が出現した。長さは1メートルほどで鉄パイプくらいの太さしかないが、尋常ではない魔力を感じる。
その隣には似た形の小さな竜巻も出現し、それらが合わさることで高速回転する岩の槍となった。
「す、凄い!複合魔術だ!」
「そんなに凄いのか?」
「凄いなんて物じゃないですよ!初級魔術でも相当な熟練度の魔術師じゃなきゃ複合することなんてできないのに、上級魔術2つの複合なんて聞いたこともないです!」
「そ、そうなのか。さすが勇者だ」
シズカの魔術を目の当たりにして、見物に来ていたワンドが大興奮している。
素人目で見てもたしかに凄い魔術なのは分かるな。回転しすぎてなんかチュインチュイン鳴ってるし、見た目だけでとてつもない貫通力だと感じる。
「射出!」
高速回転する岩の槍がアークワームの掘った穴を突き進んでいった。凄まじい回転力で通過した箇所が塵と化している。
それから僅か1分後、岩の槍は目標地点まで見事に穴を開けてくれたようだ。
「カイさん、変な感触の層に当たりました。何かが噴き上がってきます!」
「これってもしかして!」
「え、何かくるんですか?」
「何なのです!?」
さすがは日本人。シズカとヒマリは吹き上がってくるものの正体に気づいたらしい。
レオナとミーナはまだ分かっていないようだな。というより、知らないのかもしれない。
「温泉だよ温泉」
「やったあああああ!!」
ヒマリの喜びと同時に温泉が噴き上がってきた。
ちなみに、シズカが魔術を放つあたりから村のみんなには下がってもらっている。危ないからね。
「温泉、最高です!」
ヒマリのテンションが高い。
聞くとヒマリは大の風呂好きらしく、ゼネラルに囚われていた頃は不衛生な牢や粗末な食事よりも風呂に入れなかった事が一番の地獄だったそうだ。
村にも浴場はなく川で水浴びか桶一杯のお湯で体を拭くしかなかったため、温泉ができれば相当久しぶりの入浴となるらしい。
「早く浴場作りましょう!なんでも手伝います!」
「お、おう」
ヒマリの情熱が凄い。
その後、湧き出る温泉に生成した魔物を浸からせても問題が無かったため、水質は安全だという事が判明。
さらに、ヒマリのスキルによる全面協力もあり、僅か2日で立派な銭湯が完成したのだった。
「バスタオルに垢擦りタオル、これは浴衣か?」
「そうです!村の方々全員分作っておきましたよ」
俺の言葉にヒマリはそう答えた。
『想像構成』、便利すぎるな。ついでに足ツボマットも作ってもらおう。
「温かいお風呂がこんなに気持ちいなんて知らなかったです、温泉最高でした!」
「夢のようなのです!」
レオナとミーナだけでなく、銭湯は村のみんなにも大好評である。
「サウナや打たせ湯なんかも増設していきたいな」
「なんだそれは?面白そうじゃの」
温泉の魅力を知ったディエゴが俺の呟きに気付き、早速設計図を書いてくれる事となった。
さらに、村人からも協力を惜しまないという声が沢山届いているらしい。
結果的に、温泉施設は物凄い勢いで発展していった……。




