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36話「アークワーム」



 村に張り巡らせた排水管の出口は小さな沼を挟んでから川に流れるようになっている。

 理由は詳しく聞いていなかったのだが、この作りはイサメ婆さんの提案によるものだ。

 そして今、この作りを提案したイサメ婆さんとチックとミミとともにその沼へと来ている。


「あの魔物を集めるために排水を沼に一旦溜めるようにしたのか」

「そうさね。あれは『グランドワーム』っていう魔物だよ。『森の掃除屋』とも言われる魔物でね。水中と土壌を住処にしてて、畑の土を栄養豊富にしてくれる農家にはとーっても有難い魔物なのさ」

「でも、見た目気持ち悪いね」

「たしかに、ちょっと触りたくはないかな」


 3人と沼の中を覗くと、ニュルニュルと蠢く蛇のような生き物がたくさんいた。色は紫で蛇のような鱗があるが、口も目もなく頭がどちらか分からない見た目をしている。

 ミミの言う通り、正直気持ち悪い。


「グランドワームには水や土壌の汚れに集まってそれを浄化する習性があってね、排水を溜めれば浄化しにやってきてくれると思ったんさね。これで川も汚れないよ」

「たしかに川が汚れないのは良いな。さすがイサメ婆さんだ」


 魔物の習性を利用した排水の浄化方法か、為になる。


「にしても凄い数いるな。100匹以上はいるんじゃないか?」

「でもそのお陰なのか、沼が全然臭く無いですね」

「むしろ透き通るくらい綺麗になってない?」


 チックとミミも沼の綺麗さに驚いている。

 ただ、水底でグニュグニュと蠢いているグランドワームの姿もハッキリと見えてしまうのは、なかなか複雑な気分だ。


「村にある芋畑と薬草畑にあれを2、3匹放てば良い土になるよ。早速捕まえようかね」

「「「えっ!?」」」


 グランドワームを畑に放つと、作物を荒らす害虫も食べてくれて土も栄養満点の腐葉土となり、作物の収穫量がもれなく倍以上になるとてもありがたい魔物なのだそうだ。

 という事で、早速イサメ婆さんの抜き打ち訓練が始まった。


「まずは手本を見せるよ。ほれ」


 イサメ婆さんがスライムの睡眠毒が塗られた矢を射ると、1匹のグランドワームがプカリと浮いてきた。矢は刺さっておらず、グランドワームを少し掠めただけだ。


「グランドワームは鱗が硬くて普通に放っても矢は通らんのさ。だからといって力を込めて射ると矢が貫通してグランドワームが死んじまう事もある。捕獲するには鱗の少ない首回りを毒矢で掠らせる必要があるんだよ」

「鱗の少ない首回りって……」


 どこ?そもそもどっちが頭なんだ?


「ほれ、他の箇所よりもくねくね動いてるあそこさね」


 イサメ婆さんが矢を放つとまた1匹のグランドワームが浮いてきた。

 簡単そうに見えるけど、クロウクローの時とは比べ物にならない難易度だぞこれ。


「あ、外しました」

「え、当たっても傷一つつかないんだけど?」


 チックとミミも苦戦しているようだ。俺も何度か矢を放っているが全然ダメだ。当たっても鱗に弾かれるし、掠っても首ではなかったようで傷一つつかない。


「おや?これは珍しいのがいるねぇ」

「な、なんだあれ!?」


 そんな中、グランドワームの群れの中に真っ白で微かに輝いている個体を見つけた。なんか神秘的だな。


「あれは『アークワーム』だよ。グランドワームの上位種さね。生でも焼いても美味しいよ」

「え、あれ食べれるのか?」

「そうさね。グランドワームも滋養強壮作用のある高級食材だけど、アークワームは王族に献上されるほどの超高級食材だよ」


 王様ってあんなもの食ってるのか……でも、そう言われると食べてみたくなってきた。というか、イサメ婆さん食べれる魔物に詳しいな。


「アークワームって、グランドワームよりめちゃくちゃ早くない?カスリもしないんだけど!?」

「あれ?イサメ婆が眠らせてくれたグランドワームが、いつのまにか起きてる」


 ミミの矢を躱すアークワームを観察していたチックが、いち早く異変に気付いた。

 先ほどまでプカプカと浮いていたグランドワームが元気よく泳いでいるのだ。それどころか首元の擦り傷も治っている。


「アークワームは仲間の状態異常や傷まで治してしまうんさね。あれが厄介でね、アークワーム自身には常にそのスキルが発動してるから、状態異常にもかからないんさね」

「それじゃあ睡眠毒も効かないのか?」

「そうだよ。物理的に気絶させようと思っても素早いから攻撃も碌に当たりゃしない。それに周囲のグランドワームも回復させちまう、ある意味厄介な魔物さね」


 自身だけでなく別の相手の状態異常や傷も回復させられるのか、すごいスキルを持っていそうだ。

 それに王族へ献上されるほどの食材……是非とも手に入れたい。そして、是非とも食べてみたい!


「あたしでも仕留めるのは苦労する相手さね」

「マジかよ」

「い、イサメ婆でも苦労するって……」

「化け物じゃん」


 曲射で100メートル先のアリンコも射抜けるイサメ婆が苦労とか、アークワームって相当凄い魔物なんだな。


「あいつを狩ったらまわりのグランドワームは逃げたりするのか?」

「一時的に逃げていきはするだろうけど、知能はそれほど高くないから翌日には戻ってくるさね。狩るかい?」

「自信はないけど、是非」

「僕もアークワームに当てれるようになりたいです!」

「私は、地味に味が気になるかな」


 チックとミミも乗り気なのでイサメ婆さん監修のもと、力を合わせてアークワームに挑むことになった。

 イサメ婆さん曰く、アークワームは攻撃力が無い分回避と回復に特化した魔物のため、襲われる危険性はないそうだ。

 ついでに、畑に逃がす用と食料用にグランドワームを数匹捕まえる予定だ。


「ミミはアークワームが逃げないように追い立ててくれ、隙を突いてチックと俺で仕留める。矢は俺がスキルで作るから、遠慮なく撃て」

「了解っ!」

「わかりました!」


 ミミは動きが敏捷で思い切りがいいので連射がとても速い。チックは狙いは遅いが命中率はこの3人の中で最も高く、俺は筋力が強いので矢の威力は一番高い。

 イサメ婆でも苦労する相手など普通に戦って勝てる気がしないので、この作戦が一番可能性は高いだろう。


「いくぞ!」

「「はい!」」


 結果、使用した矢は約2万本。

 アークワームを仕留めるのに半日かかり、沼は矢だらけになり、片付けるのが大変だった。

 2度と戦いたくない魔物だ。



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