33話「ナロウ王国」
「それでは、無事に帰ってきたカイさんとシルバ達、そして新しい仲間に……乾杯!!」
「「「「「乾杯!!!」」」」」
夕方、レオンの音頭を皮切りに、村の真ん中にある広場で宴が始まった。
森で取れた果実ジュースや薬草茶が振舞われ、急設した屋台のような建物では様々な料理も作られている。
「この焼き串うまいな。このスープもうまっ!」
香草や岩塩で味付けされた肉。魔物の骨から取った出汁が効いたスープ。
自然と涙が止まらない。虫とか魔物とかそのまま吸収してた当初のダンジョン生活にはもう戻れないな。
「がっはっは!いい食べっぷりだな。ほれ、これもあるぞ!」
「これって、酒か!ディエゴが作ったのか?」
「おうよ!村で育て始めた芋使って仕込んどいたんじゃ、飲んでみい」
「それじゃあ遠慮なく……辛っ!度数高すぎだろこれ!」
「なんじゃ、弱いのう。これから蒸留してどんどん濃くしていくつもりじゃ」
「これ以上って、ディエゴ以外に飲める人いるのかよ」
さすがドワーフの血を引いているだけはあるな。
前世でも飲み会の悪ノリで強い酒を飲む機会はあったが、その頃飲んだどの酒よりも強い。これをさらに蒸留って、もはや燃料だろ。
「レオン!シルバ!ほれ酒じゃ酒」
「おれは……いいかな。シルバ、おれの分もいいぞ」
「いいのか?酒なんて久しぶりだ、ありがたくいただこう……っ!?」
一口煽った瞬間、シルバの全身の毛が逆立ち尻尾もピーンッとしている。
レオンはディエゴの酒の強さを分かっていたらしく、犠牲となったシルバに黙祷を捧げた。
「なんじゃ、弱いのう」
その後もディエゴは酒飲み仲間を探しながら放浪し、最終的に村長とイサメ婆さんと仲良く盃を交わしていた。あの2人も酒強いのか。凄いな。
「でも肝臓が心配だし、あとでオールフルフラワーの蜜差し入れとこう」
そんな事を呟きながら、焼き串を持って宴の席を回っていく。
「カイさーん!これ私が焼いたんです、どうぞ!」
「これ、私が作ったのです」
「レオナにミーナか。ありがとう、いただくよ」
レオナからはクロウクローのワイルドな丸焼きを、ミーナからは薬草や魔物の骨を煮詰めたであろう謎のスープをもらった。
どちらも見た目のインパクトは凄いがとても美味しい。
「食事以外の娯楽はほとんどなかったので」
「料理の腕は自然と上がったのです」
「そうか……」
料理を褒めたらそんな理由が返ってきた。娯楽、娯楽かぁ……。
「ボードゲームとか小説とかあればもっと楽しいんだろうけど」
「ボードゲーム?」
「小説なのです?」
「えーっと、ボードゲームはみんなで遊べるおもちゃで、小説は物語の描かれた本かな」
レオナとミーナは知らないらしい。隠れながら各地を転々として生活していたため、そういった娯楽に出会う機会も無かったのだろう。いつか見せてあげたいな。
「そうだ、街へ行けば売ってるかもしれないな」
少し危険だが、ゼネラルに潜入して娯楽品を買ってくるのもアリだ。ミスティから奪ったお宝に通貨らしきものもあったから、一考の余地はあるな。
「簡単な娯楽品なら作ればいいんじゃないですか?ボードゲームやカードゲームも材料あればすぐできそうですし」
すぐ隣で食事を楽しんでいたヒマリがそう提案してくれた。横にはシズカもいる。どうやら、レオナとミーナとともに宴を楽しんでいたらしい。
2人はすでに他の村人とも打ち解けているようだ。コミュ力高いな。
「手作りか、それはいい案だな」
「シズカは漫画……お話作りも絵も上手いから絵本みたいなものも作れますし、私も物作りは得意なので簡単なボードゲームなら作れますよ」
「そうか、頼んでもいいか?」
「はい!」
「えっと、絵描くの久しぶりですけど、がんばります」
俺の物作りの才能は……残念ながら壊滅的だ。
以前、ディエゴに教わりながら家具作りを手伝った際、実用性に乏しい奇抜なデザインの椅子が出来上がってしまった事がある。
そして、「この置物は何に使うのだ?」と言われた。
つまり適材適所だ。ボードゲーム作りはヒマリに、絵本作りはシズカにお願いしよう。
「そうだ、2人に話があるんだけど少しいいか?」
「私達ですか?」
「いいですけど」
シズカとヒマリを連れてひと気の少ない席へと移動する。
「さっき漫画って言いかけてたけど、この世界にも漫画の文化ってあるのか?」
「わかりません。この世界に来てからはまだ見たことはないですけど……あっ」
「ひ、ヒマリ!」
「やっぱりか」
こんなにすぐボロを出すとは思わなかった。だが、今の言葉で確信できた。
この2人も俺や塚原さんと同じ異世界人のようだ。
「あの、この事は……」
「騙すような真似をしてごめんな。でも、この事を知った上でどうこうするつもりはないから安心してくれ。単純に2人も俺と同じ異世界人なのかを知りたかっただけなんだ」
「同じ異世界人?」
「カイさんも別の世界から来たのですか?」
「うん。出身は日本で、本名は一ノ瀬界って言うんだ」
「一緒です!」
「私たちも日本から来たんです!」
話を聞くと、2人の本名は青島静香と赤城陽毬といい、同じ地球の日本出身らしい。
ゼネラルの隣にある『ナロウ王国』という大国でこの世界に召喚されたのだそうだ。
半年前まで普通の高校生だったのだが、授業中に突然クラスごとこの世界に召喚されてナロウ王国で暮らしていたと教えてくれた。
「召喚された際に、次元の壁を超えた影響でクラスメイトの全員にスキルが付与されていまして、私達はそのスキルを使ってこの世界を平和にしてほしいと頼まれて、協力することにしたんです」
「その、私達のように元の世界に帰りたいと反対していた生徒もいたんですけど……元の世界へ帰る鍵は魔王達が握っているから魔王を討伐すれば帰れると言われて……仕方なくみんなで協力することになったんです」
シズカとヒマリは召喚された生徒の中でも強力なスキルを持っていたため、同じく強力なスキルを持つ男子生徒3人と共に魔王ミスティの討伐を命じられたらしい。
「それで、ナロウ王国からの使者のフリをしながら王城へ侵入して、ミスティの眼前までたどり着くことができたんですけど……」
「ショウタとヒロシとケンジがミスティのスキルに支配されて、私達もすぐに捕まったんです」
魔王ミスティのスキル『完全魅了』は、魅了した異性を強制的に従わせるスキルらしい。
シズカとヒマリ以外の勇者3人は、謁見の間で挨拶を交わしただけでスキルの支配下に置かれたのだそうだ。
「事前にミスティのスキルは知っていたので状態異常に対抗できる魔道具をいくつも装備していたんですけど、全く意味がありませんでした」
「耐性強化の魔術もかけていたんですけど、それも意味がなかったです……」
「魔道具でも魔術でも防ぎきれないのか……」
『完全魅了』、とんでもないスキルだ。もしも、あの場でレオンとシルバがスキルに支配されていたら……想像するだけでも恐ろしい。
にしても、なんで俺には効かなかったのだろう?神人ボディは男だけど、ダンジョンである俺自身の性別は男じゃないのか?魔物を生み出してるから、もしかして俺ってメスなのか!?
だとすると、自身のあり方を考え直す必要がありそうだ……。
「……難しい問題だな」
「そうですね……」
「難しいです」
なんか少しだけ噛み合ってない気がするが、話を続ける。
「そういえば、2人はナロウ王国に帰らなくて良いのか?クラスメイトも待ってるんだろ?」
「私達は……すみません、今は帰りたくないんです」
「カイさんが良ければ、もう少しだけここに居させてほしいです」
話を聞くと、どうやらナロウ王国の王様はあまり信用できない人物らしい。
情報収集に特化したスキルを持つクラスメイト数名が独自に元の世界への帰還方法を調べたらしいのだが、魔王が元の世界へ帰る鍵という情報どころか、帰還方法の手掛かりとなる情報すら一切見つからなかったそうだ。
「過去にも勇者召喚が行われたという記録はあったのですが、彼らが帰還したという記録はありませんでした」
「それと、魔王ミスティに拘束された時に『魔王が帰還の鍵って、騙されてるわよあなた達』と言われまして。ミスティの勝利が確定している状況でそんな嘘をつくとは思えず……」
「ナロウ王国を信用できなくなったわけか」
たしかに、今聞いた話だけでも怪しさ満点だな。
「それでもクラスメイトには無事を伝えておいたほうがいいんじゃないのか?」
「大丈夫です。私達が生きていることは、魔道具でクラスのみんなに伝わっている筈です」
「そんな便利な魔道具があるのか」
「はい。この手首に巻いている紐がそうです」
これは『不吉の予兆』という2本で1組のミサンガのような魔道具らしく、装備している者が亡くなると紐が切れ、対であるもう1本の紐も切れるという仕組みの魔道具らしい。
召喚されたクラスメイト全員が装備しており、それぞれと対になっている紐はナロウ王国が管理しているそうだ。そのため、クラスメイトから死者が出ればすぐに分かるらしい。
「いずれはみんなのところへ戻ろうと思いますけど、しばらくはナロウ王国の目が届かない範囲から元の世界への帰還方法を探そうと思っています」
ヒマリが力強くそう話してくれた。
ナロウ王国は勇者が他国へ流れていく事を非常に恐れているらしく、国外へ出る機会は一切与えられないらしい。そのため、ナロウ王国の外で情報を集めるためにも、今はこの村に居させてほしいとの事だった。
ちなみに、ミスティに魅了された勇者君3名は側近として仕えさせられているらしく、勇者一行がミスティの手に堕ちた事実は既に各国に知れ渡っているのでクラスメイトにもその事は伝わっているだろうとの事だ。
「とりあえず、2人はこの村にとどまる形で良いんだな?」
「はい、置いていただけるとありがたいです」
「お願いします」
「俺としては何の異論もないし、勇者が居てくれるのはむしろ頼もしいから大歓迎だ。こちらこそよろしく頼む」
王城で戦った勇者くんの戦闘力は凄まじいものだった。シズカとヒマリもあれくらいの実力だとすれば、俺よりも全然強いはずだ。
毎日狩っているのにここら辺の魔物はまだまだ尽きそうにないので、村の安全のためにも戦える人が多いのは心強い。
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
「その、よろしくお願いします」
こうして勇者2人が仲間になった。




