30話「金銀財宝」
「うおっ!見たこともないお宝だらけだ」
宝物庫へ着くと、凄い光景が目の前に広がっていた。金銀財宝やら美しい宝石やら異様な魔力を放つ武器やらよく分からない生き物の骨格標本やら。
価値のありそうなものが部屋中を埋め尽くしている。
さすがは大国の宝物庫だな。日本円に換算したらいくらになるんだろう?
「えっ、あなた、誰?」
天井を見上げると、吊り下げられた檻の中に妖精さんが入っていた。
「説明は後でする。君を助けに来たんだ。シルバ、出てきてくれ」
「わかりました」
ボムアントに檻の術式を破壊してもらい、影の中から出てきたシルバが檻の扉を破壊してくれた。
「俺の影の中に入ってくれ。そうすれば安全な場所へいける」
「影の中に、ですか?」
「安心してくれ、影を抜けた先には仲間のうるさい妖精も待ってるよ」
妖精は若干警戒しながらも、牢屋生活には戻りたく無いのか渋々影の中へと入っていった。
「よし、これで任務完了だ。にしても凄い宝だな」
珍しそうな昆虫標本や魔物の剥製まである。凄い欲しい。貴重な生態情報が手に入りそうだ。
「気になるものがあるのでしたら、持っていけばいいのではないですか?」
「いやいや、国の財産なんだし。魔王の事ははどうでもいいけど、国に住んでる人たちに悪いだろ」
「国の宝物庫は別にあります。ここは魔王ミスティ個人の宝物庫だったはずですよ」
「え、マジ?」
体育館10個分くらいの巨大空間を床から天井まで財宝がびっしり埋め尽くしている。世界的な美術館の展示品よりはるかに多い量だ。
聞くと、ここにあるもの全て周辺国から略奪したり貢がせたりして集めたミスティ個人の財宝らしい。
「めちゃくちゃ欲しいけど、盗むのは気がひけるなぁ」
「持っていかれるかはカイ殿の自由ですが、カイ殿はこの国の人間ではありませんし、この国と同盟を結んでいるわけでもありません。なのでこの国の法を守る義務はありませんよ」
そういう価値観でいいのか。というか、これだけの騒ぎを起こしておいて盗む盗まないで悩むのも今更か。
「それじゃあ、遠慮なく!」
昆虫標本と珍しそうな生き物の剥製と骨格標本はもちろんいただく。どこかの街に拠点を置いて活動する事も考えて、金銀財宝もあらかたいただいていこう。
そんなことを考えながら、ショーケースや金庫ごと次々と影の中へ収納していく。『迷宮の影』便利だなぁ。
「見つけたぞ」
「!?」
声のほうを振り向くと、宝物庫の入り口に煌びやかな剣と防具を身に纏った黒髪の少年が立っていた。
「うわっ!」
「勇者です!カイ殿、逃げてください!」
20メートル以上は離れていたのだが、一瞬にして距離を詰められた。俺へ向けて放たれた黒髪少年の斬撃はシルバが即座に拳で反らしてくれたのでなんとか助かったが、あれが勇者か。危なかった。
シルバが居てくれなければ、今頃神人ボディの首と胴体がお別れしていたかもしれない。
「『光の支配者』」
勇者の剣が光に包まれ、周囲に光の剣が10本ほど出現した。あれが勇者のスキルか。
「いけ」
「『神速』!」
勇者の合図とともに光の剣が高速で飛んで来た。だが、シルバが周囲に転がっている武器や防具をぶつけて攻撃を防いでくれた。
光の剣は相当な熱量があるのか、攻撃の当たった武器や防具は全て溶解している。直撃したらひとたまりもないな。
「カイ殿ははやく逃げてください!」
「置いて行けるわけないだろ!」
せっかくシルバが娘さんと再会できたのだ。置いて行けるわけがない。
でも、加勢しようにも戦闘がハイレベルすぎて割り込む隙がない。
くそっ、財宝なんて奪らずにすぐ帰ればよかった。バチが当たった。
「神人ボディを捨てる覚悟でシルバを無理やり回収するしか……ん?」
本体であるダンジョンの中で呼び出してくれと叫ぶ声が聞こえる。迷っている暇はないか。
「レオン!」
「村長が行けって言うんで来たんですけど、ちょっとヤバそうですね」
「ああ、シルバが勇者と……」
「大丈夫ですぜ。状況はだいたい理解しました。何でもいいんで武器たくさん出してもらってもいいですか?」
「わかった!」
影の中から出てきたレオンの指示を聞き、剣やらナイフやら槍やら弓やら、蓄えていた武器を影から次々と出現させた。
「もしかしてレオンも戦うのか?」
「カイさんのくれた蜜のおかげで最近は調子いいんで、3分くらいなら全力で戦えますぜ。全盛期には及びませんが、まぁ見ててください」
オールフルフラワーの蜜では欠損部位や古傷を完全に治すことはできない。だが、少しだけ症状を和らげる事はできるらしい。
そのため、ほぼ毎日オールフルフラワーの蜜を接種していたレオンの右腕は無理をすれば少しの間だけ以前のように動かせるようになっていた。
「レオン殿!」
「さっさと片付けて帰りましょう。まだ右腕は万全じゃないんで後方支援中心でいきます」
「助かります。では私が前衛を」
即席の共闘だが凄いコンビネーションだ。
レオンがタイミングよく武器を投擲し、シルバがその隙をついて技を繰り出す。熟練のコンビの戦いを見ているかのようだ。
というか、レオンの全力ってあんなに凄いのか。普段も充分強いのに、さらに桁違いに強くないか?
「凄い戦いね。私じゃ一瞬でお陀仏だわ」
「そうだな。俺も一瞬で……って、え?」
声のほうを向くと、真横に卑猥な寝巻を纏った妖艶な雰囲気の女性が立っていた。あ、ハエを介して姿を見た人だ。こいつ、魔王ミスティか!
「魔王!?カイ殿!離れてください!」
「くそっ!勇者は囮か!」
焦るシルバとレオンを他所に、魔王は俺の手を握ってきた。見た目は華奢なのに凄い力だ。戦闘力は今の神人ボディと同じくらいあるかもしれない。
「はい、あなたは今日から私の下僕ね」
「はい?」
……はい?




