29話「お礼は弾むからー!」
大国の首都の簡単な混乱のさせ方。
まずはじめに、召喚魔術のスクロールを持たせたクロウクローをゼネラルの首都へ向けて飛ばします。
首都の近くで召喚魔術を発動。召喚魔術のスクロールを持たせた小鳥たちをたくさん呼び出します。作り出した生物は俺の手足のようなものなので、作り出した生物を介して魔力を流し込む事でスクロールは簡単に発動できるのです。
次に、小鳥たちと召喚魔術のスクロールを首都の各地、計40ヶ所へと配置して神人ボディを適当な位置へ召喚します。
最後に、『迷宮の影』を使用して大量の魔物を召喚。別の位置へ召喚魔術で移動、大量の魔物を再度召喚の手順を繰り返します。
あっという間に首都は侵入経路不明の魔物だらけとなり大混乱!もちろん魔物達には住民を傷付けないよう厳命しているので、混乱の規模の割に被害は最小限です。
「というわけで、準備も整ったことだし、城へ侵入するかな」
既に城内へ侵入させていた虫達を通して様子は伺っている。城の兵士も魔物の処理に駆り出されているようだが、まだそれなりに人数はいるな。
それと、王室らしき場所にはヤバイのがいる。あそこは行かないようにしよう。
「召喚魔術、発動」
場内の人気のない一室で、コバエを介して召喚魔術を発動した。
魔術スクロールは術式さえ刻めていれば大きさは関係ないので、コバエでも持ち運び可能な大きさのスクロールも大量に作ってあるのだ。アリの姿でスクロールを描くのは大変だった。
「さてと、周りには誰も居ないようだな。シルバ、セレブロ、プラタ、出てきていいぞ」
俺の言葉を聞き、ダンジョン内で待機していた3人が影の中から現れた。
「すごい、本当に城内へ辿り着いてる」
「足元に現れた影に沈んだと思ったらいつのまにか城内に、不思議な感覚です」
「魔物の軍勢で首都も混乱しているようですね。これがカイ殿の力ですか」
「そうだよ。とりあえず、時間がなさそうだから急ごう」
3人が驚愕しながら感想を述べていたが、時間がないので早く計画を遂行する。
先程、明らかに次元の違う強さの魔術師と大剣使いが城の外へ飛び出していくのを虫達が見ていた。
魔物達は撹乱と逃走に特化した動きをしているのでそれなりに強い兵士や冒険者が相手でも充分に時間を稼げるのだが、今の2人は別格だ。ものすごい勢いで魔物が倒されている。思った以上に時間は稼げないかもしれない。
「まだ兵士がいますね。地下室までは私が先導しましょう。すこし経ってからついて来てください」
シルバはそう言うと弾丸のような速度で地下室へ向けて駆けていった。
「シルバ一人で大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。城の兵士は手練れですが、隊長の足元にも及びません」
「勇者や英雄クラスが相手でも、一対一なら互角に渡り合えると思います」
「まじか、シルバってそんな化け物だったのかよ」
勇者や英雄クラスがどれほどかは分からないが、シルバはとんでもなく強い存在なのだろう。オールフルフラワーが無かったら、ダンジョンコアは今頃木っ端微塵だったな。
「終わったようですね。行きましょう」
セレブロの言葉に従い地下室へ向かうと至るところに気絶した兵士達が横たわっていた。
争った跡どころか剣を抜いた形跡すらない。武器を構える事すらできずシルバに意識を奪われたのだろう。シルバさん半端ないっす。
「ここが地下室への入り口です」
「ただの鉄の扉……じゃないな。魔力が流れてるのか?」
「強化魔術の術式が扉の向こう側に刻まれているようですね。壁も同じく強化されています」
俺の疑問にプラタが答えてくれた。鍵はないので破壊するしかなさそうだが、3人がかりでも20分はかかるとの事だ。
その間に兵士が駆けつけると厄介だな。
「刻まれた術式を破壊できれば強化魔術は消えるのか?」
「そうですね。術式か魔力源の魔石を破壊できれば魔術は止まるはずです」
「わかった。ちょっとやってみるわ」
扉の隙間や鍵穴からボムアントを侵入させる。扉の内部や壁の表面に術式らしき線が刻まれているな。どれが正解だろう?
「まぁいいや、適当に『自爆』」
「……!?強化魔術が消えました!」
「ボムアントのこういった使い方もあるのですね。凄いです」
セレブロとプラタが驚きながらそう呟いている。
どれが当たったかのか分からないが、強化魔術は無事に消えたらしい。
「あとは私が、はぁっ!!」
シルバが回し蹴りを放つと鋼鉄の扉はくの字になって吹き飛んだ。
厚さ5センチくらいあるんだけど……シルバさん半端ないっす。
「イン!どこだ!?イン!」
地下室の扉が開くや否や、シルバが誰かの名前を叫びながら弾丸のような速度で奥へと進んでいった。
中に待機していた兵士達は訳もわからぬまま気絶させられている。凄い手際だが、シルバは少し焦っているみたいだな。
「隊長の無礼をお許しください。実は、囚われた仲間の中には隊長の娘もいるのです」
「病弱なんで、長い地下牢の生活で体調を崩していないか心配なんだと思います」
「そうだったのか」
シルバは妻を亡くしており、インという名前の一人娘を男手一つで育てていたらしい。だから同じ境遇のレオンともすぐに意気投合してたのか。
「イン!無事だったか!?」
「けほっ、お父……さん?」
地下牢には美しい銀色の長髪が煌めく儚げな少女が囚われていた。彼女がシルバの娘か。
「カイ殿!牢屋の強化魔術をお願いします!」
「まかせろ」
先ほどと同じようにボムアントで鉄格子の強化魔術も破壊した。ほかの銀狼族が閉じ込められている牢屋も順々に壊していく。
「イン!待たせてすまない!」
「お父さん!ごほっ、けほっ」
地下牢は薄暗く、湿気とカビの匂いが充満している。お世辞にも良い環境とは言えない。
病弱じゃなくても体調を崩してしまいそうな場所だ。
「感動の再会は後にしよう。早く俺の影に入ってくれ」
「けほっ、あの、あなたは……?」
「あとで説明する。今はここから逃げるのが先決だ」
「皆、早くカイ殿の影の中へ。この御仁は信用できるお方だ」
「族長がそう言うなら」
「わかりました」
若干警戒しながらも、シルバの言葉に従って囚われていた銀狼族達はぞろぞろと影の中へ入っていく。というか、シルバって族長だったのか。
「うわっ、影に沈んでいくっ」
「不思議な感覚」
そんなに警戒しなくても、ダンジョン内は少なくともこの地下牢より快適だよ?
最近空気を綺麗にしてくれる植物と微風を起こして換気してくれるキノコを見つけたので、それをたくさん生やしている。見た目はただの洞窟だが、空気の綺麗さだけには自信があります。
「よし、みんな入ったようだな。これで全員か?」
「はい。幸いなことに仲間は全員地下牢に閉じ込められていたようです」
俺の言葉にプラタはそう答えた。
地下牢にいた銀狼族は年配の者や女子供総勢20人ほど。森に攻めてきたシルバ達を含めて30人くらいか。
本当に数の少ない種族なんだな。
「ストーップ!お願い!私達も助けてー!」
「ん?誰だ?」
地下牢の奥のほうを見ると、七色にチカチカ光る小さな物体が鳥籠のような場所に閉じ込められていた。
よく見ると人の形をしている。これ、妖精か?凄い!ファンタジーだ!
「お願いしまーす!お礼は弾むからー!お礼は弾むからー!」
「うるさっ」
妖精らしき存在はうるさいし眩しい。なんかイメージと違う。
「あの、彼女達も助けてあげてはいただけないでしょうか?ここでの生活でお互いを励ましあった仲間なんです」
どうしようか考えていると、影の中からインさんがそう語りかけてきた。どうやら、影を通してこちらの会話が聞こえていたらしい。
よく見ると、他の牢屋には黒髪の少女や人型の枯れ木みたいのもいる。もういいや、まとめて連れて行こう!
「はやく!全員影の中へ!」
外で撹乱中の魔物達も半数を切った。そろそろ城の警備兵が戻ってきそうだ。時間がない。
「待って!まだ仲間が城の中にいるの!」
「なに!?」
どうやら妖精の仲間が城の別の場所で囚われているらしい。
「どこだ?この城広すぎる!」
そう呟きながら城中に配置させている虫達に全力で捜索させる。いた!こいつか?
「見つけた!宝物庫にいる。額に宝石みたいのついてる妖精か?」
「そうそれ!」
妖精の話では、仲間のほうは魔石を作り出すという特殊なスキルを有しているそうだ。だから宝物庫に囚われているのか。
「とりあえずみんなは影の中に入ってくれ。すぐに宝物庫に移動して妖精を助けだす」
宝物庫に極小の召喚魔術スクロールを設置しながら、牢屋に閉じ込められていた人達を次々と影の中へ入れていく。
「カイ殿、宝物庫に着いた際はもう一度私を呼んでください。檻を破壊する役が必要でしょう?」
「ありがとうシルバ。着いたらすぐに呼ぶよ」
外の魔物達はまだ3割ほど残っているが、魔物達は抵抗はしても攻撃はしてこない事がわかったためか騒ぎもだいぶ落ち着いているようだ。
城の兵士達もぞろぞろと戻ってきている。
「急がなきゃな。召喚魔術発動!」
地下牢にいた全員が影に入った事を確認し、すぐさま宝物庫へと転移した。




