27話「銀狼族」
「ここは……」
「おっ、目が覚めたのか」
オールフルフラワーの蜜をかけて適当に誰か1人起こそうと思ったのだが、リーダーらしき初老の獣人が自然と目を覚ました。
普通ならオールフルフラワーの睡眠毒は何があっても一日は目覚めないはずなのだが、この獣人は1時間ほどで目を覚ましている。
毒を警戒して呼吸を浅くしていたのかも知れない。だとすれば相当な手練れだな。
「ま、丁度いいか。いくつか聞きたいことがあるんだけど答えてくれないか?」
「……殺せ」
何も語ることは無いとでも言うように、初老の獣人は下を向いて目を閉じた。
「凄い覚悟だな。そんなに『ゼネラル』って国に忠誠を誓ってるのか」
「そんなわけがない!誰があのような国に!」
うおぉ、すごい剣幕で否定された。
彼らの持ち物に『ゼネラル』という国の紋章が描かれた物があったのでそこの兵士かと思ったのだが、違ったのかな?
ちなみに、紋章の知識はワンドから教えてもらった。
「カイさん。こいつらですか、ここら辺を嗅ぎ回ってたっつう獣人は」
「レオン、来てくれたか」
ホーンウルフがレオンをダンジョン内に連れてきた。
この世界の常識に疎い俺だけで話し合いや交渉をするのは難しいため、助っ人としてレオンに来てもらったのである。
「珍しいですね、銀狼族ですか」
「銀狼族?」
「はい。獣人の中でも特に戦闘に優れた種族なんですけど、もともと数が少ないため大戦時に絶滅したと聞いていました。まだ生き残りが居たんすね」
レオンが獣人の国に住んでいた時も文献でしか見た事がなかったほど珍しい種族らしい。
「なるほど、今は獣国じゃなくてゼネラルに仕えているわけか」
「あの国に仕えている……か。ふっ、何も知らぬ若僧が。我ら銀狼族を語るな!」
勘違いされたままでいる事が癪だったのか、初老の銀狼族はここに至るまでの経緯を簡潔に話してくれた。
もともと数の少なかった銀狼族は獣人国家が出来てからも差別や迫害を受けることが多かった。しかし、大戦で戦果を挙げれば安定した地位と種族の繁栄を約束すると当時の獣王に言われ、命を賭して多大な功績を挙げたらしい。
だが、生き残った僅かな銀狼族に待っていたのは今までと変わりない差別の日々と功績の抹消という獣国からの裏切りだった。
結局、約束通り銀狼族を優遇して多数の獣人族に不満を与えるよりも、少数の銀狼族を切り捨てる事を当時の獣王は選んだらしい。
その後は信頼のできない獣国から逃れ、身を隠しながら各地を転々として銀狼族は暮らしていたのだそうだ。
「そんな折にゼネラルを支配する魔王『ミスティ』に捕まり、他の仲間を人質に取られていいように使われているというわけだ」
「……」
言葉が出なかった。前世で住んでいた世界にも似たような話はあるだろうが、実際にここまで酷い話を直接聞いたことはなかった。
できれば何とかしてあげたいとは思うけど……あ、何とかしてあげればいいのか。
「提案なんだけど、もしも人質になっている銀狼族を助けたら俺達の仲間になってくれるか?」
「……なんだと?」
予想外の言葉に混乱しているようだが、話を続けた。
「罠や毒でなんとか制圧できたけど、正面戦闘では俺と従えてる魔物達を総動員してもたぶん勝てない。だから、仲間としてこの村に居てくれたらすごい心強いんだ。もちろん、無理にここに住む必要はないぞ。今後敵対しないと約束してくれるなら森の外へ行ってくれても構わない」
「従えている魔物……我々を襲ったのは貴様が従えていた魔物なのか?」
「そうだよ」
「……不思議な男だな」
初老の獣人は少し考え込んだあと、答えを口にした。
「いいだろう。もとより敗北した我らに選択肢などない。このままゼネラルへ帰れたとしても、任務に失敗した我等に命の保証などないからな。もしも我等の同胞を救ってくれると言うのなら、私は生涯其方に仕えると誓おう」
そこまでして貰わなくてもいいけど、取り敢えず話はまとまった。
「しかし、我が同胞が捕らえられているのはゼネラルの首都にそびえ立つ城の地下だ。尋常ではない数の兵士や強大な力を持つ英雄が守っている。お主は毒や罠の扱いに長けているのだろうが、それだけで救出が行えるほど甘くはないぞ」
「もう作戦は考えてあるから、やるだけやってみるよ」
ハーフは奴隷狩りに狙われているという話を聞いてから、万が一村の誰かが捕まってしまった時に実行しようと思って考えていた救出作戦がいくつかある。その一つが使えそうだな。
「ゼネラルの首都は東へ真っ直ぐ向かえば着くのか?」
「そうだが、我々の足でも森を抜けるだけで5日はかかる上に、そこからゼネラル国内をさらに5日は移動する必要がある。万が一救出できたとしても、最短で片道10日の道のりを逃げ切らねばならん。やはり救出など不可能だ」
長い移動距離に大量の兵士ね。たしかに、そう聞くと救出は不可能に近いな。
普通に救出すれば絶対に無理だ。
「取り敢えず、決行は10日後になると思う。それまで色々と準備する必要があるけど手伝ってくれないか?」
「それは構わん。敗北した我々に選択肢などない」
「レオンも、勝手に話まとめちゃったけどそんな感じでいいかな?」
「銀狼族の救出作戦ですか。どうやるかは分かりませんけど、準備が必要なら村のみんなも喜んで協力してくれると思いますぜ。俺も異論はないです」
「ありがとう。早速頼みたいことがあるんだけど……」
今回の作戦にはとにかく数が必要だ。10日後の決行までに魔物の数をどれだけ揃えられるかが重要になってくる。
そう考えつつ、召喚魔術のスクロールを持たせたクロウクローを東へ向けて飛び立たせたのだった。




