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26話「焦った焦った」



「ここは、洞窟の中か?」


 光る苔とキノコに淡く照らされた通路を見ながら、シルバはそう呟いた。


「落とされた穴は塞がっています。目の前にある通路を進むことしか出来ませんね」

「なるほど、先ほどの場所から地下空間へ落とされたと考えるべきだが、我々の知らないスキルや魔術によって強制的に転移させられた可能性もあるな。どちらにしろここで様子を伺っていても意味はないだろう。洞窟の奥へと進むぞ」

「「「「了解」」」」


 シルバの決定に従い、10名の銀狼族は洞窟の奥へと歩き出した。


「この花……」

「シルバ隊長、その花を知っているのですか?」

「いや、どこかで似た花を見たことがある気がするが、気のせいかも知れん。気にしないでくれ」

「はい」


 そう言いながらも通路内に一定間隔で咲いている花を執拗に気にしているシルバの姿に、セレブロは首を傾げた。


「ふむ。プラタ、罠の気配はあるか?」

「先程からスキルを全力で発動しているのですが、この洞窟全体から危険な匂いを感じるので罠の特定ができません」


 シルバの言葉に、プラタと呼ばれた短髪の女性はそう答えた。

 彼女は身に迫る危険を匂いとして感じることのできる『危機覚』というスキルを所有しているため、罠の発見や不意打ちを事前に察知することができるのである。


「プラタのスキルが使えないとなると、非常に厄介だな。この洞窟は通路も狭い。全ての感覚を研ぎ澄ませろ。いつ襲撃がくるかわから……なっ!?」

「天井にスライム!毒粘液を放っています!」


 セレブロの言葉を聞き、銀狼族の全員は即座に毒液を躱す。


「っ!!あまり離れすぎないで!」


 狭い通路、集団の中央へ降り注ぐ毒液。

 必然的に前後へ分かれることとなった銀狼族を完全に分断するように、天井から岩の混ざった土砂が降り注いだ。


「罠か、分断された」


 混乱の中、投げナイフで即座にスライムを処理したシルバは静かにそう呟いた。


「こちらは4人、あちらは6人ですか」

「俺が破壊します」


 集団の中で最も屈強な体躯をしている銀狼族の男が岩壁へと近づく。


「『破砕』!」


 そう叫びながら屈強な銀狼族の男は岩壁へ拳を突き立てた。

 彼の名はアルゲン。攻撃による破壊力を増幅させる『破砕』というスキルを所有している彼にとって、土砂の壁など埃を払う程度の力も必要ないのである。


「穴が空きました。これで……」


 岩壁に突き立てた拳を抜くと同時に、アルゲンは気を失った。


「毒だ!土砂から離れろ!」


 シルバの叫びにセレブロとプラタは土砂から距離をとる。


「向こうからは音がしませんね……」

「アルゲンと同じく、みな毒にやられたのだろう」

「くっ、私のスキルがちゃんと使えていればっ……」

「……プラタ、お前のせいではない。とにかく先へ進むぞ、ここにも毒が到達する可能性がある」


 アルゲンの開けた穴から徐々に流れ込んできているであろう毒を警戒し、3人は洞窟の奥へと歩を進めた。


「仲間の仇は、必ずとる」

「ええ、もちろんよ」

「感情的になっては相手の思うつぼだ。落ち着いて行動しろ」


 シルバは憤る2人を諌めながらも、血が滲むほど強く拳を握りしめていた。

 その後、3人は数々の罠を潜り抜け、複数の魔物達が待機するひらけた空間へと辿り着いた。


「ホーンベアとグンソウが5体ずつ。ホーンウルフとゴブリンが10体ずつですか……」

「別種族の魔物が連携をとっているだけでなく、武器と防具まで装備している。異常ですね」

「ああ、あまりにも異常な事態が続きすぎている。ランクEとDの魔物ばかりだが油断はできんな。ここは私のスキルで対処する」


 その言葉の直後、シルバの姿は消え、その場にいた全ての魔物が一瞬にして肉片となった。


「隊長の『神速』は相変わらず凄まじいですね」

「目で追うのがやっとです」


 スキル『神速』。肉体へ過剰な負担を強いる上に1日に3分間しか使用できないという制限はあるが、発動後は肉体の限界を超えた速度で行動することができる強力なスキルである。

 シルバはそのスキルを数秒だけ発動し、目にも留まらぬ速度で武装した魔物を一瞬にして葬り去ったのだった。


「ふむ、死体が消えているようだな」

「「!?」」


 シルバの言葉に、セレブロとプラダも気がついた。たった今シルバが倒した魔物の死体が全て消え去り、魔石だけが残されているのである。


「これは……」

「うむ、ここはダンジョンの中である可能性が高いな。洞窟の中、数多くの罠、種族の異なる魔物同士の共闘。そうだとすれば全ての辻褄が合う……!?」

「ヒカリ苔と発光茸の明かりが消えた!?」

「光っ!爆発!?」


 突如、洞窟内を照らしていたヒカリ苔と発光茸の光が消え、複数の爆発音とともに閃光が放たれた。


「くっ、視覚と聴覚を潰してきたのかっ!」

「想像より遥かに強かったんで強行策を取らせてもらいました。すみません」

「「「っ!?」」」


 3人は見知らぬ誰かの声を聞いた瞬間、意識が途絶えたのだった。





 いやー、焦った焦った。銀髪獣人集団、めちゃくちゃ強かった。

 多少強くても10人くらいなら何とかなるかと思ったが、オールフルフラワーがなければ確実に負けていただろう。特に、最後まで残った3人は桁違いの強さだった。罠を次々と突破され、控えさせていた武装魔物部隊が瞬殺された時は背筋が凍る思いだった。

 おそらく、神人ボディを使っても絶対に勝てなかっただろうな。

 だが、それだけの危険に見合った収穫もあった。


「ヒカリ苔と発光茸に光を消してもらいつつ、ボムアントの閃光と爆音で視覚と聴覚を遮断。嗅覚に頼ろうとした瞬間にオールフルフラワーの睡眠毒で眠らせる。このコンボは使えるな」


 奥の手として考えていた罠の1つだったが、思っていた以上に有用だった。

 塚原さんには遠く及ばないが、あの3人もこの世界では強者の分類に入る存在のはずだ。だとすれば、この罠は強者にも充分通用するという事になる。


「予想以上に危ない戦いだったけど、本体のレベルが上がったのは嬉しい誤算だったな」


種族名:ダンジョン

種族能:吸収と理解

レベル:8

スキル

『迷宮操作』

『生物生成』

『道具生成』

『言葉ノ王』

『魔力操作』


 戦いはヒヤヒヤしたが、本体のレベルが一気に2も上がっていた。銀髪獣人集団、それほどの相手だったということなのだろう。

 勝てて本当に良かった。


「さてと、森の中へ来た目的を吐かせるとするかな」


 装備を全て回収し、グンソウの糸とスライムの硬化粘液でガチガチに拘束した睡眠中の銀髪獣人達を見つめながら、俺は静かにそう呟いた。

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