24話「銀狼の獣人」
「完成しました!これが召喚魔術のスクロールです!」
「おお!おお?」
ワンドが複雑な術式の描かれた紙を渡してきた。見た目はそれっぽいけど、これで本当に召喚魔術が使えるのか?
「魔道具の発展によってスクロールの需要はどんどん無くなっていきました。なので、今はスクロールの作製技術は失われているんです。現存しているスクロールは技術が失われる前のものですから、量産ができるようになればお金にもなります!そして、この技術を発表すれば賢者とはいかなくとも、魔導師の称号を得られるかもしれません!」
「なるほどな。よくわからないけど、早速効果を見せてもらえるか?」
「もちろんです!」
テンションが上がりに上がっているワンドを宥めつつ、魔術スクロールの効果を見せてもらう。
「召喚魔術は召喚する生き物の体の一部が必要になります。ホーンウルフの毛を一本もらっていいですか?」
「毛でいいのか。来い、ホーンウルフ」
近くにいたホーンウルフを呼び寄せ、毛を抜いてワンドに渡した。
「あとは簡単です。スクロールに描かれた術式の上に毛を置いて、召喚したい生物を頭の中でイメージしながら魔力を流し込めば大丈夫です。ただ、召喚される生物の許可も必要なのでそこが気がかりですが……」
「許可?」
聞くと、召喚される生物が頭の中で許可しなければ呼び出す事はできないらしい。
そりゃそうか。許可なく呼び出せるなら髪の毛一本手に入れれば簡単に誘拐とかできる凶悪魔術になってしまう。
「それなら大丈夫。ホーンウルフは賢いから、召喚魔術の呼び出しに応じてくれる筈だ」
というかホーンウルフ自体が俺の体の一部なのでもちろん許可だ。
「わかりました。そしたらホーンウルフに遠くへ移動してもらってもいいですか?」
「ホーンウルフ、遠くへ離れててくれ」
俺の命令に従い、ホーンウルフは遠くへ離れて待機した。ギリギリ目の届く位置だ。
「それではいきます。『召喚』」
ワンドがスクロールへ魔力を流し込むと術式の描かれたスクロールはボロボロに崩れた。同時に目の前の空間が歪み、先ほどのホーンウルフが出現した。
待機しているホーンウルフを見るとその姿は消えており、待機位置の空間が少し歪んでいる。
「成功です!」
「おお!すごい、すごいなワンド!」
これが魔術か。流石ファンタジー世界。素晴らしいな。
そして召喚魔術、これは条件次第では戦略の幅が膨らみそうだ。詳細を是非とも知りたい。
「召喚魔術の魔力は距離によって変わるのか?それとも、召喚する生物の質量によって変わるのか?」
「両方ですね!召喚距離が遠ければ遠いほど、召喚する生物が大きければ大きいほど魔力が必要です。ですが、転移魔術に比べれば遥かに少ない魔力で済みますね」
「スクロールの大きさは?小さいスクロールだと魔術の規模も小さくなったりするのか?」
「スクロールの大きさは関係ありません。たとえ砂つぶ程度の大きさだろうと、術式さえ描けていれば魔術が発動できますよ!術の規模は魔力量に依存するので、小さなスクロールでも注ぎ込む魔力が多ければ大規模の魔術が発動できます!ですけど、召喚魔術の術式は少し複雑なので、どんなに頑張っても手のひらサイズが限界ですね。妖精族なら花びらくらいのスクロールを作れるかもしれませんけど」
その後もワンドに魔術スクロールの仕組みを説明してもらい、ほかの種類の魔術も実際に見せてもらった。
「俺も使ってみてもいいか?」
「どうぞどうぞ!まだまだたくさんありますよ!」
ワンドは鞄の中から辞典くらいの厚さの紙の束を出してきた。
これ全部魔術スクロールか。何千枚描いたんだ。
「まずは初級魔術のファイヤーボールのスクロールがいいかもしれませんね。使い方は簡単です。火の玉をイメージしながら、スクロールに魔力を流すだけです」
「なるほど」
ワンドに言われた通り、火の玉をイメージしながら魔力を……魔力?
「魔力って、どう流すんだ?」
「えっ」
聞くと、魔術の行使には『魔力操作』というスキルが必要なのだそうだ。
先天的に持っている者もいるが、訓練すれば習得できるスキルらしい。
「頑張りましょう。僕は独学で5年ほどかかりましたが、効率よくできればもっと早く習得できるかもしれません。カイさんが習得できるまで手伝いますよ」
「ご、5年か」
長いな。でも、魔術が存在する世界なのなら是非とも使えるようになりたい。
「……よろしくお願いします」
たとえ何十年かかったとしても、頑張って習得しよう。
◇
『魔の森』の東側に存在する多種族連合国家『ゼネラル』。
その国から魔の森の間に存在する街道を、銀狼の獣人10名で構成された一団が馬を超える速度で駆け抜けていた。
「シルバ隊長。まもなく魔の森ですが、進行方向はこのままでよろしいのですか?」
「ああ、魔の森の北側は竜の巣で南側は巨大な魔物が多く潜んでいる。この人数でその領域へ向かうのは危険だ。このまま東側から森の中央へ向けて進んでいく」
「西側へ抜けるルートですか……」
「安心しろセレブロ。西方にある『死の森』の勢力圏まで行くつもりはない。今回は東側と中央の探索のみを行う予定だ」
一団の先頭を走るシルバと呼ばれた中年の獣人は、一歩後ろを走るセレブロと言う名の若い獣人の質問にそう答えた。
「あの女の命令に従わなければいけないなんて……」
「セレブロ、お前の気持ちはわかる。だが、今は大人しく従うほかない。有益な情報を手に入れたとしても奴が仲間達を解放する気はないだろうが、従わなければ何をされるかわからないからな」
「わかり、ました」
セレブロは、シルバの言葉を聞き静かに頷いた。
「他の者も今は任務に集中しろ!魔の森は危険だ。このような任務で命を落とす事は断じて許さない!絶対に生きて帰るぞ!」
「「「「はい!」」」」
シルバの声に、獣人の一団は気合いの入った返事で答えた。
しばらくして、銀狼族の一団は魔の森へと足を踏み入れたのだった。




