22話「せっかくの異世界」
「これ、カイさんが一人で倒したのです!?」
「正確には俺の魔物達と一緒にだけどね」
作り出した魔物も俺の体の一部みたいなものだから、より正確には俺一人か。
「いや、それにしたって凄いじゃろ。お主の魔物達は相当な統率力なんじゃな、大したもんだわい」
ディエゴにそう褒められながら片付けを進めていく。
蜘蛛軍団との戦いから一夜明け、今は村のみんなと蜘蛛の死体の片付けを行なっているのだ。
最初は全て吸収して経験値にしようと思ったのだが、この蜘蛛の素材で武器や道具を作れないかとミーナとディエゴに相談してみたところ甲殻や牙からは優秀な防具や武器が作れると言っていたので作ってもらう事になった。そのため、一部だけを吸収して残りは武器の素材として利用する事にしたのだ。
「グンソウは茹でると美味しいんですよ。お尻のミソに身をつけながら食べるのがおススメです」
「マジか……」
レオナが教えてくれたのだが、この蜘蛛、結構美味しいらしい。村の食料事情はまだギリギリの状態なので、食べられるのならそれに越したことはないけど……これ食べるのか。
「この一番でけぇダイグンソウは、カイさんの魔物達の餌にするんですよね。洞窟に村のみんなで運んどきますか?」
「いや、村の分も全部俺のスキルで運ぶからいいよ。置き場所と調理の用意をしといてくれ」
レオンの言葉にそう答えたあと、『影の支配』を発動して影を動かし、蜘蛛軍団の死体を影の中へと放り込んでいく。
『影の支配』は影の大きさや形を変化させたり位置を移動させる事ができるスキルだ。普通の人にとってはただの外れスキルだが、『迷宮の影』を持つ俺にとってはとてもありがたいスキルである。これで戦いがだいぶ楽になるな。
ちなみに、俺自身が吸収する分の魔物の死体は洞窟に住む魔物達の餌ということにしている。なんでも吸収できるので、調理しても食べられない部位なんかも洞窟に持ってきてもらっている。
まるで生ゴミ処理場だが、食べられない部位からも僅かながら経験値が手に入るためありがたく吸収させてもらっているのだ。背に腹は変えられん。
「凄いですね。冒険者時代に空間系の魔術やスキルは見たことありましたけど、こんなに容量が大きい空間系スキルは見たことないですぜ」
「他の空間スキルや魔術はどんな感じなんだ?」
「カイさんみたいに異空間へ物を収納したり、一度行った場所へ転移する魔術やスキルもありますね。遥か遠くを見通す『千里眼』っていうスキルも、空間系スキルの一種だったはずですぜ。他には、別の場所にある武器や魔物を出現させる『召喚魔術』も空間魔術の一種ですね」
なるほど、空間系の魔術はどれも便利そうだな。
今の俺の行動範囲は、サブ入り口から魔物を出現させて1日以内で戻ってこれる範囲。メイン入り口からだと半径約50㎞ほどだ。
塚原さんの記憶によると、この森は600㎞四方くらいの広さらしい。相当でかい。北海道の面積の4倍以上でかい。
そのため、記憶の通りならダンジョンのある森の中心部から少なくとも300㎞は進まないと森を抜けられないことになる。
森の外には村や街もあるらしいので、転移魔術が使えれば簡単にそこへお出かけできるかもしれないな。
「転移魔術か、是非とも覚えたい」
「いやー、カイさんでも難しいと思いますぜ。転移魔術は超級魔術ですから、才能のある魔術師でも長い年月かけて使えるようになるかどうかって感じらしいですよ。昔住んでた獣人国家にも使える魔術師は何人かいましたけど、最大でも10㎞先への転移で精一杯でしたね」
「マジか……」
習得が難しいだけでなく、転移魔術は燃費がとても悪いらしい。少しの移動でも膨大な魔力が必要なのだそうだ。
「そういえば、カイさんの影は収納だけじゃなくて魔物の召喚もできるんですか?」
「あ、レオンにはまだ見せてなかったか。こんな感じで出せるんだ」
グンソウの収納を中断し、ホーンウルフを出現させて見せた。
「おお!凄いスキルですね。『召喚魔術』を使えるテイマーは一流のテイマーだと聞いたことがあるんで、カイさんは正真正銘一流のテイマーだ」
レオンにそう褒められたが、今の言葉で気になる点がある。
「魔術師じゃなくて、テイマーも召喚魔術を使えるのか?」
「全員ではなく、才能のあるテイマーだけですけどね。召喚魔術は中級魔術なんで転移魔術よりは遥かに簡単らしいですけど、魔術師でも習得できない人が多いみたいですぜ」
なるほど、召喚魔術は簡単か……。ちょっと面白いことができそうだな。
「村の中で召喚魔術が使える人はいるのか?」
「残念ながらいないですね。でも、魔術ならハーフエルフのワンドが使えたはずですぜ。たしか、中級魔術も少しなら使えたはずです」
「ワンド……」
たしか、いつも屋内に引きこもっている丸メガネの少年だったな。
魔術で住人全員分の生活水を作ってくれている少年だ。
姿を何度か見た事はあるが、話した事はないな。
「よし、ワンドに魔術を習ってくる」
「あー、ワンドはちと気難しいんで素直に教えてくれるかわかりませんけど……悪い奴じゃないんで怒らないでやってくださいね」
「怒らないよ。お願いして無理そうなら独学でなんとかしてみるつもりだ」
魔術か、ちょっとワクワクしてきた。せっかくの異世界なんだし、簡単な魔術でもいいから是非とも使えるようになってみたい。
そんな事を考えながらグンソウ達の死体を調理場近くのスペースへと運び、ワンドが居る小屋へとすぐに向かった。
「いやです。僕は忙しいんです」
断られた。ワンドは今忙しいらしい。
「そこを何とか。せめて簡単な魔術だけでも見せてくないか?」
「いやです。僕はこの本の解読に忙しいんです」
見ると、ワンドは自分の体の半分くらいはある大きな本を大切そうに抱えている。
盾かと思った。
「それは、魔術の本か?」
「そうです。僕は早く賢者になって、ハーフの差別されない世界を作るんです。なので申し訳ないですが、あなたに魔術を教える時間はありません」
ハーフの差別されない世界か。凄い目標だ。それは邪魔できないな。
「そうか、邪魔して悪かったな。魔術スクロールの作成は大変そうだけど、勉強頑張ってくれ。何か手伝える事があれば遠慮なく言ってくれな」
「え?」
そのまま小屋から出て行こうとすると、ワンドに服の袖を掴まれた。
「なんで僕が魔術スクロールを作ろうとしているのを知っているんですか?」
「だって、その本の表紙に書いてあるだろ。『魔術スクロール製作の基礎と応用』って」
「!!?」
ワンドが驚愕した表情のまま口を開いた。
「どうしてこの文字が読めるんですか!?これは各国の古代文字を組み合わせた上に、複雑に暗号化して書かれた魔導書なんですよ!?」
「え?」
ワンドにそう言われて初めて気がついた。どうやら、『言葉ノ王』が発動して文字が読めていたらしい。
『言葉ノ王』は本体であるダンジョンのスキルだが、作り出した神人の体もダンジョンの一部のようなものなので本体のスキルの恩恵を受けられるようだ。
「多分、俺の持ってるスキルのおかげだな。どんな言語でも暗号でもすぐに理解できるんだ」
「す、凄いです!!ここは、ここはなんて書いてあるかわかりますか!?」
「えっと……スクロールを描くインクには水銀を混ぜたものを用いるのが一般的だが、砕いた水晶を混ぜる事で魔力の伝導速度が飛躍的に上がる……かな」
「凄い!本当に読めてる!」
その後はワンドに無理やり小屋の中へと引きずりこまれ、ひたすら魔道書の朗読をさせられた。
数時間後、俺が戻らない事を心配したレオナとミーナがワンドの小屋に乱入し、事態が発覚。
ワンドが村のみんなに説教をされそうになったが、俺も魔術スクロールには興味があったのでワンドは無罪放免となった。
「実はこの本には続きがあるんです!こっちには初級と中級魔術のスクロールの術式が載っていて!」
「ワンド、後でちゃんと読んであげるから、今は食事を食べような」
「はい!」
「凄い、あのワンドが懐いてる」
「さすがカイさんなのです」
結局、この日は徹夜で魔導書を朗読させられた。
そういえば、茹でたグンソウは非常に美味しかった。まさにカニだ。殻を出汁にしたスープも絶品だっ。
クロウクローの時もそうだったが、魔物って意外と美味しいんだな。
現実の忙しさから解放されたので、更新再開します!




