14話「ケモミミ少女達」
(体力が持たない……このままだと追いつかれるっ)
背後から迫る大蜘蛛の気配を感じながら、レオナは焦りを感じていた。
このままではミーナ共々大蜘蛛の餌食になってしまう。それならば、どちらか一方の犠牲だけで済むほうがいい。
そう考えたレオナは、走りながらミーナへ呼びかける。
「ミーナ……二手に分かれましょう」
「……うん、わかったのです」
ミーナはレオナの意図を察し、その提案を受け入れた。
このままでは2人とも食べられてしまう。それならば、片方だけでも助かる道を選んだのだ。
「私は右、ミーナは左。行くよ、3、2、1!」
レオナの合図とともに、2人は左右に分かれるようにして走り出した。
大蜘蛛はその様子に一瞬だけ逡巡するも、足の遅いミーナを標的にして走り出す。しかし、そんな大蜘蛛へ向けて一本の剣が背後から投擲された。
「こっちよバカ蜘蛛!」
「キシャ?」
大蜘蛛が即座に振り向くと、剣を投擲したレオナが堂々と目の前に立っていたのである。
直後、振り向いた大蜘蛛の背後から石や木の枝がいくつも投げつけられた。
「ミーナ!?」
「レオナも、なんで逃げないのです!」
石を投げつけた張本人であるミーナは、レオナへ向けてそう叫んだ。
レオナとミーナは自身を囮にして相手を逃がそうと考えていたため、二手に分かれた直後にその場へ立ち止まり、手近な物を投擲して大蜘蛛を引きつけようとしていたのである。
「キシャア!」
「まずい!ミーナ!」
大蜘蛛は再度ミーナへと狙いを定め、牙を突き立てようと迫る。
ミーナにはその牙を避けられるほどの力はなく、蜘蛛を挟んで反対方向にいたレオナにはそれを止める時間がなかった。
「ミーナあぁ!!」
「任せろ」
直後、ボロ布を腰にまとった白髪の少年が大蜘蛛に勢いよく体当たりし、その巨体を数メートルほど吹き飛ばした。
「2人とも俺の後ろに」
「は、はい!」
「はいなのです!」
レオナとミーナはすぐさま少年の後方に身を隠し、その背中を見つめた。
一見すると細身でお世辞にも筋力があるとは思えない体。しかし、大蜘蛛を軽々と吹き飛ばした事実が少年の膂力を物語っていた。
「さて、どう倒そう」
そんな少年の呟きとともに、戦いは始まった。
◇
なんとか間に合って良かった。あと一歩遅かったら、ケモミミ少女達が大変なことになるところだった。
「さて、どう倒そう」
目の前にいる巨大蜘蛛を見やりながらそう呟く。
体当たりした感じだとホーンベアより力は弱いみたいだが、表皮が岩みたいに硬い。蜘蛛というより巨大な蟹だな。
「素手でも砕けそうだけど……今回は剣でいこう。ちょっとやってみたい事もあるし。『迷宮の影』発動」
影の中からゴブリン達が装備しているものと同じボロボロの剣を2本出現させる。
『迷宮の影』はダンジョンと繋がっているため、ダンジョン内の道具を引き出す事ができるのだ。
「キシャア!!」
「うおっ、いきなりか」
巨大蜘蛛がいきなり糸を飛ばしてきた。剣で弾くと金属を叩いたような音が響いた。まるで金属の針だ。
「でも、全然見えるし余裕で防げるな。問題ない」
これは神人の身体能力だけじゃないな、腕を吸収した際に塚原さんの会得している剣術の一部を理解したお陰だ。剣術なんて前世でも使ったことがなかったが、今はなんの違和感もなく手足のように剣を振れる。
「いい感じだ」
針状の糸を躱し、避けきれないものは剣で弾きながら巨大蜘蛛へと接近する。
「おらぁ!」
「キシャ!」
剣はなんとか刺さったが、根元から完全に折れてしまった。
「『道具生成』」
作り出した剣を影から取り出し、再度構える。『道具生成』でいくらでも剣は作れるが、このままではジリ貧だな。
「しかたない、あの魔物を使おう」
昆虫狩りで偶然見つけた小型魔物。その威力を試すのにも充分な相手だ。
「キシャア!!」
「うおっ!力は俺の方が上だけど、体重差で踏ん張りが効かないな」
噛み付こうとしてきた大蜘蛛の牙を剣で抑えるが、長くはもたなそうだ。
「行け、口から体内へ侵入しろ」
だが、少しの時間でも充分だ。命令に従い、俺の影からゾロゾロと出てきた小型魔物達は蜘蛛の口から体内へ侵入していく。
「キシャアアアアアア!?」
異常に気づいた蜘蛛が魔物を吐き出そうとするが、もう遅い。
「弾けろ」
俺の命令に従い、小型魔物達は大蜘蛛の体内で自身を爆散させた。
種族名:ボムアント
種族能:増殖
レベル:1
スキル
『自爆』
ボムアントは体の一部もしくは全身を爆発させるスキル『自爆』を所有する蟻型の小型魔物だ。単体では爆竹程度の威力しかないが、100を越えれば充分な破壊力になる。
種族能の『増殖』は交配の必要なく自身を複製して増えていく能力なので、俺が魔力を消費せずとも勝手に数を増やしてくれる。
「ギジャアアアアアア!!!」
「まだ倒れないのか、しぶといな」
ボムアント千体以上の爆発に耐えたのは驚いたが、むしろ好都合だ。他の技も試せる。
「あれでいくか」
太陽を背にし、巨大蜘蛛の足元と俺の影を重ねる。
「ホーンベア、殴れ」
影からホーンベアの腕だけが出現し、巨大蜘蛛の腹部を殴りつけた。
「ギジャアッ!?」
「この技は使えるな、影からゴブリンに剣で突いてもらうこともできる」
迷宮への帰還や道具の収納だけでなく攻撃にも応用できる。『迷宮の影』、思った以上に応用性の高いスキルだ。
「トドメだ」
ホーンベアの打撃で体勢を崩した隙に剣を頭部へ突き立てると、大蜘蛛は絶命した。
「さてと……」
振り向くと、呆気にとられているケモミミ少女が2人いる。
なんて声をかけよう……女子と話すなんて久しぶり過ぎて何を話せばいいかわからない。
「あ、あの、助けてくれてありがとうございます!」
「ありがとうございますなのです!」
「うん。無事でよかった」
猫耳と兎耳がひょこひょこ動いている。凄い、本物なんだな。
「助けていただいた上にこんなお願いをして申し訳ないのですが、私達の家族も助けてはいただけないでしょうか!」
「お願いしますなのです!」
「家族?」
上空で待機中の鳥部隊に探索してもらうとすぐに見つかった。
2人と同じケモミミを持った者やエルフのような長い耳をした者など、様々な特徴を持った人達が数十匹の蜘蛛の群れと交戦している。
1匹1匹は大型犬くらいの大きさでそれほど強そうではないが、数が多い。ケモミミ達は戦える者が少ないため押されているようだ。
「あの、こっちです。私達の家族も今の蜘蛛の仲間に襲われているんです!」
「助けてくださいなのです!」
「大丈夫、もうすぐそっちは片付くよ」
襲われている場所までの距離はダンジョンのメイン入り口から10km以内だったため、すでにサブ入り口を出現させて魔物達を向かわせている。もう足の速いホーンウルフ達は戦いに入っているようだ。
蜘蛛は剣を持ったゴブリンと同程度の戦闘力のようなので、ホーンウルフやホーンベアもいるこちら側に負ける要素は微塵もない。ケモミミ達は無事だ。
「あっ、ヤバ」
しかし、ケモミミ達からは新たな魔物の群れが合流してきたように見えているようだ。
死を覚悟した戦士達は目の色を変えており、非戦闘員は天に祈りを捧げている。
「早く行こう」
「えっ、はい!」
「こちらなのです!」
これは、説明が大変そうだ。




