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10話「神人(じにん)」




「なんと、同郷の者であったか。儂も日の本から転生したのだ。まさか儂と同じ転生者だったとは、無礼を働いてしまい本当に申し訳ない」

「イエいえ、もう気にしないでくだサイ。タオされた魔物や昆虫はまた作ればいいので、大丈夫デス」


 ゴブリンに意識を接続した俺は、太刀男と和気あいあいとお互いの事情について語り合っていた。

 太刀男の本名は『塚原信綱(つかはら のぶつな)』さんというらしい。なんと、500年前に日本から転生したのだそうだ。『神人(じにん)』という寿命がとてつも長い種族らしく、見た目は初老の男性なのだが実年齢は500歳を超えているらしい。


「儂は転生させてくれた神から『神の聖域』という加護を賜っていてな、儂よりレベルの低い対象からの攻撃は一切受け付けないのだ。だが、儂と同じく神の加護を持つ者からの攻撃は、相手のレベルが低くても防ぎきれん。神の加護を持つ者は非常に少ないが、大抵の場合は転生者でな。お主が儂の手に傷をつけた際に、転生者ではないかと思ったわけだ」


 神の加護?


「スキルやステータスの説明は受けましたケド、カゴがあるとかいう話は神様から聞いてないんですケド……」

「説明をし忘れたのやもしれんな。儂を転生してくださった神は、『とにかく頑張れ!がっはっはっは!』とだけ言って去っていった。スキルやレベルとやらの存在も大分後になってから知ったものだ……」

「ウワぁ、苦労したんでスネ」


 その後も、塚原さんとは夜が明けるまで語り合った。

 俺からの話題は最近の日本の話をし、塚原さんからはこの世界の話やダンジョンに関する話を聞いた。

 この世界には『三大迷宮』と呼ばれる3つの巨大ダンジョンがあり、世界屈指の強さを持つ戦士が束になっても攻略できないほどの迷宮にまで成長しているらしい。

 この事から、ダンジョンはある程度成熟すると破壊する事が出来なくなるため、新たに生まれたダンジョンは早急に破壊する事がこの世界の常識なのだそうだ。


「オレの事は破壊しなくていいんでスカ?」

「うむ、お主のコアを破壊する気はもうない。ダンジョンとは本来、魔物と同じように本能のままに他の生物を喰らおうとする生き物だ。だが、お主には理性がある。それに、お主は最後まで儂のことを殺そうとはしなかっただろう?それが理由だ」


 たしかに、俺は塚原さんを殺す気など全く無かった。毒も麻痺毒と睡眠毒だけしか使わなかったし、ゴブリンやホーンウルフには致命傷は避けて攻撃するよう命じていたのだ。


「おっと、そういえば今回の詫びがまだだったな。ほれ」

「チョっ、塚原サン!?」


 塚原さんが突然、自身の右腕を切り落として差し出してきた。

 あまりに一瞬の出来事で反応できなかった。


「安心せい、神人は再生力が高い。腕の欠損くらいであればすぐに生えてくる」


 見ると、もう既に腕の断面からの出血は止まっている。すごい回復力だ。


「それよりも早くその腕を吸収するといい。その腕には神人の情報と語りきれなかったこの世界の情報を少しだけ記しておいた。きっとお主の役に立つはずだ。お主の迷宮を荒らした詫びとして受け取ってくれ」

「オワび、でスカ」


 人の腕を吸収するのはちょっと抵抗があるが、わざわざ腕を切り落とした塚原さんの厚意を無下にする事はできない。

 それに、こんな貴重な機会はもう無いかもしれないので遠慮なく吸収させてもらった。


「ソレでは遠慮ナク……!!!?」


 500年……塚原さんがこの世界で歩んできた長い年月の情報が、一気に流れ込んできた。

 どういった方法かはわからないが、この世界の基礎知識の一部や俺に役に立ちそうな情報だけを腕に込めてくれたらしい。

 だが、それでも膨大すぎる情報だ。加えて、神人の生体情報や莫大な経験値も流れ込んでくるのがわかる。


「さてと、儂はこれで失礼する。また会おう」


 えっ、塚原さんもう行くんですか?あ、ダメだ、意識を、保てない……。


「ここへ儂がたどり着いたのも、この世界の意思なのやもしれぬな……」

 

 塚原さんが何か言っている気がしたが、俺は急激に襲ってくる睡魔に耐えきれず、そのまま深い眠りについたのだった。





 森の中に2人の少女の姿があった。


「レオナー、待ってなのですー!」

「ミーナ、あなた兎人族の血が混ざってるのに相変わらず遅いわね」

「私が遅いんじゃなくてレオナが早いのです」

「いや、絶対その胸が原因でしょ」


 レオナと呼ばれた猫耳の少女とミーナと呼ばれた兎耳の少女。2人は短剣と皮鎧という軽装を纏いながら、常人を超える速度で森の中を駆けていた。


「やっぱり、この辺は魔物の数が少ない気がするわね」

「すっごく強力な魔物が住み着いているかもしれないのです……」

「そうだとすればマーキングの跡があるはずよ。でも、この辺りには爪痕も匂いも無い……もしかすると、誰の縄張りにもなっていない空白地帯なのかもね」

「それはラッキーなのです。新しい集落の場所として使えるかもなのです!」

「そうね、早く戻って村長に報告しましょう。行くよっ」

「わっ、ちょっと待ってなのです」

 

 2人は周囲を警戒しながら来た道を引き返していった。

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