ゾンビ、家を買う -1-
「昨日、蕁麻疹になったわ」
「へ?」
天ぷら屋でランチを食べていた時に、同僚の平山がそんなことを言う。
「何か変なものでも食べたんじゃない?」
僕がそう聞くと、平山は腕の辺りをポリポリと掻いた。
「まだ痒いねん、実は」
「そっか」
僕は天ぷらうどんをズルズルと啜った。
もう少し麺が固い方が、僕好みなんだけどねぇ・
「いやいや、もしかして今ので会話終わったんちゃう?」
平山が少しオーバーなリアクションで、僕の関心を引こうとしている。
「いや、だって人の蕁麻疹に興味ないよ」
「いや、でも心配してほしいのよ。昨日とか痒くて眠れなかったんだから」
「そっか……大変だったな。出来れば代わってやりたいよ」
ここのエビの天ぷらは汁を吸っても衣が剥がれたりしない。何がテクニックでもあるんだろうか?
「そうか、お前は俺の話よりもエビの天ぷらが気になるってことだな」
「まあ、蕁麻疹よりは、エビかな。って思ってる」
畜生、誰か心配してくれぇ。平山がいつもより大分遅いペースで天丼を食べている。
そこで、少し違和感を感じた。
平山の左の上腕がスーツの下でもぞもぞと生き物のように動いた気がしたのだ。
僕は暫く平山の左腕を観察していたが、それ以降動くことは無かった。
あれ、気のせいかな?
「なんだよ、人のことをじろじろと見て。俺に恋でもしているのか?」
「してたら、平山の蕁麻疹にも、もっと興味をもってるさ」
それもそうかと言いながら、平山は腕をまたポリポリと掻いている。
ゾンビ、家を買う -1- 終