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終幕−やんごとなき家柄のご令嬢は真の武人を目指す−

闘士武勲伝 最終章 一節

闘士の武勲は語り継がねばならない。

いわんや、語り継がれる者こそ真の闘士である。

 その後の話を少しだけしよう。


 師匠ことハガード・ミズリジルは、ナイーダ・フィナ・カーレンの私兵団を鍛え上げたあとは、辺境に道場を開いた。

 そこで後進の育成をしながら余生を過ごし――百歳で大往生となった。晩年も己の武を磨き続け、強くなり続けた様は尊敬に値する。


 エンデローグ・オズ・ディガルシャは、ディガルシャ国内で反旗を翻し王位をさん奪した。彼は皇帝の位を名乗り、ディガルシャ帝国の支配者として君臨したが――わずか二年後、外遊中に暗殺され、帝政は終焉を迎えたのだった。

 しかしながら帝政時代に様々な改革を推し進め、ディガルシャ国躍進の礎を築いたと再評価されてもいる。

 あの立ち合いから二度と会うことがなかったのは、彼なりのけじめだったのかもしれない。


 ハールウェン・ドルタニカ・アレイン――ハルは、家業を継いだ。アレイン家の若き当主として、交易路をさらに拡大した。今や大陸に知らぬ者無しの大商人である。といっても、身分上はオル=ウェルク国貴族であるのは変わらない。

 今でも文通はしているし、年に少なくとも一度は会っている。私の親友であることは今も変わっていない。


 クロサンドラ・ルカ・フィリスは、舞台役者として大成した。今はハルの出資した劇団の花形役者である。表情の乏しさはどこへやら、舞台上では華やかな演技を魅せている。

 一方で武術家としても高名で、公演先の強者と手合わせをしているらしい。彼女もまた、私の好敵手であることは変わらない。同じ道を歩む以上、またどこかで道が交わることだろう。


 ジュディス・カリーナーことジュディス先生は、今も学園の教師を続けている。ちなみにまだ独身だ。最近は教え子に次々と子供が出来ていて、焦りというよりは達観しているらしい。

 母であるナイーダ・フィナ・カーレンとは個人的な面識が出来て、ちょくちょく会っているらしい。私兵団の中に良い人がいれば、紹介して差し上げればいいのに、と思う。


 ディング・サウラは、傭兵稼業を辞めた。今は何年かに一度は著作を発表して、その度に業界からはひんしゅくを買っているとのことだ。

 とはいえ、彼もまたライアス・ブラウンと同じように筆をもって闘士の武勲を語り継ごうという者だ。漂泊の歴史研究家として、各地を旅して周っているのだった。


 セルバン・ガリア・メイスーンは、学園を卒業後オル=ウェルク騎士団に入団。めきめきと頭角を現し、最終的には騎士団長にまでのぼり詰めた。年齢からすれば異例の大抜擢である。

 オル=ウェルク国内でも五指に入る武人として、周辺諸国にまでその武名を轟かせている。師匠の言うとおり、ひとかどの武人になったのであった。


 そして私、ミナスティリアは――


◆ ◆ ◆


 晴天はどこまでも抜けるようで、白い月が見える。彼方に広がるのは、火を吹く山脈である。


「ほら、ジュリア。あれがロアルナ国の火山ですよ」

「すごい! おかあさま、あそこにいくのですか?」

「ええ、そうですよ」


 船は帆を張り、海風が心地良い。私は膝の上に娘――ジュリアを乗せて、異国の風景をしっかりと見せてやった。


「ったく、なんで俺がこんなことを」

「あら、調査に行くのだから丁度いいではありませんか」

「俺は仕事に行くんだよ!」


 舵を取りながら、ディングがぶつくさと文句を言う。私はジュリアと顔を合わせて、


「いじわるな叔父さまですねー、ジュリア」

「ねー」


 と、頬を膨らませた。


「いい歳して何してんだか」

「久しぶりに組手でもしましょうか」

「……勘弁してくれ」


 ひとしきり笑うと、船室に目を向ける。


「まったく、せっかくの船旅なのにどうして船酔いなんか」

「おとうさま、おこす?」

「……いいえ、そっとしておきましょう」


 私はジュリアを膝からおろすと、大きく伸びをした。それにしてもいい天気で、こんな日は身体を動かすに限る。


「そういえば……この前立ち合った武人の技は、船の上で編み出されたと言っていましたね」


 脳裏にその動きを思い浮かべながら、ゆっくりと再現する。なるほど、不安定な足場でも充分な威力を出せるよう考えられていることがよく分かる。


「お嬢様――いや、奥方様も飽きないな。あんたこの期に及んで何を目指してんだ」

「闘士武勲伝 第二章 十節」

「じこをたかめることに、げんかいはなく……」

「遅すぎるということもない」


 ジュリアと顔を合わせ、また笑う。


「よく言えましたね、ジュリア。偉いですよ」

「おかあさま、わたしも“しんのぶじん”に、なれますか?」

「なれますとも。たゆまぬ努力を続け、己を高め続けることが出来れば」


 そう、限界など無いのだ。

 私が目指したのは、そしてこれからも目指し続けるのは――真の武人である。


やんごとなき家柄のご令嬢は真の武人を目指す・完

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