表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/57

1-8.そうして本気を出した

闘士武勲伝 第十五章 一節

守るべきを守る、それこそが闘士の本懐なり

 相手の数は、首謀者のセルバンを含め四人。

 それぞれが武器として、二尺三寸程度の長さの棒を持っている。

 にやにやと、下卑た薄笑いを浮かべてこちらを伺っていた。

 まったく、吐き気がする。

 対するこちらは、私とハルの素手二人だった。ハルに戦うことは出来ないので、実質は四対一だ。

 しかも、私はハルを守りながら戦わなければならない。

 そのことの重さに、思わず冷や汗が流れた。


「流石に顔色が悪いようだなぁ?」


 セルバンが嘲笑する。三人の後ろに控えて、高みの見物というわけだ。

 一対一の稽古なら、それこそ数え切れないくらいしてきたが、多人数相手の戦いは初めてだった。


「化けの皮、剥いでやるよ」

「……私の言ったことを、覚えていますか」


 セルバンの表情が、苛立ちに歪んだ。


「決して許さないと、そう言いましたね?」

「それが、何だって言うんだよ!」


 そう、私自身に多人数の立ち合い経験は無い。

 しかしこの身に宿るジェイル王子の記憶は、それこそ百戦錬磨である。


「手加減は出来ませんよ」


 出来る事なら、無用な戦いはしたくなかった。

 戦いを避けられるものなら避けたい、そう考えていた。

 しかし、大切な友人を守らなければならない。

 最早、私に迷いは無かった。


「この期に及んで……!! やれ!! 目にもの見せてやる!!」


 セルバンが指示を飛ばし、武器を持った三人が散開する。

 私はハルを背中にまわし、三人を見やりながら少しばかり距離を取った。


「ハル、少しだけ離れていて」

「だ、大丈夫なの……?」


 声を震わせるハルに、私は背中で答えた。


「いつでもどうぞ」


 武器を持った三人は、お互いに目を合わした。

 私は自然体で立っている状態だ。しかし意識の上では腰を落とし、いつでも動くことが出来る。

 観察するに、三人は素人同然だった。

 そして全員が同じ長さの武器を持ってしまっている。そのことが、この場合は私に有利に働くのだ。


「だらぁ!」


 焦れた一人が右手に持った棒を振りかぶり、私に向かってくる。

 素人が武器――棒を持って人を襲う場合、動きは限定される。

 それは振り回す、ということだ。

 そうすると、同士討ちを避けるために初動は間違いなく一人からになる。

 よほど集団戦闘に手馴れた者たちでない限り、同時攻撃はあり得ないのだ。

 そして、私の目の前にいる三人は連携というものを知らない者だ。


「~~ッッッ!?」


 棒が振り下ろされる前に、それより速く私は間合いを詰め、右手で相手の金的を叩いた。

 左腕は“相手の右腕”を受けている。

 股間を押さえてうずくまった相手から棒を奪い取り、私は残る二人を見据えた。

 眼前で起きたことを、まだ理解しきれていないのだろう。

 すたすたと私は無造作に歩いて、右側の一人と間合いを詰めた。


「て、てめぇ!」


 右側の一人が、棒を振りかぶる。

 しかしそれは、私が近付いたことで“振らせた”攻撃だ。

 先ほどの一人から奪い取った棒を、私は相手の顔に向かって投げつけた。


「おわっ!?」


 判断力を失い、やみくもに棒を振り回す。

 しかしそんなものは、冷静に距離を取れば当たらない。


「ちょ、まっ!?」


 すかさず、油断していたであろう左側の一人に飛び掛かり、下腹部に左前蹴りを突き刺した。

 足指の付け根あたりが深々とめり込み、腰から崩れ落ちるように相手は倒れる。


「え、おい……」


 棒を投げられて怯んだ隙に、仲間がやられていた。

 この事実が右側の一人に与えた衝撃は、大きかったようだ。


「貴方もやりますか?」

「う、うわぁあぁ!」


 恐怖からか、無茶苦茶に棒を振り回してくる。

 私は一歩距離を取り、棒が袈裟に振り下ろされた瞬間を見計らって、相手の右腕を押さえるように間合いを詰めた。


「うぶっ」


 間合いを詰めるということは、短打を叩きこむということだ。

 相手の右腕を、己の右手で“体に押し付けるように”押さえ込む。

 右腕を押さえたことでガラ空きとなった脇腹へ、同時に左拳をめり込ませた。


「な、なんだよこれ……」


 あっという間に眼前で三人を打ち倒した私を見て、セルバンは呆然と立ち尽くしていた。


「もう一度言います」


 うめき声を足元に転がし、私は改めてセルバンと対峙する。


「私は貴方を、決して許しません」

「上から……上から、見下しやがって!! カーレン家め!!」


 泣き顔にも似た表情で、振り上げられた武器。

 しかしそれは振り下ろされることなく、私の右掌底がセルバンの顎を打ち上げた。


「つ……強すぎ」


 振り返ると、腰を抜かして座り込んだハルが畏怖ともつかない目で私を見ていた。


「大丈夫だった? どこも怪我していない?」

「ワタシは大丈夫だけどさ……」


 ハルの言わんとすることは分かっていた。

 正直なところ、私も手加減無しで打ったため彼らがどうなってしまったのか判断しかねるのだ。

 

「死にはしない、と思う」

「いやいやいやいや」


 セルバンは意識を刈り取られて伸びていたが、他の三人は三者三葉に文字通り“手痛い”攻撃を加えている。


「医務室へ行って、治療を受けなさい。別に他言しても構いませんが、これに懲りたら真面目に生きることです」


 ひとりひとりを助け起こし、私は少しきつめに言い含めた。

 三人とも、化物でも見るかのような目を向けて酷く怯えていたのには少しばかり傷つく。


「さて、と」


 気持ちよさそうに寝ているセルバンを見て、私は思案した。

 この男だけは許せそうにないが、どうしてくれようか。


「あ、そうだ」


 と、私の頭に一つの妙案が浮かぶ。


「……え、それ本当に?」


 私の思い付きに、ハルは苦笑いを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ