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第19話 地球へ(2)最終話

「その物語、聞いたことがあるよ」

 突然、後ろで声がして驚いて振り返る。カナメが立っていた。

「帰ってきたんですか?」

 カナメもニシキギも小惑星帯に行くことが多くて、ナンディーに戻ってからカナメには全く会っていなかった。

「うん、帰ってきた」

 カナメはにっこり笑う。

「さっきの物語をどこで聞いたんですか?」

 ハルにも「星の王子さま」という物語があるんだろうか?

「アグニシティのエリアEで、君を根っこに包み込んでいた苗木が語ってた。あの後、キツネと王子さまは別れたんだね」

「王子さまは旅をしていたから……」

 瑞樹は微笑む。私の記憶だったのかと気が抜ける。

「旅か、いいね。僕も暇になったら旅に出ようかな」

 カナメはのんびりと微笑んだ。

「こんなところまで旅してきたのにまた旅に出たいんですか?」

 瑞樹は呆れてカナメを見上げる。

「ああ! そうか。旅って言えば旅だね。でも僕にとっては敗走だったから……」

 カナメは苦笑する。


「カナメは……地球には行かないの?」

 一番訊きたい事だった。

「そうだね……当分は行かないと思うな」

「どうして? 当分ってどれくらい?」

 胸が締め付けられるように苦しかった。瑞樹は掠れた声で問いかける。

「さあ、どれくらいか分からない。他にやることがいっぱいあるからね」

 カナメは小さく笑う。

 瑞樹は動揺する。もう会えないかもしれないんだ。だってカナメの当分なんてどれくらいかわかるわけがない、この人は気が遠くなるほどの長い時間を生きてきた人なのだということを、瑞樹はディモルフォセカの記憶で、今は知っていた。


「ああ、そうだ、これムラサキから預かった。君に渡してほしいって」

 きれいな包み紙に包まれたその中には色とりどりのキャンディーが入っていた。瑞樹は目を見張る。

「君は知らないと思うけど、ムラサキ先生は生徒を割りと甘やかす方でね、課題とかテストでいい成績をとると、そのキャンディーをこっそりくれるんだ」

 知っていた、その話をハルで……同じ声で同じセリフで同じ人から……聞いた。瑞樹は胸が一杯になる。

「それは……つまり、私が課題をクリアしたということ?」

「クリアしたというか、そもそも簡単にクリアなんてできない問題だったというか……」

 カナメは言葉を濁した。さっきのムラサキを思い出す。


「カナメ、これを瑞樹に渡してもらえますか?」

 ムラサキはご褒美のキャンディーをカナメに託した。

「こういうものは自分で渡した方がいいのではないですか?」

 カナメは肩を竦める。

「私では無理なのです。私は人の心を分析することはできますが、人の心を開くことはできません。これはあなたにお願いします。そして瑞樹は難しい課題によく立ち向かったと私が言っていたと伝えてください」

「あなたは瑞樹の心を開いたと思いますよ」

 そうでなければ、瑞樹はニシキギを投げ飛ばしなどしなかっただろう。カナメの言葉にムラサキは肩を竦めて小さく微笑んだ。

「それは私の前任のムラサキがやったことです。私には、ムラサキ055号が機能停止直後に発信したメッセージを理解することができませんでした」

「メッセージとは?」

「瑞樹を利用したくないというメッセージでした」

 カナメは目を見開く。

 目的を達成する為には人間でも利用する、ハルのエクソダスプログラムにおいて、それはかなり高度な強制力を持つ命令のはずで……。それをアンドロイドが拒否するということは普通ならばありえない。

「そんなムラサキ055でさえ、あなたの心を開くことはできませんでした。私たちの声は、あなたに届いていないようでした。それなのに瑞樹の救いを求める声はあなたに届きました。だからこそ、あなたは、彼女の為に立ち上がったのではなかったですか?」

 ムラサキは静かな眼差しでカナメの瞳を覗き込んだ。

 カナメは居心地悪そうに眼をそらす。

「瑞樹は問題を解決したのですか?」

 カナメはムラサキを見つめた。

「この問題は、当然、一人の人間に解決できるものではなかったのです。彼女は単なる足がかりに過ぎませんでした。でも結局、我々は彼女を利用することなくプランEを終了し、プランFに強制移行することに決定しました。これから起こるであろう混乱から生じる怒りの矛先を我々は甘んじて受ける覚悟です」

 ムラサキはカナメを穏やかな眼差しで見上げた。

「正確には、あなたと彼女を引き金にするはずだったのです。でもそれをハルが止めました。そんなことにあなたたちを利用してはいけないと警告する為に、あれは現われたのかもしれませんね」

 ムラサキは複雑な表情で微笑んだ。

「なんのことですか?」

 カナメはさっぱりわからないという顔で問い返す。

「ディモルフォセカ・オーランティアカとディモルフォセカ・グラブラが同一人物だと通報したのは私であり、メインコンピューターナンディーであったのです」

 カナメは瞠目する。

「ミズキ・ヒュウガを無理やりこの船に招いたのも我々です。彼女が包含しているものに私たちはすぐに気が付きました。驚愕しました。こんな言葉を、私に当てはめてもいいのか判断がつきかねますが、それ以外に表現ができない感覚でした。これは天の配剤だと、プランFへの移行のきっかけであると、そう思いました」

「プランFってなんなんです?」

「我々の管理の終りです。これからは、あなたたち人間が判断して未来を切り開き、自分たちで自らを導くのです。私たちはあなたたちをハルから脱出させ、新天地に定着させる為に作られたプログラムでした。プログラムはここで終わりです。ここからは、すべての判断を人間に委ね、我々はサポートに回ります。我々を利用するもよし、排除するもよし。我々はできるなら穏便に利用されることを望んで瑞樹を巻き込んだのです。我々には我々自身を守るためのプログラムも組み込まれていましたから……」

「それと瑞樹がなんの関係があるんです?」

「私たちは、あなたたち人間をエクソダスの為に利用してきました。用途は異なっていたとはいえ、それは森の民にしても、ファームの民にしても、もちろん一般人にしてもそれは同様だったのです。あなたも再生される度に荒んだ目をするようになっていましたっけね」

 ムラサキは淡く笑んで続けた。

「ハル脱出の為に、私たちは三つの種族の間に明確な線引きを行いました。効率よく脱出するためだけの線引きだったのです。扱いの違いから、それぞれの種族間には偏見もわだかまりも差別もあることを承知しています。プログラムが終了するということはこの線引きも消滅するということです。制度としてそれが消えても、それぞれの心の中にできたであろう溝を埋めることは容易たやすいことではないでしょう。これからどうするのか、人間たちで考えてもらうつもりでした。一番虐げられてきたと感じている種族が反乱を起こすかもしれないし、いきなり三種族が和解するかもしれないし、三種族の間の溝がさらに深まることもあるかもしれないと予測しています。厳しく線引きを取り締まる立場にあった我々に、怒りの矛先が向かうことも当然予測されていました。ですから、あなたたちの婚姻はもっとも良い議論の対象であると判断したのです、穏便に線引きを解除する為の。あなたはファームの民とも心をつないでいましたしね。あなたのように森の民とファームの民と一般人が共に手を携えて生きていくことは良いことだ、少なくとも悪くはないと思ってもらう為の議論が展開されることを我々は期待したのです」


「……やはり、ディモルフォセカが森の民だと知っていたんですね」

 カナメは憮然と呟く。

「トウキ001が森の民の力を検出し、その力を効率的にコントロールできる機能を持っていたことは知っていますか?」

 ムラサキの言葉にカナメは目を見開く。

「いや……」

 トウキ001は、かつてカナメの友人だったアイリスの世話係のアンドロイドだった。アイリスを死なせたアンドロイド。苦い気持ちでカナメは黙り込む。

「トウキ001だけが持っている特殊機能なのです。あれはその他にも色々な機能を持っているのです。メインコンピュータでさえ開くことのできないファイルがあるようですし。すべて、彼がアール・ダーで獲得した機能なのでしょう」

 その特殊能力を授けたのはアイリスだったのかもしれないと、カナメは思いついて切なくなる。

 アイリスはトウキを愛していた。トウキはアイリスのことをどんな風に考えて……いや、認識していたのだろうか? 人間の感情を察知することはできても、アンドロイドに、トウキには感情がないはずだ。

「……ならば、何故……」

 その先を訊くのは不毛だと悟る。聞かずと知れたこと、要は利用するためなのだ。何もかも。アイリスにしてもディモルフォセカにしても瑞樹にしても、当然、僕にしても。

「議論の……対象ですか……」

 カナメの心の中に、やり場のない鈍い怒りが湧き上がっているのをムラサキは察知して苦笑する。

「私たちはただのプログラムに過ぎません。そんな風にあなたが心良く思わないということを推測できても、任務の遂行の為にはやらざるを得ないのです。許してください」

 ムラサキの謝罪を驚いたように聞いて、カナメは一つの時代が終わりを告げたのだということを実感した。

 ハルを脱出する、その目的だけの為に多くの者が犠牲となり、多くのことが大きな力によって本来あるべき姿からたわめられてきたのだという事実を、カナメはひどく重く感じていた。


 ゆがみから生じる諸々の、これから起こるであろうことを考えると、のんびり旅を楽しめるようになるまでには、まだまだ時間がかかりそうだとカナメは苦く笑う。


 瑞樹は小さな紫色のキャンディーを一つ口に入れた。それはとても良い香りがして、口の中で雪のようにふわりと溶けた。後に残る切ないくらいの甘い味……。泣きそうになるのをぐっと堪えた。

 この人に、私はなんと言えばいいんだろうか。あなたの奥さんの記憶を持っています……。そんなことを言ってどうするの? 記憶は記憶に過ぎない、私はどこまでいっても私だ。例えこの人をどんなに恋しく感じたとしても。

 気分を変える為に発見して嬉しかったことを口にする。

「私、いいこと気づいちゃったんだー、私の家の隣に住んでる正樹ってお兄ちゃんがいるんだけどね」

「ああ、一度、君の記憶の中で見たことがあるよ」

 カナメは微笑んだ。

「正樹ちゃんて、イブキに似てるなーって」

 嬉しそうに言った瑞樹の言葉に、しかしカナメは凍りついた。

「今……なんて?」

「へ? だからイブキに似てる……」

 瑞樹ははっとして口を押さえる。日向瑞樹がイブキを知っているワケガナイ、瑞樹はうろたえる。

「記憶は完全に戻ったと言ってたよね」

 カナメは瑞樹の手首を捕まえた。

「……戻りましたよ、完全に……」

 瑞樹は観念して呟く。

「どこから? いつの記憶から戻ってる?」

 カナメは言ってから、はっと気づく。アグニシティから戻るシャトルの中でニシキギが訊いたことと同じだ。ニシキギは気付いていた?

「初めて……アール・ダーのオーランティアカの家に着いたところから……」

「……そこで君は何をしていた?」

 カナメは喘ぐように問う。

「泣いてた……ずっと泣いていたら、アリッサムが部屋に入ってきて、なんで泣いてるのかと訊いた。私はパパとママがいなくなったって言った。そうしたらアリッサムは私を階下に連れて行ってくれて……そこにはオーランティアカのパパとママがいた……」

 アリッサムはディモルフォセカの姉だ、アール・ダーでの。

「もういい、わかったから! わかったから……」

 カナメは瑞樹を抱きしめた。

 カナメはディモルフォセカのその記憶をハルの地下都市で見たことがあった。ディモルフォセカの記憶を瑞樹が一人称で語ったことに愕然とする。

「どうしてすぐに言わなかったの?」

「言ったらどうなるの? ディムの記憶か瑞樹の記憶かを消すの?」

 カナメは抱きしめた腕に力を入れる。

「嫌だったの、どちらが消えるのも嫌だったから……」

 だから二つの惑星を抱きしめたまま生きていこうと決めた。

「人は……その人がその人であるいうことを確認する時、何で判断するんだろう、顔? 性格? やっぱり記憶も入るよね。だったら、私は日向瑞樹でもディモルフォセカでもない、別の誰かってことになるのかな?」

 瑞樹は俯いた。ディモルフォセカの顔を持ち、日向瑞樹とディモルフォセカの記憶を持つ自分、これは一体誰なのか、これが私の混乱だった。

「こんなに混乱したままで地球に帰るつもりだったの?」

 カナメは腕を解き、瑞樹の瞳を見つめて静かに訊いた。

「……私は、理由を知りたかった」

 木々の梢を見上げながら瑞樹は言った。

「理由?」

「物心ついたときからずっと思ってた、私のこのどうしようもない人生は、きっと何か理由があって、こんな風なのに違いがないって。理由が知りたかった。そしてここに来て、ハルとディモルフォセカをここに届けるのがその理由だったのかもしれないって思った。そしたら、今のこの状況はどうしてなんだろうって、また理由が知りたくなった。星の王子さまみたいに、実際に苦労して探して回らなければ真実は見つけることが出来ないのかもしれないって思った。だから私は地球に戻るんじゃなくて、地球に行くの……」

 瑞樹はカナメを見上げた。

 私の記憶の中で、この人は最愛の配偶者だった。森の民で、地下都市のことなんか何も知らない、何が安全なことなのか危険なことなのかも区別できないほど無知な私を、常に抱きしめて守ってくれた。この人と費やした時間は、甘やかで切なくて息苦しくなる。

「……そうか、君がそう言うんならそうなんだろう……ね」

 しばらく切なげに瑞樹を見つめていたカナメは何かを振り切るようにそう言って、瑞樹の額にそっと口づけた。

「でも瑞樹、忘れないで、僕はいつも君と居るよ。どんなに離れていても君の傍にいるから。僕たちは出会った。ハルの闇の中で、エリアEの光の中で……。どんなに時を場所を隔てても、また僕は君に会うよ、きっとね」

 まるで解けない魔法にかかっているみたいだと瑞樹は思う。なんという甘やかな魔法。




*   *   *




「本当にあのまま行かせちまったのか?」

 ニシキギが呆れたようにカナメに問う。

「うん」

 カナメは小型シャトルを改造して大質量を運べるピギーバックを取り付けるのに苦心していた。

「よく分からんな、あんたたちは」

「別に分かってもらおうと思ってないけど……」

 ガガガガという音とともに火花が散る。

「あいつはトロいから、事故に遭うかもしれんぞ。地球は事故が多いらしいからな」

「それはどこにいたっておんなじだろ?」

 むしろこれからのハルの方が事件は多いかもしれないと、カナメは心の中で溜息をつく。

「両親に自分の娘だと気づいてもらえなくて、その辺で行倒れるかもしれないじゃないか」

「何とかなるだろう」

 瑞樹の国は比較的安定している国だ。行倒れることはないだろうと思って帰らせた。

「それに、すぐに誰かのものになっちまうかもしれないぞ? 割とかわいいし……」

 ニシキギは言ってから何故か咳払いをした。

「それを瑞樹が望むなら構わないよ。幸せになればいい」

 カナメは手を止める気配さえない。ニシキギは舌打ちをした。

「あんたは心配じゃないのか?」

「おんなじ太陽系の中にいるんだよ。僕の掌にいるようなもんじゃないか」

 言い放ったカナメにニシキギは盛大に顔を顰めた。

「俺は、あんたのそういう神様気取りなところが大嫌いなんだ」

「ねぇ、君も金星に行かないか?」

 ニシキギの悪態を意に介さずカナメは問う。

「金星?」

 ニシキギは低く唸る。

「この前、小惑星帯からマンガン鉱をたくさん確保してきたって言ただろ、あれをこれに積み込んで、金星にぶつけるんだ。太陽から近いから光を遮るようなフローティングシティも造るといいんだが、アオギリが地球に攫われて行っちゃったからなぁ。でもまぁ、なんとかなるとは思うんだ」

「何の話をしてる?」

 ニシキギは眉間にしわを寄せる。

「無論、テラフォーミングの話だけど?」

 カナメは不思議そうな顔で答える。

「金星をテラフォーミングなんて一体どれだけ時間がかかると思ってるんだ? おい、金星に行くんなら、あんたがあいつを地球に連れて行けば良かったじゃないか。そうすれば、こんなに慌ただしく帰らなくても良かったのに……」

「そんなことアーマルターシュが認めないに決まってるだろ。それに時間はたくさんあるんだ、金星を千年くらいでなんとかしてみせようか、賭けるか?」

カナメは楽しそうにニシキギを見つめた。

「俺も金星に行く。途中で地球へ寄ってくれ。俺があいつの様子を見て来る。行倒れてたら回収してくる」

「じゃあ、金星行き決まりだね」

 カナメは破顔した。

 そろそろ瑞樹が乗った船は月に近づくころだろう。カナメは地球がある方角に向かって目を細めた。


 ――ディム、僕は未来へ行くよ。君との約束を守るために。君が見れなかった明日の光を見るために……。



*   *   *



「月だぁ、月だよねあれ」

 瑞樹は船窓に張り付いて叫ぶ。

「瑞樹、こっちのテキストはもう見たの?」

 地球上にあるあらゆる国の歴史や政府や体制や地理や民族のテキストを、地球に着くまでに頭に入れろと大脳コンタクトで勉強させられていた。大脳コンタクトを使うと確かによく頭に入るし効率はいいんだけど……疲れる、ひたすら疲れる。

 月の隣に見えている青い地球をぼんやりと眺める。

「やっぱ、きれいだよ……ね」

 地球への思慕、ハルへの愛惜、二つの感情の波が押し寄せる。


「瑞樹、EU原加盟国と現加盟国を答えなさい」

 アーマルターシュの目が鋭く光る。

「えっと……原加盟国は…ドイツ、フランス、イタリア、オランダ……えっと、えっと」

 答えに詰まる瑞樹に、アーマルターシュのガミガミ声が降ってくる。アオギリがアーマルターシュを、まあまあ、となだめている声がぼんやりした頭に入って来る。


 アーマルターシュを見ていると、以前叔母が言っていたアニメを思い出す。叔母が子供のころに夢中で見ていたというアニメ。

 地球が放射能に汚染されて、それをきれいにするための機械をとりにくるようにと言われて、宇宙船で旅に出るというお話。その機械の名前は「コスモクリーナー」。

 英語で言われるとなんだか凄いものを取りに行くんだなって思ったのよ、当時はね、と叔母は言った。『宇宙掃除機』なんて日本語にしたら、なーんだって思うよねー。叔母のむくれた表情がかわいかった。大人なのにって。

 たぶん、私もコスモクリーナーを持って帰ってるんだと思う。


 アーマルターシュはカナメから分解再生装置をごっそり送ってもらう約束を取り付けていて、地球上のゴミと言うゴミを引き受けて……当然引き受けるからには料金を取るつもりらしい。格安でらしいけど。そしてそのゴミは分解されて地下都市を造る材料になるらしい。資材に腐心する必要がないかもしれないとホクホクしながら計算機を叩いていた。


 なら、料金取るなよって気がするな。怖いから何も言わないけど。


 コスモクリーナーと、口は悪いけどメチャメチャ美人の掃除婦を連れて帰ります。地球のみなさん待っててくださいね。瑞樹は青い地球を眺めながら小さく呟いた。




*   *   * 



すべての生物は設計図を抱いている。その複雑極まりない設計図を変化へんげさせながら命は未来に紡がれてゆく。何故か。その理由を探すために、生きて、生きて……命をその先の未来に運んでゆくのだろう。行き着いた先には何があるのだろう、絶滅か、無限に拡大していく未来か、光か、闇か。

神様の水槽……なのかもしれない。ゆったりと回る青い地球を楽しそうに、あるいは憂いながら神々が覗き込む。彼らは決して手を下さない。見守るだけだ。だからこそ、生きとし生けるものは、すべて等しく自らを救って生きていくしかないのだろう。それぞれの真実に辿り着くために


 宙の船 流転の岸(了)


最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。 招夏(拝)

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