お役所
翼は、事務所で寝ていた。
すると吉田さんが、事務所へ入って来るなり叫ぶ。
「て、店長!!あの人が!あの人が!!」
その叫び声で、翼は起立しようとしたが、足がグニッとなり、椅子から転げ落ちる。
「い、痛い…え?あの人?って誰?」
「い、良いから!早く!」
そう言って、転がってる翼の手を引いて、引きずりながら、事務所を出ようとする吉田さん。
(す、すげぇ腕力!)
自らのチカラで、立ち上がった翼は、店の外に居た。
「な、何やってんだよ!あんた!!」
「あら、母さんに向かってアンタとは何?はい、これ…お弁当よ。ちゃんと栄養とってるの?顔色、悪いわよ?」
(テメェが昨日、俺をモスラにしたからだろーが!!)
そこには白いワンピースを着て、しっかりと化粧をし、涼しげに笑う律子。と、美月とジョージが居た。
「おべんとー!」
「きゃわん!」
(か、かわいい…って、な、何なんだよ…オバハン何か、企んでやがるのか…?)
とりあえず弁当を受け取る翼。
「な、何しに来たんですか?」
「え?お弁当、届けに来ただけよ?」
(絶対ウソだ!ぜええええっとぅあいに嘘!!騙されねぇぞ!!!)
そう言って、手を掴まれないよう両手を後ろに回す翼。
「ふふふ…だって印象が良くないと、この子たち、うちの養子に来ないじゃない、きゃはっ!」
(…キツイ)
「だから諦めろって!美月は俺の子だし、ジョージは俺の子犬だ!」
「分かってるわよ…そんなの。でもね、何だか、この子達、少し変なのよ…」
(1番変なのはアンタだけどなっ!!)
「昔の事…ていうか、母親の事は覚えて無いって言うし、あなたの事も知らないオジサンだ、って言うの…」
「う、そ、それは…」
(俺にも分からん…)
「ご近所さんにも聞いたんだけど、この子の母親、あ、あなたの奥さんね。2年前に、亡くなったんですってね。そのせいかしら?何か…精神的なショックで…あなた、気づいてなかったの?」
(あ、そういう事だったのか…うっ、あ、あんなに明るく振る舞ってたのに、こ、心の中では…そ、そんな…くぅぅっ!な、泣ける!!)
「み、美月!そうなのか?!ど、どうなんだ?!パパにお話してくれるか?美月の、本当の気持ちを…」
美月はキョトンとした表情から、笑顔になり、
「おべんとー!」
「きゃわん!」
と言っただけだった。
(あ、こりゃ違うな。俺の子だもん。アホなんだよきっと)
それを見た律子が、突然泣き出す。
「み、美月ちゃん…こんな男の為に、そこまで…」
(なんなの、あんたがセラピー受けた方が良いって…)
その時だった。
「り、律子!またここに…探したんだぞ!!」
「あ、オジサン~。こっちこっち!早くこの人持って帰ってぇ~」
翼は一気に笑顔となり、忠義に向かって手を振る。
それを見た忠義は、翼に向かって急いで走って来る。
そして、忠義は翼を殴った。
「…ぶふぉっ!!!」
そう言って翼は、吹っ飛び倒れる。
「あ、あなた!?何するの!」
「律子!こんな男の何処が良いんだ!俺とコイツ!どっちを取るかハッキリしろよ!!」
忠義は激怒していた。
(あー、はいはいはい。面倒臭いのが、もう1匹来ましたよ。はいはいはい。分かりますよ。この奥さんの旦那さんだもんねぇ。そりゃ普通の人じゃないよねぇ…誤算!!!)
よろよろと起き上がる翼。
美月とジョージが寄って来る。
「パパ…大丈夫?」
「きゃうん…」
そう言って、殴られた箇所を撫でてくれる。
(か、かわいい…)
「いたいの、いたいの、飛んでけー!」
「きゃわーん!」
回避不能、エリアルコンボであった。
(し、死ぬ。キュン死するぅっ!)
しかし、その視界の奥には地獄が広がっていた。
「ご近所で噂になってたぞ!お前が、若い男の家に出入りしてるってな!!」
(い、いや、ご近所さん…どんだけ話盛るのよ…)
「あ、あのぉ…僕と、その人は、無関係です…」
そして忠義は、もう一度、翼を殴る。
「…フンボッフ!」
せっかく起き上がった翼は、また倒れる。
「貴様っ!我が嫁を、遊びだったと申すのか?!」
(…もう嫌…起きたくない。ツッコミたくない…)
「いたいの、いたいの、飛んでけー!」
「きゃうんきゃうん!」
翼のHPとMPはフル回復した。
(そ、そうだ。ここでちゃんと話し合えば、このオバサンから解放される!諦めるな翼!希望の光は見えてるぞ!!)
「あ、あのですね…」
と、言った時だった。
人だかりが出来てる事に気付く翼。
「とりあえず…中、入りましょう…」
3人は、事務所へ居た。
ジョージを連れている美月は、外で吉田さんが見てくれていた。
2人でパピコを食べている。
そして事務所の前では、山下くんが聞き耳をたてていた。
「えー、では、これから話し合いを開始します。よろしくお願いします。私、馬一 翼と申します」
「私は、$:;…”-忠義だ。許さんぞ、貴様!」
(その、貴様ってやつなんなの、あと許して、もう…)
「私は、、^:”…律子です。私は美月ちゃんのおばあちゃんです」
(うん、違うよね?)
「えー、それじゃ、まず誤解を解きましょう。僕と律子さんは、無関係、昨日が初対面です」
そう言うと、忠義はいきなり立ち上がり、叫ぶ。
「まだ、そんな事を!お前は打首だ!!」
「や、やめて!彼は悪く無いのよ!悪いのは私よ…私が…彼の…」
(その言い方だと、余計に話がややこしくなるだろーが!ちゃんと詳しく話せよ!kwsk!!!)
その時だった。
事務所の扉が開き、山下くんが顔を出す。
「声、抑えて下さい」
そして事務所の扉が閉まる。
忠義は座り直す。
「一体これはどーゆー事なんだ律子!こないだまで、ヤケクソの様に叫んでたと思ったら、次は男か?!」
「いや、別にこの男はどーでもいいんだけどぉ、美月ちゃんとジョージがねぇ」
「ああ、さっき居た女の子と子犬か、それがどうした」
「可愛いのぉ!」
(このオバサン、初めてまともな事言ったな。同意!)
「いや、それは分かるが、ま、まさか?!お前とコイツの子供じゃないだろうな!!!」
忠義はまた、勢い良く立ち上がり叫ぶ。
「…声」
と、だけ言って山下くんは扉を締める。
忠義は、また座りなおす。
(ねぇ、山下くんが、話してくれない?)
「私の…子供じゃないの。孫よ…」
「ま、孫ぉ?!;:、-”の隠し子かなんかか?!あ、アイツ…やるじゃん…へへ」
(…)
「だから、2人で、育てて行きましょう…あなた…」
「そうだな。それは育てるしか無いな…」
(コイツもアホだったあああああああっ!!!!)
「待て待て待てえい!!!美月は俺のむ・す・め!!俺の子じゃあいっ!!」
2人は立ち上がる翼を眺めている。
「店長…」
山下くんからの注意だった。
翼は座り直す。
これまでの、経緯を忠義に話す翼。
「そうかぁ…そんな事が…じゃ、孫で決定だな。いやぁ…嬉しい、うっ…うう…」
「もう、ほんと涙脆いんだから、これだから嫌ねぇ、はい、ハンカチ。…-;、:もそう思うでしょぉ?」
と、言われた翼も。
と、言った律子も。
固まっている。
「い、いやぁだぁ!あたしったら!あはは!」
「もう、君!ウチの養子になりなさい!」
「は?」
「だって美月ちゃんが孫なんだったら、君は息子だろ?」
「は?いや、まぁ、そうだけど…」
「さ、さっそく市役所へ行こう!!」
「そうね!(私はこの男はどうでもいいけど)」
「ねぇ、今なんかボソッと言いましたよね?」
「だいたい、君が律子の息子になるって提案したんだろ?なんで君がいやがるんだ?」
「…う」
(し、しまったぁ!!あの場を切り抜ける為に言ったのが間違いだったぁ!!オウンゴール決めてたぁ!!!)
そして、三人は市役所へ行き。
晴れて家族となった。
(ねぇ、なんで役所も止めないの?)
「さぁ、翼!私をお父さんと呼びなさい!」
「美月ちゃん!今日の晩御飯なに食べようかぁ?!」
そして、みんなは帰宅する為に翼の前を歩いて行く。
その風景を見て翼の目からは、何故か涙が零れていた。
「ま、いいか…」
そう言って翼も、みんなの元へ歩き出していた。
(てか、俺…全然働いてねええええええええっ!!!!!)