味噌汁
みんなは朝食を食べていた。
「おいしぃ~!」
「きゃわーん!」
「ふふふ…そうでしょう~?やっぱり孫に必要なのは栄養と愛よね~」
「あの~僕のは?」
美月と、ジョージ、そして律子が和やかに朝食を食べている。
翼はまだ身体を縛られていた。
昨日、律子が美月とジョージを連れて、出て行った後だった。
疲れて眠っていた翼を、振動が襲う。
「わああああああっ!!地震だ!地震んんんんんんっ、ん?」
目の前には泣いている律子がいた。
リビングは明るい。
律子の後ろに、美月とジョージがいた。
(え?!な、なに?このババァ戻って来てるじゃん!!?)
「ちょっと!聞いてよ!ウチの主人たら!」
律子は自分の家に、美月とジョージを連れて帰った。
「たっだいまぁ~!」
律子はとても明るかった。
その声を聞いた律子の旦那、忠義は妙に明るい声の律子を、不思議に思ったが、帰って来た安堵感が先行した。
「ど、何処に行っていたんだ!また人様に迷惑を…い?!」
忠義は驚愕した。
やるやる、とは思っていたが、まさか少女と犬を、誘拐して来るとは、と。
「な、なんなんだ…その子と犬は…」
「私たち!孫が出来たのよ!きゃはっ!あと、この犬は勝手に着いて来たわ」
忠義は困惑した。その年齢の「きゃはっ!」は無理があると。そして妻の脳みそが、遂にイカれたと思った。
「…、;|:が居なくなった今!この子たちを…私たちで、育てるしか…ないわね…」
突然、雰囲気を作ってくる妻、律子。
いつもの事だった。
忠義は、無視して言い放つ。
「うちでは育てられません!早く元の場所へ返して来なさい!!それに…”;:^は彼女すら居ないニートだったろ!!」
それから翼の家へと、引き返して来たのである。
「とか言うのよォ!!酷いでしょ?!あの人に、人の心なんて無いのよ…ふふ、私って…馬鹿な女よね…あんな男、シャボン玉よ…」
翼はもう、理解するのを止めた。
それから律子は、美月とジョージを連れて、翼の寝室へ行き。
「今日は、おばあちゃんと一緒に寝ましょうねぇ…うわ!この部屋、くさっ!」
と、言い扉を閉めた。
(え、えーと…オバハンは良いとして…み、美月とジョージは、何でなにも言わないの?)
そして朝が来て、みんなは朝食を食べている。
「あの…だから、俺の分は…?てか、縄をほどいてよ…み、美月ちゃん?パパの縄をほどいて?」
美月は、チラッと翼を見て。
「おいしぃー!」
と叫んだ。
だけだった。
(子育ての方針、間違えたかな…少し素直すぎる…)
「いやいやいや!美月!解きなさい!パパ!こんなになってるでしょ?!おかしいでしょ?!パパのゴハンの方がおいしぃでしょでしょ?!?!」
「んー、同じような味がする…から、どっちもおいしぃー!」
(まだ、味覚が発達してないのかな…あ、昨日の夜、なんも食ってねぇんじゃねぇか?だからかぁ…ごめんな、美月。パパが縛られてさえなけりゃ、ゴハン!食べさせてあげれたのにな!!)
「だから、ほどいて縄を!!!」
「ちょっと、うるさいわよ…そこのモスラの幼虫みたいなの」
(糸吐いてやろーか!このババァ!!シャー!シャー!!)
「ちょっと、マジでほどかないつもりか?俺をどうする気なんだよ…?」
「え?このまま放置しとけば餓死して、この子達が、うちの養子になるんじゃないかと思って…」
(コイツ、ミザリーの生まれ変わりなんじゃねぇの?!サイコパスだ!サイコパス!!)
「なんちゃって…ちゃんと作ってあるわよ。さ、食べて…」
そして翼の前に置かれたのは、アツアツの味噌汁だけだった。
(た、試されている…お、俺は今、試されてるんだ…。今、ここでっ!どうボケるかを…っ!!)
「って、なんでやねん!!!」
関東生まれの翼は、この時、初めて関西弁でツッコミを入れた。
しかし、喉もカラカラ、お腹も空いた翼は、ふーふーして、その味噌汁を猫のように、舌で器用に掬い、口の中へと入れた。
その時だった。
翼の脳みそが突然、熱くなり、出汁が何なのか、分かるようになったのだった。
「カツオと昆布!!」
「…ファイナルアンサー?」
「…オーディエンス、使います…美月!この味噌汁の出汁は?!」
「おいしぃー!」
(ふふ…)
「さ、これで答えは出たわね?ファイナルアンサー?」
「…ファイナルアンサー…」
「…」
「…」
「…」
「正解っ!!」
「イッエーーーイ!!!やったぞー美月!ジョージ!パパやったぞー!!」
(何これ…)
翼の心の中は冷静だった。
すると律子が、翼の縄を解き始める。
(ん?な、なんだ急に…どした?)
「正解したし、縄を解いてあげるわ…」
(な、なんで?!全然わかんない、全然わかんない。逆に怖い。解かないで、そんな理由で縄とかないでー!)
しかし時間を見ると、コンビニへ出勤する時間ギリギリだった。
「わ!やべぇ!もう、こんな時間だ!」
「だから、早めに用意しなさいって、いつも言ってるでしょ?」
(いや、言ってねぇよ!)
そう思いながら、翼は家を飛び出て、コンビニへと走る。
(…あ、美月たち、大丈夫かな…)
しかし何故か翼は、それほど心配にはならず、コンビニへと走る。
その道すがら、また花束が置かれている場所を通る。
(ま、あのオバサンも…人の子って事だよな…)
翼はコンビニへと到着する。
「おはよう、ございます…」
山下くんが、こちらを見て驚いている。
翼の頭はボサボサ、頬は腫れ、半袖シャツの手首や腕には、縄の後が着いてたからである。
「…て、店長…そんな趣味が…」
吉田さんは、悲しそうな顔をして、翼を見ている。
その時、奥から野村さんが出て来る。
「あ、店長来たんですかぁ?おはよ…」
事務所から出て来る、野村さんへ、吉田さんは猛ダッシュし、野村さんの目を手で隠す。
「ノムッチ!見ちゃダメよ!は、早く事務所へ入ってください!店長!!」
「うーん、そうかぁ…そーゆー方向も…」
山下くんは、そう呟きながら、レジカウンターの中へと入って行く。
(え?ええー?!何?!なんなのーぉー!!!)
そう言って翼は、事務所へ入るなり、灰色の机に、突っ伏して寝るのだった。