1人サライ
縛られている美月は、気絶していた。大人しい。寝ている様にも見える。
ジョージは、美月の横で丸まり小さく
「きゃううん…」
と言っている。
「な、何、してるんですか…あなた…」
「あら、ダメでしょ?小さな子を1人で家に置いてちゃ…危ないじゃない…」
(え、ええ、ごもっともですけど…)
「あの、何を、してるんですか?」
「見てわからない?見守ってるの。もうあんな悲劇を繰り返さない為に。もし、この子が死んだら、あなたも同じ事、するんじゃないかしら?」
(いや、しねーよ…ん?まぁ…分かんねぇけど)
「俺はそんな事しない!」
「あら?偉く強気じゃない。周りに人が居ないと、強気になるタイプ?あなた、モテない君ね」
「うるせぇ!これでも結婚して子供もいんだよ!」
(…多分)
そう言って、美月の元へと走り、抱きかかえようとする翼。
その後ろから、何か硬いもので殴られ、気絶する翼。
(え…このオバサン…マ…ジ…?)
気づくと翼は、全身をロープで縛られ、口をテープで塞がれていた。
(うわ!なんだこれ…う、動けん…あ!み、美月は?!みつ…)
見ると隣に、縛られている。まだ意識は戻っていない。
(あ…起きたら、なんか殴られた場所が、時間差で痛くなって来るやつだ…いて、いてて、頭の後ろ痛い…あのババァ…ぜってぇ許さんぞ。てか、暗っ!なんで電気切ってんの?!雰囲気?雰囲気作り?)
すると寝転がされている、翼の目の前に足が現れる。
「起きたの?ダメじゃない。そんなのじゃ、娘さん…守れないわよ?」
(もうううう!ほんとにいやあああああっ!!助けて!誰か!!誰か助けて!!あ!ジョージ!!ジョージ!行け!噛み付け!そして俺の縄を噛み切れ!!)
ジョージは寝ていた。
(こんのアホ犬うううううっ!!!あ、子犬のジョージじゃ、どっちみち無理か…)
「ねぇ、あなた?娘を守る気あるの?私の息子は、こんな風になった、あなたの娘を守ったのよ…ねぇ?息子を返して?”-、;^を返してよ」
(どんなけ~!!もう訳分からん!…寝よ)
そして翼は、寝たフリをする。
「起きなさいよ!!」
そう言って、翼を平手打ちする。
「ふごーーー!ふごふごふごごっ!!」
(わーーー!何すんだこのババァ!!てか、口のテープ取れよ!喋れねぇだろ!!)
そして、おもむろに口のテープを一気に剥がす。
「痛ええええっ!!!一気に剥がすなよ!!」
「あら?息子の痛みは、こんなものじゃ無かったはずだわ…」
(このオバサン、サスペンスドラマの見過ぎじゃねぇのか?…ん?待てよ…コイツ…分かったぞ!)
「あんた…自分に酔ってるだけだろ…」
「は?何よ、それ…」
「奥さん、あなた…嘘をついていますね?」
「え?」
「この状況を、楽しんでいる、違いますか?」
「これの何処が楽しんでるのよ!!私の気持ちも知らないくせに!なんなのアナタは!!」
「いや、お気持ちは分かります。でもね、やり過ぎなんですよ。何もかも。そうやって注目を浴びる事で、自分の寂しさを紛らわせてる。そうじゃあないんですくぁっ!!奥さん!!!」
「わ、私は…そんな…」
「家に居ても、1人。旦那は帰りが遅い。日中ヒマ人。何となく家事をする気も起こらない。外にでも行くか。あら、可愛い子犬と、めっちゃくちゃ可愛いウチの娘いるじゃない!今日はコイツがターゲットよ!!!ですよね!!!」
「…そんな事、ないわよ…」
(適当に喋ってみたけど、イケる、イケるぞ俺!頑張れ俺!!ここでシュートだ!逆転ホームランだ!!)
「いいですか…寂しいのは、分かります…でもね。やり過ぎです。悲しむのは息子さんも喜んでいるでしょう。愛されていたんだな。と。でもね、周りに迷惑をかけちゃあダメなんですよ!!家庭の事情は家庭で解決してくださいね!!!奥さん!!!」
「…そ、それは…」
(フフフ…どうだ、参ったかクソババァ。ほら、改心しろ。そして俺の縄を解け。ぶん殴ってやるからぬぁ!!!)
「そ、それでも!私は諦めきれないの!息子が!}:|―、;の事が!!!」
(…諦めろよ…たくっ…めんどくせえなぁ…)
「あのね、今日、ウチのコンビニの前で、その…」
(名前、なんだっけ…まぁいいや)
「息子さんの友達と思わしき人達が、みんなを集めて、あんたを励まそうって相談してたんですよ?いいんですか?大事な息子さんの友達まで、困らせて…」
「そ、そんな事が…でも、私、息子のが…大切で…」
そう言って、律子は泣き出した。
(はっはーん、ザマァ!泣かしたったぜー!ザマァ!ザマァ!)
ここで翼は、ある事を思いつく。
「私の、息子を…返してください。お願いします…」
「分かりました。奥さん。僕が…あなたの息子になりまああああああす!!!」
「は?」
「やっぱり息子を亡くしたのなら、息子で補充すべきでしょ?」
「は?」
「いやぁ、良かったですね?おばあちゃんですよ?おばあちゃん!」
「私の…孫…」
そう言って、優しい顔をして美月の方を見る律子。
(え、飲み込み早っ…)
「どうですか?!奥さん!!いや!おかあさん!!!僕ですよ!!!翼です!!!」
「あなたは…いいわ…」
「え?」
「あなた何歳?」
「35です」
「息子と同じ歳ね…」
(え、息子ってそんな歳だったの?!もっと若いと思ってた!)
「お、同じぃ歳ならぁいいじゃぁないのぉ…」
「ダメよぉ~ダメダメぇ~」
(ちくしょう!なんだ、このババァ!ノリがいいじゃねぇか!!)
「この女の子、名前はなんて言うの?」
「美月です。可愛いでしょ?」
「可愛いわぁ…すやすや寝ちゃって。よしっ!決めた!私、この子のおばあちゃんになる!!さっ、行きましょ。美月ちゃん…」
そう言って、律子は美月の縄を解き、テープをゆ~~~~っくりと外す。
「ごめんねぇ、痛かったかしらぁ?おーよしよし」
そう言って、美月の頭を撫でながら、抱きかかえて、部屋を出て行った。
そしてジョージも目を覚まし、後を着いて行く。
― 空間 ―
「あら、スーパーパゥワァ使わないまま、何とかなりましたね。ゼウス様っ」
「…あ、ああ…ん、んー…?」
「私、少し見直しました。翼さんの事。あら?」
小さなテレビの様なものに、翼の様子が映っている。
そして翼の頭に出てる数字が、5になっていた。
「レベルアップしてますね!一気に5になってる!ちょっと強めのモンスターを倒したみたいに」
(コイツに、ここ、任せてて大丈夫かな…ワシ、少し心配…)
― 虹之町 ―
翼は自室で1人、ジタバタ動いていたが…疲れて、そのまま眠ってしまった。
「人…さらい…バ…バァ…」