トンネル
朝の何気ない会話から、始めます。
「なぁ、美月。ジョージの散歩って行ってるのか?」
「ううん。まだ行ってないー」
「いや、今日じゃなくて…」
「昨日も行ってないー」
「へぇ、ジョージ散歩したいか?」
「きゃわん!」
「したいってよ」
「じゃ!するー!」
(かんわいー)
そんな会話をした、その日の昼過ぎだった。美月が、翼の働くコンビニへ来たのは。
(えーっと…これが、ここで…ここがこーで、これが…ここ?あれ?こっちかな?ん?あれ?あー?)
翼が、みんなに任せていた、パソコンの処理を、暇な自分が引き受けると言い、何だかんだで、翼はやっていた。
(ダメだ。わからん。山下くんに教えてもらおうかな…でも…)
そう言って、店内を除く翼。
(みんな、忙しそーだなぁ…)
すると吉田さんというスタッフが、こちらに向かって来ている。
(ん?事務所に用事かな?なんだろ?)
「店長、美月ちゃんが、ジョージちゃんを連れて来てますよ!」
「え?!」
翼は慌てて、店の外に出る。
(美月、美月は…あ、居た!)
コンビニの駐車場の奥に、木が植えてあり、その下に居る。そして、隣には見知らぬオバサンが居た。
俺は、ゆっくり歩きながら、何を話しているのか聞き耳をたてる。
「あら、お嬢ちゃん、子犬と散歩かしら?1人なの?」
「うん!」
「へぇ、1人だと危ないから、すぐにおウチへ帰りなさいね」
「でもパパ待ってるから」
「きゃわん!きゃわん!」
ジョージが、こちらを見て吠えている。
翼は、その女性に挨拶をする。
「あ、どうも。こんにち…」
「何考えてるのよ!!アンタ!!!」
「ええ!?」
「こんな子供1人で歩かせて!!!しかも犬と一緒に!!!」
(犬は別にいいだろ…てか、なんだこのオバサン…めっちゃ怒ってる。コンビニって、変な人、多いもんな…)
「こんなのが居るから!!:Ж→|↑<…は…」
(ん?今なんて…)
「今、なんて言ったの?オバちゃん?」
(あ、良かった、美月にも聞こえてないみたい。噛んだのかな…。とりあえず、そっとしとこ…)
「美月、こっちおいで…」
「待ちなさいよ!その子を家に届けるまで、見届けるわ!!」
(え…怖…なんなの、このオバサン…)
「ほら!早くしなさいよ!!」
そう言って見知らぬ女性は、翼の手を掴んで来る。
「ちょ…やめてください」
そう言って翼は、掴まれた手を離す為に、手を軽くふる。
すると女性の手は、翼の腕から離される。
そして次の瞬間、女性は倒れる。
(…え!な、なに?!)
「殴られたわああああっ!!!この人に殴られましたぁぁぁっ!!!誰か!誰か助けてえええええっ!!!この小さい子供と犬を連れた男よおおおおおっ!!!」
それはコンビニの中まで、聞こえていたらしい。
山下くんと、吉田さんが、外に飛び出して来る。
中に居たお客さんも、外に居る人も見ている。
「ええ!ちょ!な、なんなんだよ!あんた!!殴ってなんかないだろ?!」
吉田さんが、走って来て、美月とジョージを抱え、どこかへ走って行く。
そして山下くんが、翼に耳打ちする。
(この人、犬の散歩とか、小さな子供見ると、その親に絡むんすよ。相手しないでください…)
(え?!そなの…ど、どうしよう?)
(とりあえず、家に避難しててください)
(ええ?!)
その間も、女性は倒れたまま、叫び続けていた。
翼は、とりあえず、その場を山下くんに任せて、家へと猛ダッシュする。
するとマンションの下に、吉田さんが居た。泣いている美月の頭を撫でてくれていた。
「よ、吉田さん!ありがとう!俺、知らなくて…」
「え?!し、知らなかったんですか?!こないだ店長、警察に連れてかれたのに?!」
「えええっ!!!なんで!!!」
「お客さんが、あんな感じで絡まれてて、見に行った店長が参考人として、連れてかれてましたよ」
(それ、連れてかれたって言うの?)
「それで、その時は、な、何だったの?」
「うちの店の近くで、事故あったの知ってますよね?男の人が、子犬と少女を何からか、良く分からないんですけど…守ってあげて。でも、3人とも亡くなったらしいんですよ。その男の人の、お母さんらしくて…って、これ店長から聞いた話なんですけど…」
(そーいや、なんか、こないだも…そんな話を…)
「そ、そうなんだ。とりあえず、ありがとう。あ!お茶でも飲んでく?」
「いえ!私は勤務中なので戻ります!野村さん1人に、任せて出て来ちゃったし…それでは!」
そう言って吉田さんは、走って行ってしまった。
(あの子…コンビニじゃなくて、警察官とかになった方が良いんじゃないか…)
「お~よしよし!怖かったなぁ美月!俺も怖かったよぉ~だから泣かないで~ぇ~」
「きゃうん…」
そんな事を言いながら、エレベーターを待ってた時だった。
エレベーターに、男の人が乗っていた。
(あ、誰か乗ってる…)
ドアが開くと、こちらをチラッと見て、走ってエントランスを出て行く。
(どうしたんだろ…)
翼たちは、部屋のソファに座って、パピコを黙って啜っていた。
ジョージは、下で水を飲んでいる。
「ああああああ!!!俺!!店長だった!!!!何みんなに任せて和んでるんだよ!!!!美月!絶対、家に居ろよ!絶対だからな!絶対、家に居るんだぞ!!あ、これ、振りとかじゃなくてマジなやつな!!」
「ちゅー…ふり、ってなぁに?」
「きゃうん?」
美月は、意外と呑気していた。
ジョージもだった。
(フッ…子供って…)
「んじゃ!ちゃんと、お留守番しててな!!鍵!閉めといて!」
そう言って、パピコ片手に家を飛び出して行く翼。
(ちょっと時間経ったし、もう落ち着いてるかな…?)
そんな事を考えながら走っていると、いつも見る、花束の場所へと辿り着く。
(ここか…)
そんな事を思って
コンビニまで戻ると、人は増えていた。
しかも警察まで居る。
「律子!何やってんだ!やめないか!」
(ん、あの人…どっかで…)
翼は、先程エレベーターですれ違った人物を思い出す。
(あ!あの急いでた人だ!ってか…どーなってんの、これ…営業妨害なんですけど…)
「;$:、―/^!!!!;”^:-、!!!!」
(な、なんか叫んでる…聞き取れないな…)
「やめなさい!もう>”;-、:は帰って来ないんだ!もう…」
先程の急いでいた男も、泣き出す。
(な、何なの…)
「あ、店長!美月ちゃん、大丈夫でしたか?」
「あ、うん。ありがとう山下くん。ところで、これ…」
「あの人の旦那さんみたいです。誰かが警察呼んだみたいで…なんか大事に…」
「なるほど、分かった!」
(ここはビシィッ!っと店長として…)
「あ!アイツだわ!アイツが私を殴ったんです!忠義!おまわりさん!」
「えええ!殴ってないだろ!そっちが手を握って来たんじゃないか!!」
そしてコンビニの前は、静かになった。
翼はよろよろとしながら、コンビニへ帰って来る。
「あ!店長!大丈夫でしたか?」
「え…あ、あれ?みんなまだ居たの?!」
山下くんと、吉田さん野村さんは、バイトが終わってる時間なのに、私服で待っててくれていたみたいだった。
みんな事務所に集まっている。
レジには、田所くんと、ロッシーちゃんが居た。翼が事務所へ向かう途中、2人とも心配してくれたが、疲れていて手で挨拶しただけだった。
「それで、どうでしたか?」
吉田さんが翼に聞いた。
「ん、いや…やっぱり1週間前の事故以来、あんな感じで、なんだか何回も警察のお世話になってるみたい…」
「うちでも2回目ですもんね。あの人…店長と同じマンションらしいですよ?」
「えええっ!!!嘘でしょ?!あ…」
その時、エレベーターの事を思い出す。
(だから旦那さんが、うちの…)
「それにしたって、やり過ぎじゃないか?あんな…」
その時、急に野村さんが立ち上がり、狭い事務所を動き回りながら、喋り出す。
「何を言ってるんですか!店長!!私には分かります!母親の子への愛!愛する我が子を失った悲しみにより、ダークサイドへ落ちて行ってしまう、そして阿鼻叫喚するんですよ!!!しかし…夫の愛により…その悲しみを乗り越えた2人は、汽車に乗って…トンネルを抜けると…そこは、雪国だった…」
(な、なんなの、この子…)
「ノ、ノムッチ落ち着いて!」
野村さんを吉田さんが、なだめている。
「はーい、よーしよしよしよし、よーしよしよし…」
「ふにゃふにゃ…」
翼と、山下くんは、それを見なかった事にした。
「確かに、俺も気持ちは分かりますけど、あんな風にされると…」
「同情ってよりも、どーじよー?って感じだよな!」
みんなの白い目が、翼を突き刺す。
「カ…かいっかん♡」
みんなの目が、ハテナに変わる。
「対策を練らないと、なぁ…このままじゃ、美月も危なそうだし…」
翼は悩む。
この間から、翼は考えていた。
「まぁ、店長が無事に帰って来て良かったです。お疲れ様でした」
「店長も早く帰ってあげてくださいね」
「ああ…くわばら、くわばら…」
(だから、なんなの、この子…)
そして翼は、事務所を出る。
帰り際、田所くんと、ロッシーちゃんに挨拶をした時だった。
店の前に、昨日の男女が居る事に気づく。
(あ、昨日の…今日は泣いてないけど…なんか…)
店を出る翼。
「^、-=;のお母さん、今日もだって…」
「みたいだな…」
「私たちで、何とか出来ないかな?美久とか、誠とかも呼んで…みんなで、なんか…」
(あ!分かった、この子達…友達なのか…今日、母親の息子の…)
そう思って、また翼は家へと帰る。
― 空間 ―
「だ、大丈夫かしら…翼さん…ちゃんと美月ちゃんの事、守れるかしら…スーパーパゥワァが、何だか全然発動してないけれど…かしら…」
「アルテア…少し、かしら。が多いぞ…」
「ゼ、ゼウス様っ?!何故ここに…」
(げ!?も、もしかして私の査定に来たんじゃ…)
「ん、少し用事があってな…」
(嘘よ!嘘!絶対、私を査定しに来たんだわ!騙されない、アルテアっぜーったいに騙されないんだからっ!!)
「…アルテア…」
「…はい、なんでございましょう…」
「聞こえてる」
「え?」
「ワシ、お前の上位ってか、全知全能のだから、聞こえてる」
「きききいいいあえええええ!!!!」
― 虹之町 ―
翼はマンションの自室の扉を開ける。
リビングの電気がついてる事に、ホッとする。
「ただいま~美月~」
「おかえりなさい」
「きゃううん」
リビングには、昼間の女性と、縛られ口にガムテープを貼られた、美月が居た。