2日目
翼とその家族は、朝食をとっていた。
「美味しいよ、パパ」
「そうだろぉ?えへへ」
「きゃわーん」
微笑ましい、幸せな朝だった。
「それじゃ行って来るな。いい子でお留守番してるんだぞー。ジョージの散歩行く時は、ちゃんと家に鍵かけてな。あと、昼メシはテーブルに置いてる。あとお菓子も。あとガスは触らないこと。えーと、あとーあとー…」
「分かってるよ!美月おりこうさんなのよ!行ってらっしゃいパパー!」
「きゃわわーん」
翼は、迷っていた。
子育てについてと、あんな小さな子を毎日、家に残して仕事へ行っていたんだろうか。と。
(うーん。なんかいい方法ねぇかなぁ…心配だぜぇ…やっぱ、帰ろうかな。あと、この時間に行って合ってんだろーな。シフト表に出勤時間が書いてたけど…)
翼が、見たシフト表には
店長 11:00~20:00 永遠に。
と書かれていた。
(俺、どんな奴だったんだよ…)
しかし翼は、何故か親近感があった。
店に行くとロッシーちゃんは、もう居なかった。
(あの子は確か…20:00~5:00だっけ、大変だな…)
「おはよぉ、みんなぁ」
少し落ち着いた店内へ入り、翼は働いているスタッフに挨拶をする。
「お、おはようございます…」
「おはようございます」
(ん?なんだ?俺、なんか変な格好してる?まぁ、ネクタイは締めて来なかったけど…まぁ、いいや)
そう言って、事務室へ入るも。
(な、何しよう…)
そう思い、資料や、ノートなどをペラペラと捲る翼。
この時、不思議な事が起こった。
突然、翼の脳みそが熱くなり、読んでいる内容がどんどん頭に入って来る様になったのだった。
(分かる…!分かるぞ、コイツ!!)
そして、10分で事務処理を終えた翼は、暇を持て余していた。
翼の処理能力で、10分なのでは無く。
する事が少なすぎて、10分で終わってしまったのだ。
(俺…前まで、ここで何してたんだろ…)
そうこうしてると、スタッフの1人が事務所へ入って来る。
そして入るなり。
「え!店長起きてる!」
(いやいや、来てまだ30分だよ?流石の俺でも寝ないって…)
「ど、どうしたんですか?体調不良ですか?」
(うん。逆だよね?それ、逆だよね?)
名札を見ると《山下》と書いてる。
(山下くんか)
「ねぇ、山下くん。前までの俺って、どんなだったの?」
「え?あー、そのぉ…た、大変、自由な活動をなされ、えー、スタッフを信頼し、全てを任せ、えーと、あー、良かったです!!」
(…完全に気を使っている。一気に脇汗ビッショリじゃないか!?山下くぅん!!)
「あ…なるほど。来たら適当に仕事して、居眠りして、他は全部スタッフ任せだったのね…まぁ、それはそれで良かった…と」
「え、ま、まぁ…そんなとこ、かな?」
(認めちゃったよ!)
翼は、休憩に来た山下くんに不審がられるも、少し話しをして、店長としての自分を再認識する。
(うーん、俺って…)
「それにしても…店長、大丈夫ですか?なんか、前とは…」
「前とは?」
「いえ、なんでも無いです。あ、美月ちゃん、元気ですか?ジョージくんも」
「あ、ああ。元気だよ。今も家で…」
(だ、大丈夫かな…)
思い出し、突然、心配になる翼。
(ご、ごはん、ちゃんと食べてるかな?な、なんかお菓子とか届けた方が…あ!米か?!米かな?いや、服?遊び道具?1人で寂しくないかな?ジョージの餌は?か、金!金は?!)
翼は、娘が都会に出て行った田舎の父と同じ心境だった。
家まで徒歩10分である。
「だ、大丈夫ですか?僕ら店長のおかげで、この店の事、だいたい出来ますんで、帰っても大丈夫ですよ?」
(俺の居る意味っ!!)
「い、いや、大丈夫だよ。ありがとう、山下くん」
「あの、奥さん亡くなられてから元気無かったので、僕ら心配してたんですよ…でも、元気になって良かったです!」
(えええええっ!!!ショッキングぅ!!そ、そーなの?!そんな事とは梅雨知らず!俺のバカ!俺のバカ!もっとこう…「ハハハ…大丈夫、空で僕らを見守ってくれてるさ…」とかいうキャラにしとくべきだったの?!てか、それで、みんな辞めなかったんだ!めっちゃいい子じゃん!山下くん!山下くぅぅぅぅん…!!)
「ハハハ…大丈夫、空で僕らを見守ってくれてるさ…」
翼は、役に入り込むタイプだった。
「あ、なんかすいません。戻りますね」
(腫れ物触らず!!社会スキル、合格!!)
とりあえず翼は、寝る事にした。
「おはようございまーす!」
休憩室に入って来るなり、大声で挨拶するロッシー。
その声に驚き、翼は飛び起き、直立不動になる。
「…あ、ロッシーちゃんか」
そう言って、翼はまた椅子に腰掛ける。
また着替えをする、ロッシーは、カーテンから顔を出し
「店長、覗かない出下さいよ!」
と笑顔で舌を出している。
(あ、これ、ロッシーちゃんの持ちネタだったんだ…)
着替えを終えたロッシーが、出て来る。
「ロッシーちゃん、いつも夜勤、ご苦労…」
翼は、特に考える事もなく、ロッシーに声をかける。
するとロッシーは
「店長、なんか変わりましたね」
そう言われて、翼の心は、何か揺さぶられる様な気持ちになる。
「え…?」
「あとは任せて、今日も帰っていいですよ!来た時、寝てて少し安心しました!」
(いや、だから…それ…)
しかし美月達の事を思い出し、翼はすぐ帰宅する事にする。
店を出ると、店の前に置いてあるベンチに男女2人が座っていた。
女性の方は泣いている。
(お?痴情のもつれって奴かぁ?!やれやれだぜ…)
すると女性の方が前にしゃがみ、顔に手をあてて、大きな声で泣き出す。
(うわ!ビックリした!女を泣かすんじゃないよぉ、ほら、慰めて慰めて…)
「なんで、なんで死んじゃったのよ!$>/”Ж!!!」
(え?今、なんて言ったの?)
すると隣の男が、女性の肩を抱き、慰める。
「仕方ないじゃないか…▶;}/$は、女の子と子犬を助けて…うっ…」
男性の方も、少し涙ぐんでいる。
(へぇ、そんな事があったのか。偉いな、その…その…名前、なんだっけ?)
あまり観察するのも悪いと思った翼は、帰宅する事にする。
そして帰り道、またあの花束が置いてある場所を、通りかかる。
(花が…新しくなってるな…)
それだけの感想を残して、その場を去った。
家に帰る翼。
ドアを開けると、美月とジョージが待っていた。
「おかえりなさい!パパ!」
「きゃわん!」
翼は美月を抱きかかえ。
「ただいま」
と、答えた。