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僕はみんなの傍に居たい。  作者: 一ノ元健茶樓
4/14

家族

 その狭い部屋を、キョロキョロと見渡し、自分の服を見る翼。


(これって、コンビニの服だな。HISONの…ここ、コンビニの事務所か…)


 そう思い、自分の名札を見る翼。


 《店長 馬一》


(え?!て、店長なの?!俺!?イッエーイ!店長始めて、イッエーイ!)


 その時、急に後ろのドアが開く。

 驚く翼。


「店長!おはようございます!」


 とても可愛い子だった。しかし、髪はボサボサとしている。顔立ちが日本人ぽくは無い。


 その子は、簡易の更衣室の様な場所で、カーテンを閉めて、着替えを始める。


 しばらくして、カーテンの中から顔だけ出して。


「覗かないで下さいよ」


 と、舌を出して翼に微笑みかける。


(か、可愛い…なんだ、この子は…)


 そして着替えて出て来た、女の子の名札には


 《ロッシー》


 と書かれていた。


(あ、やっぱり日本の子じゃないんだ…)


「それじゃ!今日も1日頑張りまーす!」


 と言って、コンビニ店内へと出て行った。


 ― 数分後 ―


 翼は、焦っていた。


「や、やべぇ…コンビニ店長って…何すんの…」


 灰色の机に向かい、資料やらを見ている。


 《ここで解説しよう!》

 翼の頭脳は、興味の無い事には動作しない仕組みなのだった。


(とりあえず表、出てみるか…)


「いらっしゃいませー!」


 レジにロッシーちゃんと、もう1人、男の子がお弁当やパンを棚に並べている。


「お疲れ様、調子どお?」


(て、店長って…こんな感じ、かな?)


「え?!あ、はぁ…別に、普通っす」


(な、なんだ…作業中、急に声掛けたのがダメだったのかな…)


「あ!ご、ごめんね!作業中に声掛けて…が、頑張っ!あ、いや、なんか手伝おうか?」


「ええ!キモイっすよ!店長!どしたんすか!?俺、なんかしました?!」


「ええ!なんで手伝うって言ったのに、そんな反応?!」


 翼は、黙って事務所に戻った。

 事務所の窓から、外を除くと、さっきの男の子がレジに行って、ロッシーと何やらコッチを指さし話していた。


(な、何…言われてんだろ。俺。)


 するとロッシーちゃんが、こちらに向かって歩いて来ている。

 翼は慌てて、椅子に座りペンを握って、わけのわからない資料を開く。


「う、うーん。わからんなぁ…わかるんだけど、わからんなぁ…」


 などとブツブツ言っている。

 ロッシーが、事務所に入って来る。


「あ、あの…店長…」


「はっ!はいっ!!なんでしょうか?!ロッシーちゃん!」


 翼は勢いよく起立し、そのままの体勢で、後ろを向く。


「あ、あの…帰らないん、ですか?」


「え?」


「いつも私が来たら、帰ってますよね?店長…。今日は何か他に用事ですか?何かあれば手伝います。あと田所君が、怯えてましたよ。気持ち悪いって…」


(か、可愛い~!けど、最後の本人に言っちゃダメなやつだからね!ロッシーちゃん!)


「あ、いや…そのぉ…じゃ、帰ろう、かな?」


「あ!はい!どうぞ。後は私たちにドーンと、お任せして下さい!」


 そう言ってロッシーは、胸を張り、両手を腰に当てるポーズをする。


(漫画みたいな子だな…この子…)


 そこで翼は、我に返る。


(帰るって…ど、何処に…?)


 帰ると言いながらも、突っ立っている翼に、ロッシーは店長のカバンを手渡す。


「はい!本当に大丈夫ですか?それか、私たちに任せて帰るのが、そんなに心配ですか?確かに、私はまだここで働いて日は浅いですけど…。田所君、ベテランさんってヤツだし!ささっ!今日はもうお休みして、明日また元気に来てください!」


 そう言って、ロッシーは翼の背中を押して、事務所から押し出す。


(こ、こんな風に、人を押して来る子…ホントに居るんだぁ…!!)


 翼の感覚は、少しズレていた。


 外へ出ると客がレジに並んでいる。


「ロッシーちゃん!レジお願いしまーす!」


「はーい!それじゃ、店長!お疲れ様です!」


 そう言って、レジへと走って行くロッシー。その途中、並んでる男性客に声をかけられている。


「ロッシーちゃん、今日も可愛いし、元気いいねぇ!」


「オジサンもイケてるよ!お並びの人~コッチどーぞー!」


(…なんなんだ、あの子は…)


 翼はそう思いながら、邪魔してはならないと思い、そそくさと外に出る。


 が、途方に暮れた。


 知らない町、知らない場所。

 自分の家すら分からない。


 しかし翼はふと思いつき、自分が持ってる鞄を、コンビニの前の椅子に座って確認する。


(あった…)


 鞄から財布を取り出し、中を確認する。


(ポイントカードに…キャッシュカード…ポイントカードに、ポイントカード…あ、あった!)


 そう言って見つけたのは、免許証だった。

 馬一 翼。と書かれた住所が、記載してある。翼は、鞄の中からスマートフォンを取り出し、その住所を調べる。


(へぇ…ここが俺の、家なんだ…)


 翼は、ふと自分の手を見た。


(指輪は…無いな…結婚はしてなさそうだ…)


 そして翼は、スマホのナビを頼りに家へと帰る。

 歩いて10分程、とナビは告げる。


 帰り道の途中、道路の脇に、花束が置いてあるのに気付く。


(事故…かな…)


 そしてすぐ横にも、花束が置いてあり、その横にも小さい花束が置いてある。


(ええ!?どーゆー事?!)


 しかし翼は、それほど気にせずにと言うより、帰ることに集中していた。


(な、何としても、家に辿り着かねば…)


 歩く事、20分。

 翼が住む、マンションらしき場所へと辿り着く。翼は自分の免許証と、マンション名を交互に何度も見返す。


(よ、よし!あ、合ってるよ…な?)


 そして自分のズボンのポケットを漁り、鍵を取り出す。

 10階建てのマンション。オートロックだ。インターホンに備え付けてある鍵穴に、自分の鍵を差し込む。


(よっしゃ!刺さった!!)


 ガッツポーズをとる翼。

 回すと、扉が開く。


(な、なんで自分の家に帰るのに、こんな疲れなきゃなんねぇんだよ…帰ったらとりあえず風呂入ろうっと…)


 そして、自分のマンションの部屋の前まで辿り着く。


(802…こ、ここだよな…)


 鍵を差し込み、回す。

 鍵が、解除される音がする。


(フフッ…俺にかかれば、こんな鍵なんてイチコロだぜ…)


 もはや意味不明であった。

 ドアをゆっくりと開けて、中を覗く。


 すると、玄関の先の扉の向こうに明かりがついていた。


(え?!誰かいるのか?!)


 そう思って、聞き耳を立ててみるが、物音はしない。


「なんだ、俺がつけて出てたのか…もったいねえ奴だな。俺は。」


 そう言って、靴を脱いで部屋のドアを開ける。

 10畳ほどある、リビングが広がる。

 そしてドアの隣には、すぐキッチンがあった。


 喉が乾いていた翼は、冷蔵庫を開け、お茶を取り出し、グラスに注ぐ。

 それを飲みながら部屋を見ていると。


 お茶を霧のように、吹き出した。


 その視線の先には、ソファがあり、その上に見知らぬ少女と、子犬が寝ているのである。


(うぇ!えええええっ!!な、なんで?!結婚してるの?!え?!ここ、俺の家なんだよね?!間違えた?!いや、鍵は開いたし…てか、奥さん?!奥さんは?!)


 そう思って、2LDKの部屋を走り回る翼。中を見て、明かりをつけ、クローゼットを開け、ベランダも見る。


(ほ、他には誰も居ない…共働きなのか?)


 またリビングへ戻る、翼。

 すると声が聞こえる。


「お帰りなさい…パパ」

「きゃわん」


 眠そうに目を擦りながら、こちらに歩いて来る少女と、子犬。


「…た、ただいま…あのぉ、ママは?」


「え…ママ…?」

「きゃうん?」


(ん、何だか思ってた反応と違うぞ…これは…もしや…)


 少女の目が、じわじわと涙ぐんで行く。

 子犬が少女の周りを、グルグルと回っている。


(や、やばいぞ!これは?!)


「うええええん!ママぁ~!!」

「きゃわ~ん」


 少女は、大声で泣き出してしまった。

 何故か犬も吠えている。


「お、おー!よしよしよし!ほらぁ!パパだぞぉっ!!」


 そう言って翼は、少女を抱き上げる。

 すると少女は、泣き止んで、パパの首にしがみつく。


(ね、ねぇ、苦しい、首が苦しい…)


「パパだぁ」

「きゃわん」


 少女は、喜び子犬は足にしがみつく。


(この犬なんなんだよ…)


 2人と1匹は、夕飯を食べている。

 翼が、冷蔵庫にあるもので作ったようだ。


「…ところで娘よ。名は何と申す…」


 出来る限り、自然に名前を聞き出そうとした翼だが、完全に裏目に出る。


「なんともうす?…何それ?」


「あ、え?ご、ごめん。名前はなんて言うの?」


「私は美月って言います。オジサンは?」


「オ、オジ…えーと、パパは翼って言うんだよー覚えてねぇ、あとオジサンじゃないからねぇ」


「翼って言うんだ。さっきは寝ぼけてパパだと思ったけど、よく見たら違ったの」


「え?!何それ?!複雑!!」


「それに…パパとママの顔も…分からないの…」


(いやいやいや、こ、これは、参った。まさか孤児の子を引きとって育ててたんじゃねーだろうな、俺)


「そ、そっか!パパも…」


(ん、俺の…親…?)


「…思い出せない…」


「えー!パパもなのぉ?ママは?」


「知らない…」


「じゃぁ!美月と一緒だね!」


「え?!あ、ああ…そっか!一緒だな!俺たち!」


「きゃうん!きゃうん!」



 こうして馬一家が、誕生した。


 何も思い出せない父親と、何も分からない娘、あとやたら空気を読む子犬。


 奇妙な一家の、生活が始まる。







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