徳レベル2
気付くと、翼は踊っていた。
「ンボボッフッンッボボッ」
周りは色の黒い、アフリカ人の様な人達だった。
翼は自分の身体を見ると、同じように真っ黒で、身体には、白い線がいっぱい入っている。
そして腰には、干し草で作ったスカートの様な物を巻き、股からはマンモスの牙の様な物が伸びていた。
巨大な火を、囲み50人ほどの似たような格好をした男女が、輪になって踊っている。
(え?なにこれ?なにこれ?)
そして、出発地点から1周して来た頃だった。
巨大な火の奥を見ると、祭壇の様な物があり、その上に縛られた、色の黒い少女と子犬が居た。
(わ、なんか少女と子犬がいる…)
すると突然、踊っていた周りの男女は、ピタリと止まる。
「ンボボッフッンッボッえ!急に止めないでよ!恥ずかしいじゃん!」
翼も、同じように踊りを止めて整列する。
顔が黒いから分かりずいが、赤面していた。
すると後ろから、棒の様な物で、翼はつつかれる。
(ん?え?!な、なに?!押さないでよ!痛い、痛いってば!!)
「ンボッ!ンボボンボン!!」
石で出来た椅子に座る、少し歳をとった男が、翼に何かを言っている。
察するに、長老だろう。
「ンボ!ンボボ!」
(やべぇ…何言ってるか、全然分かんねぇ…)
その間も、棒の様な物で、後ろに居る人達がつついて来る。
(だから、それ止めてってば!)
《ここで解説しよう!》
翼の英語の成績は、学生時代10~15!
グローバル性は、ほぼ0なのであった!!
そして、どんどん翼は祭壇の方へ、つつかれて行く。
(げ!近づくと結構熱い!あの女の子と子犬、よく寝てられんな!!)
この時、不思議な事が起こった。
突然、翼の脳みそが熱くなり、この民族が話す言葉を理解出来る様になったのだ。
(え、分かるぞ…)
「早く!その!少女と犬を!食え!!」
結構、ショッキングな内容だった。
そして、ニッコリ笑って、長老はこう続ける。
「焼いて!食っても!いいぞ!」
(そぉーゆぅー問題じゃねえぇぇぇぇぇぇっ!!!何だよ!なにこれ?!え?俺、今までどーしてたっけ?!食ってた?これなに?!いや、言葉分かるけど、意味分かんねぇ!!)
そして、つつかれるままに、少女と犬の目の前まで来る翼。
(う、うぇ~。食えない食えない!食えないです!食えないってば!!)
「食えないってばよ!!」
テンパり過ぎて、気持ちが声に出てしまった。
そしてついでに、偉大なる火影様の語尾を真似てしまった。
(え!ねぇ?!これ著作権ひっかかるやつ?!引っかかるやつ?!特許?特許とかとってない?!)
その時だった。
長老が口を開く。
「今日!成人!ツバサ!食わない!私たち!食う!!」
「食っちゃダメってばよ!!」
2回目である。
するとすぐに、翼は少女と子犬を、抱いて森の中へと駆けて行く。
(てか、めっちゃ寝てんな…あんな騒いでたのに…)
しかし、そこそこ都会暮らしの翼は、森での暮らしに慣れていなかった。
森へ入って1分。
派手にすっ転ぶ。
股にそびえる、象の牙の様な物が、地面に刺さり身動きがとれない。
抱えてた少女と犬は、飛んで行き、先にある岩に頭をぶつける。
「ええええええええええええ!!!」
そして後ろから追ってきた、謎の民族の槍で、胸を刺されて、翼は息絶える。
― 数分後 ―
翼は膝を抱えて体育座りをしていた。
顔を、膝に伏せている。
「な、なんだよアレ…なんなの…」
1人ブツブツと何かを呟いている。
翼の頭の数字は『2』になっていた。
それを女神アルテアは、引きつった表情で眺めていた。
隣りで寝ていた、少女と子犬は目を覚ます。
「…ん、あ、あれ?またここだ…」
「きゃうん?」
(いや、寝てて良かったよ…ホント)
そしてまた、アルテアは杖を地面に叩きつける。
「なんなんですか!あなたは!!」
「いや!お前がなんなんだよ!!あ…女神は、何なのでございます…くぁ?!」
2人は、睨み合っている。
その時、女神が降臨する。
「…ケ、ケンカは…ダメ、なんだよ?」
「きゃわん」
その潤んだ瞳、手を組み、祈るような様。
まさに、1人の聖童女が爆誕した瞬間だった。
女神と翼は肩を組みながら、少女に駆け寄り、仲の良さをアピールする。
「ほら!お嬢ちゃん!笑顔!笑顔よ!女神は私!ほら!ケンカなんかしないから!」
「な、泣かない!女は愛嬌!俺は素っ頓狂!なんちゃって!」
「なんですか、それ!子供に分かるワケないでしょ!バカなんですかアナタ!?」
「バカなんだよ!バーカ!俺がバカじゃなけりゃ誰が馬鹿なんだよ!」
そしてまた睨み合う2人。
「う、うえ…」
「きゃわわん」
泣きそうな少女を、ジョージがペロペロ舐めて、慰めている。
「あ!そーだ!名前!俺、まだお嬢ちゃんの名前聞いてなかったわー!あはは!」
「そ、そうね!まだお互い自己紹介が、まだだったわね!んもう~アタシったら、おっちょこちょい!テヘッ」
2人はまた、肩を組み、仲の良さアピールをしている。しかし、見えない後ろで、足の踏み合いをしていた。
「私の名前は、美月よ。よろしくお願いします。あとこっちは、うちで飼ってるジョージ。よろしくお願いします」
「きゃわん!」
(か、かわいい…)
(か、かわいい…)
「えー、ゴホン!いいですか?皆さん。私にも管理者としての立場があるんです。このままだとゼウス様に怒られてしまいます。今までのは無かった事にしましょう」
「は、はぁ…」
「はぁい!」
「きゃわん!」
そう言って、アルテアはまた杖を天高く掲げる。
「いや!待て待て待てーい!何を普通に転生しようとしてんじゃい!」
「え?もう地球に未練はないでしょ?2回も間違いとはいえ、地球に送ったんですよ?あなたは強欲の壺ですか?」
「誰が壺じゃい!」
そして、女神は天高く…
「だから話を聞けよ!俺はみんなの傍に!居たいの!分かる?!日本語通じてます…くぁ?!」
「もう、じゃあ、どーすればいいのよ…」
「戻して!日本に!あんな良く分からない所じゃなくて!日本に!」
「そんなお願い聞き受けられません!」
その時だった。
真の女神が、女神へ祈りを捧げるのは。
「美月も、おうち…かえりたいな…」
「きゃぅ」
その潤んだ瞳、そして慈悲を女神へ祈る様に、アルテアは、昇天した。
― 数分後 ―
「あ…危なかったわ…女神としての威厳が…」
(もう無いけどな)
「そこ!聞こえてんぞ!!」
「ひぃっ!」
翼は、女神に睨まれる。
「仕方ありません。私もミスを犯しました。その償いとして、あなた達が亡くなった場所の、近くへ転生させましょう」
「え?!マジで?!初めて見直した!初めて見直した!女神様!なむなむなむなむ…」
翼は女神アルテアへ、手をマッハで擦りながら合掌する。
「わーい!ありがとう!女神さま!」
「きゃうんきゃうん!」
そして、女神は天高く杖を掲げ転生の儀を行う。
「行きますよ!異世界転生っほほいのほいっ!」
そして翼と美月とジョージは、黒い空間で意識を失って行く。
女神は思っていた。
(元々居た世界に戻すのに、異世界転生で良かったのかしら?)
翼は気付くと、事務所の様な所に居た。
ジュースが沢山並び、折りたたまれたダンボールが沢山置かれ、灰色の机が2つある、狭い部屋だった。
(えーと…俺は…なんだっけ?)
転生後、過去の記憶は無い。
そして張り紙には
― HISON 虹之町店 ―
と書かれていた。